コリア国際研究所
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朝鮮総連指導部は退陣すべき
人権と民主主義の抑圧者たち

2003.8
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

昨年9月17日の「金正日拉致謝罪」以降、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)指導部の反人権反民主主義の正体が余すところなく暴かれた。その結果、一般同胞の金正日に対する不信、指導部に対する責任追及が拡大し朝鮮総連はいま「結成以来の深刻な危機」を迎えている。
中堅幹部からの突き上げと一般同胞の急激な離脱、各地で急増する韓国籍への切り替え、民族学校の衰退、資金の枯渇、日本当局からの締め付けとどれを取っても深刻なものばかりだ。朝鮮総連指導部は、それでもなお独裁者追随をやめず、人権と民主主義の抑圧者として行動し、在日社会の発展を妨げている。 

さらけ出た欺瞞体質

 朝鮮総連指導部は、人権と民主主義に基づく民族権利擁護という在日朝鮮人運動の原点を放棄し、朝鮮総連を金正日の私組織に転落させた。にも関わらず、同胞を欺き、いかにも同胞の権利擁護と人権擁護の先頭に立っているかのごとく装った。
彼らは「拉致」の真実が解明されていなかったことをよいことに、「日本人拉致」は「デッチ上げ」だの「謀略宣伝」だのと一貫して主張し、同胞と日本国民を欺きつづけた。機関紙朝鮮新報は朝鮮総連指導部の謀略的宣伝とデマを垂れ流すことによって在日同胞の信頼を裏切り「プロパガンダ新聞」、「イエロー新聞」となった。
この人権と民主主義の抑圧者たちは、「金正日拉致謝罪」によって、その「欺瞞体質」が暴露されたにも関わらず、それを素直に謝罪せず、「遺憾」などと他人事のように「弁明」した。 
このあまりにも厚顔無恥な人たちに対して、日本各地の地方幹部と同胞が抗議を重ねているが、彼らは同胞の真摯な声には耳を貸さず、ひたすら責任の回避と独裁者「金正日将軍様」の擁護に汲々としている。
5月9日に開かれた中央委員会拡大会議では、「同胞の意見に耳を傾ける」との美名のもとで、今年の初めから本格的に進めた「不満分子の排除」及び「言論封殺」と「不満のガス抜き」活動を総括し、反同胞的許宗萬・南昇祐体制を強化した。そして金正日の前近代的「妻妾制度」を批判できない「女性同盟」幹部の「副議長就任」と「女性局」創設を目玉に、再び反人権反民主の同胞抑圧に突き進んでいる。
正常な判断力を失ったこの反動集団は「中央突破」だの「隊列が1000人になっても金正日将軍を死守する」などと心にもない言葉を口にして、在日同胞の貴重な財産である朝鮮総連組織を破滅へと導いている。

