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「核実験の計画はなかった」と主張する北朝鮮、その背景は?

コリア国際研究所 朴斗鎮
2012.6.1

 北朝鮮外務省報道官は5月22日、核実験と関連して「われわれは初めから平和的科学技術衛星の発射を計画していたため、核実験のような軍事的な措置は予定していなかった。衛星発射を問題視する米国が『核実験』説を云々しながら対決を高めている」とする一方、「われわれの自衛的な核抑止力は米国の敵対視政策が続く限り、中断することなく拡大・強化される」とも主張した。この主張は、G8首脳会議(キャンプデービッド・サミット、19日)で、核実験など新たな挑発行為を中断するよう北朝鮮に警告が発せられたことに反応したものと見られる。
 北朝鮮の「核実験の計画はなかった」との主張に対しては、「核実験の兆候を見せつつも、実行に移せていないことに対する一種の“言いわけ”」との解釈が、また「核抑止力は米国の敵視政策が続く限り、中断することなく拡大・強化される」との主張に対しては、依然として核実験を続けるとの意思表示との解釈ができる。こうした主張に対しては「北朝鮮の核実験準備は終了した。政治的判断が残っているだけ」とする分析が多数を占めている。
 事実、北朝鮮が2006年と09年、1、2次核実験を実施した咸鏡北道吉州郡の核実験場の衛星写真を見る限り、準備はほぼ完了したものと判断される。今年の4月に改訂された憲法に「核保有国」と明記していることからもわかるように、核兵器が生存戦略となっている北朝鮮政権は、過去、政治経済的効果を極大化できる時期を選んで核実験を行なってきた。いまはその時期を推し測っているものと思われる。
 しかし、「核実験の計画はない」とする一方で「米国が敵視政策を続ければ核抑止力を強化する」というような条件付の主張はこれまでに見られなかった「意思表示」のやり方である。そこには長距離ミサイル発射後の中国の態度や国際的非難の高まり、そして金正恩政権の力不足と食糧難の深まりなどが関係しているように思える。

1、北朝鮮が核実験を「留保」している直接的要因

ミサイル(ロケット)発射失敗による影響

 核実験が威力を発揮する上で長距離ミサイルとの関係が重要になってくるのだが、今回ミサイル(ロケット)発射に失敗したため、核実験による政治的効果は半減したといえる。
 北朝鮮の当初目標は、2012年に長距離ミサイルと核実験を成功させることで米国に対する決定的ショックを与えることであった。米国本土に到達する核ミサイル保有を誇示することで、米国を力ずくで引き寄せ、核軍縮に持ち込み、「平和協定締結」へと進もうとしたのである。この思惑が実現していれば「経済の再生」に必要な「援助」は自然と付いてくるものと計算していた。
 しかし、長距離ミサイル(ロケット)の発射は見事に失敗した。残る選択肢は核実験を強行するのか、それをちらつかせながら有利な局面を作り出すのかであったが、金正恩体制の力不足から現在の時点では「強硬策」は不利と判断したようだ。
 北朝鮮は4月の太陽節(金日成の誕生日)記念行事と長距離ミサイル発射に天文学的な統治資金を投入し、経済事情は悪化している。これに加え、形式的には権力承継を完了させたが、なお民心の離反など体制不安要素が散在している。最近になって、北朝鮮当局が各種群衆大会を開催し、労働新聞などを通して金正恩に対する忠誠心確保と党・軍基盤組織のシステム復旧、人民生活改善などによる民心回復に注力しているのはそのことの証左である。ミサイル(ロケット)発射の失敗によって、核実験前に対決局面を造成してきた過去とは明らかに異なる状況が作りだされている。

