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金正恩に非核化の意思なし

コリア国際研究所 朴斗鎮
2019.3.28

ジャパン・インディプス 2019/3/6、2019/3/11 掲載記事

 第2回米朝首脳会談が2月27日~28日にベトナムのハノイで開かれた。この会談に臨むために、北朝鮮の金正恩委員長はなぜかしら片道60時間以上もかけて列車で往復した。23日に行われた平壌駅での「見送りセレモニー」は、あたかもトランプ大統領に「核保有」を認めさせたかのような騒ぎぶりだった。翌日24日の労働新聞は、昨年のシンガポール会談時とは異なり、早々とこの「出陣式」を1面で大々的に報道した。今回の米朝首脳会談で「米国と合意」が成立するとみていたからだ。朝鮮中央通信は2月28日、正恩氏が「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くすという意義深い言葉を述べた」と伝えていた。
 だが今回の会談で米国側は、金正恩委員長が本心から「非核化」しようとしているのか、それとも核を保有しながら「核軍縮」を進めようとしているのかを見極めようとしていた。北朝鮮側はこうした米国側の意図については知る由もなかった。韓国にも情報は入らなかった。
 第2回米朝首脳会談の過程で、トランプ大統領は金正恩に非核化する意思がないことを確認した。トランプ大統領は28日の拡大会議で、ボルトン補佐官が提示した「ウラン濃縮秘密施設資料」を見て驚く金正恩委員長の姿を見て、「非核化しない金正恩の意思」を見て取った。そして北朝鮮の主張する「朝鮮半島の非核化」が「核軍縮交渉」を意味するものと理解した。
 トランプ大統領は、金正恩と文在寅の「非核化ショー」に引きずられ、第1回会談では罠にはめられたが、第2回会談では安易な取引に反対する米国議会や情報機関などの警告もあって慎重に対峙した。
 今回の会談での成果は、一言で言って北朝鮮に非核化の意思がないことをトランプ大統領が確認したことだと言える。

1)「真実のとき」を迎えた二日目の拡大会議

 2日目(2月28日)の拡大会議では、米国側メンバーとして新たにボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が参加した。彼はトランプ大統領のある思惑でエアーホースワンには同乗せず個別にハノイに来ていた。北朝鮮が核交渉のスペシャリストで強硬派のボルトンを警戒していたからだ。
 そのボルトン補佐官が拡大会議で北朝鮮が隠蔽してきたウラン濃縮施設の決定的証拠を提示したのである。ボルトン氏は、北朝鮮が隠蔽していたウラン濃縮施設の否定できない証拠(秘密のウラン濃縮設備の写真と見取り図など)を提示した。一説ではそこに衛星写真以外のヒューミントによる証拠も含まれていたという。これによって金正恩が主張する欺瞞的「非核化」は「真実のとき」を迎えることになる。

  中央日報3月5日報道では米国が提示した新たな地下ウラン濃縮施設は降仙(カンソン)ではなく寧辺の北西に隣接する分江(ブンガン)地区だとしている。

 提示された施設の存在について質問された瞬間、金正恩は顔をこわばらせ返答に窮した。それを見た李容浩(リ・ヨンホ)外相は、すかさず会話に割って入り「ここでやめましょう」と会話を中断させた。
 最高尊厳の「神」である金正恩委員長の発言を待たずして李容浩外相が割って入るというのは、北朝鮮ではあってはならない行為だったが、あえてそれを行わなければならない重大な局面だったということだ。もしもそこで金正恩が発言を続ければ、それが否定であれ肯定であれウソをついてきたことがバレることになり、北朝鮮体制が揺るぎかねない事態を迎えるからだ。
 寧辺核施設を破棄したとしても、この秘密地下ウラン濃縮施設と破棄目録から除外した「3重水素製造施設」を結びつければ「水素爆弾」を製造することができる。北朝鮮は、ポンコツ施設の破棄で制裁を解除させた後、秘密裏に「水素爆弾」の開発を続けようとしていたのである。
 こうして第2回米朝首脳会談は終わることになった。金正恩の本心を確認したトランプ大統領が会談の席を立ち去ったからである。