その変節と堕落の系譜

現在の朝鮮総連指導部が同胞の利害からいかにかけ離れたところにいるか、いかに人権と民主主義に背信しているかを知るためには8・15解放後に大きく高揚した在日朝鮮人運動の原点を振り返り、それがいかなる経緯をたどり変質していったかを見る必要がある。
1945年8月15日、在日朝鮮人は、日本帝国主義のくびきから開放されたとはいえ、その境遇は決して満足の行くものではなかった。大部分の在日同胞は、差別と貧困の中で苦しんだ。
そうした中で自由と平等と民主主義に対する渇望は、民族権利を求める自主的運動のエネルギーとして燃えたぎった。それは何よりも民族の尊厳を守る民族教育の広がりとして、日本全国に燎原の火のごとく広がっていった。在日朝鮮人運動の本質は一言でいってこうした人権と民主主義に基づく民族的権利獲得をめざす運動であったといえる。これが在日朝鮮人運動の原点である。
しかし多くの在日朝鮮人は、自由と平等と民主主義の実現及び差別と貧困の解決を、人権思想を核とする近代民主主義思想に求めるのではなく、マルクス・レーニン主議の中に求めた。当時マルクス・レーニン主議は、第二次世界大戦の戦勝国となったソ連が、東欧圏を次々と社会主義国化する中でその権威を高め、貧しい人たちや、正義感に燃える青年の心をつかんでいった。特にそれは、日本帝国主義植民地支配のもとで苦しんでいた朝鮮民衆の中に大きな影響力をおよぼした。
当時主要な資本主義国は、帝国主義的で、そのシステムの持つ非民主主義的側面が十分に克服されていなかった。そのため植民地の解放や半封建国における民主主義改革で、「土地改革」などを前面に押し出す社会主義勢力に遅れをとっていた。こうして多くの在日朝鮮人は差別と貧困と抑圧からの解放思想としてマルクス・レーニン主義を受け入れ、その手段として社会主義を選んだのである。そしてマルクス・レーニン主義を朝鮮に創造的に適用したと宣伝する「伝説の英雄金日成将軍」の崇拝へと導かれ、「祖国の統一」、「社会主義祖国の建設」の名のもとに、9万3000人もの「帰国者」を生み出し、金日成・金正日独裁政権に利用されることとなった。
この頃、スターリン批判が自分に及ぶことを恐れていた金日成は「主体(チュチェ)の確立」と「事大主義の克服」という名分で反対派幹部の粛清を進めていたが、この帰国運動がそれに利用されたのはいうまでもない。「金日成将軍の歌」を歌い資本主義国日本から帰国するこの大集団と朝鮮総連幹部の彼に対する誇大な賛辞は、反金日成勢力に「忠誠心が足りない」と打撃を与えるに十分な材料を提供した。また、その「人、物、カネ」がその物質的力となったのは明らかである。
こうして1950年代後半から始まった人類史上例のないカルト的軍事独裁への移行は、1967年5月の朝鮮労働党中央委員会第4期第15回全員会議での「首領絶対化決定」で確立した。この会議の決定を受けた朝鮮総連第8回大会(1967・5)は、その組織を金日成の私組織に作り変える大会となったのである。このときから朝鮮総連指導部は、同胞の人権と民主主義の擁護者という立場を放棄し、金日成・金正日だけを擁護する反人権反民主の集団となった。
その後金正日は、1986年9月の朝鮮総連第14回大会で、故韓徳銖議長の権限縮小を図り、財務権限を許宗萬に委譲させることによって自分への権力集中を路線化した。そして同年の「金正日の九月マルスム」によって朝鮮総連を「パチンコ屋」と「不動産屋」に変え、結局同胞の貴重な財産である朝銀信用組合の破綻をもたらした。こうして同胞への奉仕と社会正義の実現という運動の大義は失われ、その堕落と変節が加速される。それは初期には故韓徳銖議長と故金炳植副議長によって、1980年代の後半からは許宗萬体制によってなされた。
現在の許宗萬責任副議長をはじめとする朝鮮総連指導部は、自分たちが金正日独裁の手先に変質堕落し、人権と民主主義の抑圧者となっていることを棚に上げ、在日朝鮮人運動をその原点に戻そうとする民族的良心のある人たちを破廉恥にも「変節堕落分子」と呼んでいる。