中国と国際社会の圧力

 ミサイル発射直後における胡錦濤国家主席の強い反対意思表明に続き、先月22日、北朝鮮の金永日(キム・ヨンイル)国際書記の訪中と、5月8日の中国国際友好連絡会の李肇星親善代表団長訪朝の際、中国は核実験を強行すれば経済支援が難しくなると警告したことが伝えられている。
 今まで「血盟」中国からの支援を受けながらも、その「警告」を無視した形で「核実験」を強行してきた北朝鮮ではあるが、金正恩体制が磐石ではない状況では中国の警告を無視できないようだ。
 韓国京畿開発研究院の孫光柱(ソン・グァンジュ)専任研究委員は、「中国の強い反対により、核実験を思いとどまっているようだ」と分析した。高麗大学のユ・ホヨル教授も「中国の激しい反対に直面した状況で、核実験を強行する場合、利益より損失が大きいとの判断をしたのでは」と分析している。
 また北朝鮮としては権力承継を完了した金正恩の訪中も、考慮の対象にあるものと思われる。核実験を強行する場合、外交的効果を極大化できる訪中(金正恩の初の外交舞台デビュー)が水の泡となる可能性が高い。
 北朝鮮が、核実験を「留保」している他の要因としては、米国など国際社会が連日にわたり、核実験を急行すれば強い制裁と孤立に直面するだろうと牽制していることがある。米国側の6カ国協議主席代表である米国務部グリーン・デービース北朝鮮政策特別代表はG8後の21日、「北朝鮮が核実験など新たな挑発行為を行うなら、国際社会の共通した行動を目の当たりにするだろう。国連安保理が再度招集されるなどの迅速で強力な措置がとられるだろう」と強調した。こうした圧力は金正日時代とは異なり、権力基盤がぜい弱な金正恩政権にとって負担となっていることは間違いない。

2、米朝合意継続への期待も「留保」の要因?

 しかし米国はこうした圧力を加える一方で、北朝鮮に対して米朝合意継続の期待も抱かせている。国連安保理制裁を声高に叫びながら、結局北朝鮮3企業の制裁にとどめたり、ニューヨークチャンネルをそのまま稼動させているだけでなく、ミサイル発射の直後に米国高官を極秘訪朝させたとの情報も流れている。
 一方、北朝鮮は最近、非公式の外交ルート「ニューヨークチャンネル」を通じ、国際社会が懸念する3度目の核実験を留保する立場を米国側に伝えたようでもある。
 北朝鮮外務省報道官は22日、主要8カ国(G8)首脳が共同声明を通じ北朝鮮に核実験の中止を求めたことに対し、「朝鮮半島の平和と安定を保障するため、米国が提起した懸念事項も考慮した上で、われわれは朝米合意の拘束からは抜け出すものの実際の行動は自制しているということを、数週間前に米国側に通知した」と述べた。
 こうした流れの中でデービース特別代表は、韓国と中国、日本を回り、核実験を含む北朝鮮の追加措置の可能性や国際社会の北朝鮮制裁問題、米朝合意の履行再開の可能性など、主要懸案に対する協議を進めた。
 米国は、北朝鮮がさらなる挑発行為を取らなければ、人道的な観点から北朝鮮への食糧(栄養)支援をする用意があるとみられる。現地の消息筋は「北朝鮮が核実験を自制すれば、中国の仲裁努力のもと、中断されていた北朝鮮核問題の交渉が再開される可能性がある。米中協議後の北朝鮮の態度が最も重要なポイント」と話した(聯合ニュース2012/05/23 )。