2)米国は安保理制裁の効果も確認

 北朝鮮が今回の会談で、寧辺核物質生産凍結・破棄の対価として強く求めたのは、終戦宣言や平和協定ではなく、2016年以降の国連制裁決議である2270(2016年3月)、2321(2016年11月)、2371(2017年8月)、2375(2017年9月)、2397(2017年12月)の解除だった。これらの制裁を解除させ体制を立て直せば終戦宣言などはいつでも手に入れることができると踏んでのことだと思われる。
 北朝鮮の制裁解除に対する強い要求によって、トランプ大統領は、国連安保理制裁が北朝鮮経済を疲弊させているということをあらためて確認するとともに、対北朝鮮交渉の強力なカードだということも確信した。
 安保理が2006年以降に採択した北朝鮮関連の主な決議は11件ある。しかし2016年までの5件は大量破壊兵器に使われる物資を中心とした制裁だった。
 2016年1月以降の度重なる北朝鮮の核・ミサイル実験に対応し、2017年末までに課した制裁は6件であるが、旅行制限に関した1件を除く5件は、北朝鮮経済を直撃した。その主な内容は、原油の輸入制限、農水産物および繊維の輸出と労働者の出稼ぎ禁止、新規投資と合弁の禁止だった。
 5件の中でも特に2017年8~12月の三つの決議が核心である。それは、北朝鮮の命脈を握るエネルギー源と外貨獲得源の徹底的遮断を目指していた。ガソリンや灯油など石油精製品の輸入量を450万バレルから50万バレルと9割減まで制限し、石炭、鉄、鉄鉱石、海産物の輸出を全面禁止した。北朝鮮労働者を受け入れている国に対しては2年以内(今年11月)の本国送還を求めた。

3)金正恩の権威失墜で北朝鮮体制に大きな痛手

 北朝鮮の朝鮮中央通信は3月3日、金正恩委員長が、ベトナム・ハノイ訪問の結果について「満足の意」を示し、専用列車で帰国の途に就いたことを報じたが、米朝会談の決裂については報道しなかった。米朝会談の失敗をベトナム政府の歓待宣伝で糊塗(こと)するほかなかったようだ。金正恩委員長の帰国列車は中国を最短で北上し、3月5日午前3時に平壌駅に到着した。労働新聞は「わが党と国家、軍隊の最高領導者の金正恩同志がベトナム公式親善訪問を成果的に終え、祖国に到着した」と報じ、平壌駅に到着した写真を掲載した。
 トランプ大統領と金正恩委員長による2回目の米朝首脳会談が決裂したことで、金正恩委員長の権威は傷つきトップダウン外交は破たんした。首脳の合意を引き出しその上で細かい内容を詰める形の「トップダウン外交」は、首領独裁制の北朝鮮にとって極めて危険な手法であったが、金正恩委員長の野心と焦りがそれを強行させ、結局その権威に大きな痛手をもたらした。
 1994年のジュネーブ合意、2005年の6者協議合意などと異なるやり方で金正恩体制を盤石にしようとした金委員長の冒険は完全に裏目に出た。トップダウン方式は最終的に指導者の力量に依存するところとなるが、未熟な金正恩ではまだ無理だったようだ。
 金正恩委員長はトランプ大統領の弱みにつけ込み、包括的な制裁緩和を勝ち取ろうとしたが、米国の権力システムや国内状況にあまりにも疎かったたようだ。米国は韓国などとは違い、大統領に対する議会の牽制もあり国益重視で動く官僚たちも多い。また言論の自由も保障されマスメディアの活動も活発だ。
 第1回米朝首脳会談では、トランプ大統領の個人プレイによって金正恩委員長があたかも熟達した指導者のように映ったが、具体的問題での真剣勝負になるとやはり30代の未熟なリーダーに過ぎなかった。

金正恩の怒りの矛先は

 金正恩委員長はいま怒りに震えているに違いない。その怒りが新たな失策を呼ぶ可能性は十分考えられる。問題はその矛先だ。
 まず責任転嫁のために幹部の誰かをスケープゴートにするだろう。そうした粛清に米朝合意決裂の情報流入が重なれば予想外の事態に発展する可能性がある。早くも労働新聞は「金正恩中心の一心団結」を強調し始めた。
 次に米国に対する復讐だ。今のところすぐには対決路線に出ることはないと思われるが、新年辞で語った「他の道」の模索に入るかも知れない。
 そして文在寅政権の利用だ。今回の米朝会談決裂で打撃が大きかった文在寅大統領だが、相変わらず金正恩擁護の発言を繰り返している。金正恩委員長は文在寅政権に米国から得られなかった対価の補てんを要求してくるだろう。少なくとも開城工団と金剛山観光の再開は求めるはずだ。北朝鮮第1主義の文在寅大統領もそれに答えるために、さらに様々な悪知恵を巡らすと思われる。だが、それは韓国民の反発を呼び起こしことになり、政権のレイムダック化を深めるだろう。
 朝鮮半島情勢は、平昌五輪以後の「和平モード」から反転し再び「緊張モード」に逆戻りする可能性が出てきた。第2回米朝首脳会談の決裂は、東アジア情勢に新たな局面を作り出している。

以上

 
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