戦術としての人権擁護

朝鮮総連指導部の「人権擁護」は、「独裁体制擁護」の隠れ蓑として利用されている。彼らが主張する人権は、世界の人々が主張する普遍的人権ではない。そのことを表す端的な例は、人間の尊厳を踏みにじっている北朝鮮の「強制収容所」問題や、餓死していった数百万人に上る北朝鮮同胞の無念さには思いを寄せないことである。思いを寄せないばかりか、その地獄の状況から九死に一生を得て逃れてきた在日帰国者の脱北者たちに過去の欺瞞行為を謝罪するどころか「罵声」を浴びせ「反民族的」とののしっている。
三月九日、お茶の水の在日韓国YMCA・スペースYで開かれた「在日脱北者証言集会」で在日脱北者白明葉さんは次のように証言した。
「北朝鮮こそは、この地上で存在する価値のない、最も破廉恥で独裁的、非人間的な生き地獄です。
人間の尊厳と権利と自由を空しくし、生存の最も基本的かつ初歩的な手段である衣食住さえ充足できない未開の地です。
お腹が空いて泣く子を殺そうとし、その死体を肉にしてしまう、そんな腐った社会。電気、水道の供給もなく、生きる道を求めて立ち上がった家族が離れ離れになってしまう、そんな社会。(中略)そうした中でも、人民たちは、「将軍様ありがとうございます」と言わねばならず、「社会主義を守らん」「世に羨むこと無し」を歌わなければならない、狂人だけが生きられる生き地獄です。(中略)私はこの場を借りて、世界の良心の前に問いたかったのです。私たちが一体いかなる罪を犯したが故に、何のために、誰のためにこうした苦痛を舐めなければならないのかを」。
この悲痛な叫びを人間の良心で受け止めようとせず「罵声」を浴びせ、面会すら拒否する人たちに「人権」を語る資格があるのだろうか。
朝鮮総連傘下には「人権協会」なるものが存在するが、そこからもこの悲痛な訴えに対する答えは返ってこない。人権の何たるかも知らず、人間の尊厳の何たるかも知らない人たちが「主体(チュチェ)思想」を叫び、それが「人間の尊厳と価値を最高の境地に高めた」と宣伝する神経はまさに「狂気」以外の何物でもない。
朝鮮総連指導部は、帰国者の惨状に目もくれないばかりか、幹部と同胞にも数々の人権侵害を犯している。
「総括」の名のもとに「思想の自由」を剥奪し、自殺未遂者まで出した凄惨、総連指導部に忠実ではないとして迫害と嫌がらせを公然と行う野蛮、子弟を日本学校(高校まで)に進学させたとして左遷、首切りを平然と行う非人間性、リストラの名目で良心的幹部の大量首切りを何の呵責もなく行う破廉恥、こうした行為を平然と行う反人権に彩られた集団が、人権を口にするとはまことに笑止である。老後の蓄えもなく職を奪われた幹部たちはいま「人権協会は我々の人権をなぜ守らないのか」と訴えている。総連指導部が犯している犯罪的人権侵害の数々はあまりにも多く書き連ねればきりがない。
独裁者の手先に堕落変質しているにもかかわらず民族主義を隠れ蓑に、民族的権利だの人権擁護だのと叫んでいる彼らは、自分たちの勢力拡大に利益をもたらさない「人権」には何ら関心を示さずむしろ抑圧してきた。自分たちの「悪事」を糾弾し、反対する意見に対しては、「民族反逆者」とか「変節堕落分子」などと品の悪いレッテルを貼り、同胞から孤立させようと躍起になった。
しかし同胞はすでに、彼らこそ独裁を支持し、同胞の人権と民主主義志向を抑圧する民族の背信者たちであることを見抜いている。
彼らが掲げる人権は統一戦線戦術としての「人権」であり、金正日と自分たちの利益を守る人権であり、決して人類が普遍的に求める人権ではない。