3、「留保」の背景には食糧難拡大と黄海道の旱ばつ

 北朝鮮が核実験を「留保」している背景には最近深刻さを増している「食料難」が背景にあるようだ。

喪中による市場閉鎖が食料難を増幅

 北朝鮮の5〜6月は春窮期である。麦が収穫されるまで食料は底をつく。断続的に伝えられてきた黄海道の食糧難は、最近になり餓死者の増加と農場員の栄養失調をもたらし深刻さが表面化している。
 黄海北道の消息筋は最近のデイリーNKとの通話で「住民が飢餓に苦しんでいるにもかかわらず、当局は食糧が尽きた世帯に餓死しない程度にトウモロコシの粒を1〜2kg緊急配給しただけ。状況の深刻さに比べて当局の措置が余りにも不十分なため、住民は他地域の親戚に助けを請うため土地を離れている。新溪郡のとある地域だけでも児童と老人6人が餓死した。当局は困難を克服しようと扇動するばかり。米を配給しないまま中央党は視察ばかりしており、住民の不満が高まっている」と伝えた。
 黄海南道海州の消息筋は1~3月中旬の海州及び近隣地域の状況を詳しく伝えた。それによると「1~3月の間に海州地域と近隣地域で農場ごとに数十名の栄養失調者が発生した。農場は緊急対策をとったが余り効果がなかった。4月以降は農場ごとに10名程度が餓死した。開城周辺の前線軍団(軍事境界線1、2軍団)の将校らも栄養失調にかかるほど食糧難が深刻」とのことである。
 黄海道の食糧難の原因は@昨年の水害発生により生産量が減少したこと、A収穫期に軍人が農場を管理する過程で生産量のほとんどが軍糧米と首都供給用に送られたこと。Bさらに金正日死後の哀悼期間中(3・25まで)、市場が禁止されたため住民が食糧を入手する術が奪われたことなどがあげられる。
 消息筋は「金正日死後、閉鎖されていた市場は金正恩の指示で6日ぶりに再開されたが、旅行証明書の発給は中断されたままで海州地域は事実上孤立状態だった。農作業ははかどらず、わずかな食糧までも軍隊と首都に送った」と伝えている。
 黄海南道、江原道など北朝鮮の前線地帯は「前線地区出入証」がないと出入りができない。黄海南道の白川郡、青丹郡、甕津郡、板門郡、江原道の平康郡、板橋郡などがこれに該当する。
 消息筋はまた「黄海南道の農場員らは集団で餓死し、1ヵ月に15件もの殺人事件が発生した。10日以上何も食べないと人間が犬に見えるなどといった噂まで流れた」と話した。
 アジアプレスの石丸次郎代表はデイリーNKとの通話で「黄海道地域の食糧難が深刻という証言が後を絶たない。単に状況が厳しいという次元を超え、餓死者が発生している現実は注意が必要」と指摘した。
 そこにいま50年来の「旱ばつ」が追い討ちをかけているのである。

黄海道の「旱ばつ」が深刻化

 食糧難に追い討ちをかけるように、今年は穀倉地帯の黄海(ホァンヘ)道が旱ばつに見舞われている。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は5月21日、北部の両江道と慈江道を除く大部分の地方で日照りが続いていると報じた。24日には、全国的に40日以上雨が降らず、40%の農地で被害が出ていると報じた。また4月末から、全国のほとんどの地方で観測史上最も高い気温を記録するなど高温現象が続いているとも伝えた。このため土壌湿度は65%未満という非常に低い状態だという。干害用貯水池の平均貯水率は55.4%で、中には0.5%にすぎない貯水池もあるとしている。
 特に西海岸の中部地域は被害が深刻で、数万ヘクタールの畑でトウモロコシが枯れるなどの被害が報告されているということだ。雨は来月上旬まで全国的に降らない見込みで、被害はさらに広がる恐れもあると伝えている。
 日照りの要因については、北部の冷たい空気が南下しない状態が続いている上、暑くて乾燥した空気が入り込んでいるためとした。6月中旬まで現在の天候は続くと予測し、西海岸を中心に大部分の地方で雨がほとんど降らず高温の状態が続くとした。
 労働新聞は5月27日付で、全国各地で田植えが始まったと報じるとともに、日照り被害を防ぐために必死に闘争していると伝えた。同紙は25日付で、深刻な日照りが続きトウモロコシの植え付けや田植えに被害が出ており、植え付けが終わった小麦やジャガイモなどにも影響が出ていると伝えている。
 こうした報道には米国や周辺国からの人道援助を呼び込む狙いもあると思われるが、金正恩政権が食糧問題で困難に直面していることは確かである。

以上

 
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