看板だけの民主主義

崩壊へと転げ落ちる朝鮮総連組織を尻目に、彼らは多くの幹部と同胞の民主主義要求にも抑圧の姿勢を崩していない。
近代民主主義は主権在民の政治制度である。したがっていかなる組織も民主主義を実現するにはその組織を構成する大衆が主人となるシステムを構築しなければならない。しかし金日成・金正日の「唯一思想体系」を強要し「首領独裁制」に基づく「中央集権」を組織原則とする朝鮮総連には同胞が主人となる余地はない。民主主義的改革を実現するには金日成・金正日隷属を規定した綱領一条を、同胞が主人となる綱領に変えなければならない。しかし金正日の独裁に寄生して生きている彼らにはそれは無理であろう。
また彼らはこの独裁的中央集権的手法以外民主主義が何たるかを学んだことがない。現在の朝鮮総連指導部は、大部分朝鮮高校や朝鮮大学校の卒業生であるが、そこではこれまで人権や民主主義を教えることはせず、ひたすら金日成・金正日崇拝を教えてきた。
責任副議長の許宗萬は、東京朝鮮高級学校五期卒業生であるが、彼が高校時代に勉学にいそしみ民主主義について研究したという話は聞いたことがない。ただサッカーに打ち込み社交上手であったことは耳にしている。神奈川の民族学校教員を経て就任した朝鮮総連傘下の青年同盟中央幹部時代にも、彼が行動隊長として活躍した話は聞いたことがあっても民主主義理論を語っていたという話は聞いたことがない。
今、許宗萬の下で副議長を勤める南昇祐にしても、朝鮮大学校政治経済学部九期卒業であるが、彼も民主主義について学んだとは聞いていない。大学校まで一貫して民族教育を受けたために、高校卒の許宗萬よりは文章力と朝鮮語に若干長けているが、その要領の良さと権力に対するへつらいは定評のある人物だ。
こうした民主主義が何たるかも知らない指導部は
「独裁的中央集権」を盾に金父子に盲従する上意下達のシステムだけを強化させてきた。同胞の直接秘密投票によって指導部が選ばれたことは一度もなく、すべて金父子の任命で決められ、その他の幹部はその指導部が役職を決めた。
民主主義の基本である情報の公開もなされたことがない。特に重要な情報である財務に関しては一度も公表されたことがない。同胞から集められた資金は決算報告されたことがないのだ。これを説明するのに用いる言葉が、「日本は敵地であるから情報は公開できない」である。そのため1980年代末に発行されたという「朝鮮総連債」で集めた資金の行方が今もわかっていない。こうして大小さまざまな不正がうやむやにされてきた。朝銀信用組合からの200億円に上る不正融資も朝銀破綻による日本当局の調査でやっと最近明らかになった。
また、「日本は敵地」という理由で民主主義の基本である言論の自由も圧殺してきた。幹部が意見を外部に公表すると「利敵行為」としてレッテルを貼り解任や辞任に追い込む。時には「非組織策動分子」として処分したりする。弱体化した最近ですら、開かれた民族教育を主張する組織内の研究グループをそうした名目で弾圧した。
もちろん思想信条の自由や結社の自由もない。それはすべて「唯一思想」と首領独裁を認めた上でないと許されない。そういう意味ではある種のカルト集団だといえる。
民主主義は理念、運動、制度という広範な内容を含むものなので朝鮮総連の反民主主義的行為をここですべて並べることは出来ないが、彼らが人権思想を核とする近代民主主義についてほとんど無知であるばかりかそれに対して敵意すら持っていることは確かである。
しかしこうした反民主主義的手法がいつまでも続くはずがない。すでに一部の地域では中央の人事や指示を拒否する動きが広がっており、その統制は徐々にほころびつつある。それは「拉致謝罪」以降急速に拡大している。

独裁を覆い隠す金正日式民族主義

彼らの変節と堕落、そして独裁支持の本質を覆い隠す手段はいつも「金正日式民族主義」である。彼らは差別に反対し、人権と民主主義を求める同胞の民族的志向を利用して「朝鮮民族第一主義」などという時代遅れで偏狭な民族主義を持ち込み、あたかも民族を愛する集団であるかのごとき錯覚を与え、同胞を欺瞞している。
朝鮮総連指導部は、民主主義と市場経済が世界を覆い、世界が民族国家単位の関係から徐々に抜け出し、ヨーロッパのユーロのように主権と通貨と市場を融合させようとしている時代に、今もなお中世的鎖国政策を維持する金正日独裁体制だけを支持して「金日成民族」「朝鮮民族第一主義」「愛国愛族の旗印」などと「国民国家」を形成する18〜19世紀のヨーロッパの国々ですら使わなかった偏狭な民族主義スローガンを並べ立てている。
わが国にも朝鮮王朝の末期、開国に反対し、キリスト教を弾圧して鎖国と情報封鎖で権力の維持をはかった「大院君」という「外国排斥思想」の権力者がいたが、今の朝鮮総連指導部の「鎖国政策」支持と「偏狭な民族主義」かぶれは、そこに一脈通じるものがある。「鎖国と外国排斥」を「自主と反米」という言葉に置き換え、権力維持の道具に使っているこの欺瞞的手法には、その生みの親である大院君も墓の下で苦笑しているに違いない。
彼らが主張する民族主義は反人権、反民主を覆い隠す道具であり同胞大衆の目をごまかす煙幕であるばかりではない。この「民族主義」は、米国従属のもとで鬱積していた日本のナショナリズムを呼び起こす結果をももたらしている。
民族主義は人権と民主主義に裏打ちされてこそ時代を前進させるエネルギーとなるのであり、人権と民主主義に裏打ちされない民族主義は反動思想と結びつき、必ずもう一つの偏狭な民族主義を生み出し対立の根源となる。
今世界は人権と民主主義の拡大方向で進んでいる。これが社会発展の法則だ。今からでも遅くない、朝鮮総連指導部に真の民族心と人間的良心が残っているなら同胞と運命を共にすべきだ。歴史が金正日独裁に審判を下す日は近づいている。

 
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