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幕を下ろした金正恩・文在寅の北朝鮮非核化ショー

コリア国際研究所 朝米研究室
2018.12.28

 下半期の朝鮮半島情勢も米朝を中心に展開した。
 6月12日のトランプ・金正恩シンガポール後、北朝鮮非核化の具体的措置が協議されるとして、7月6~7日のポンペオ米国務長官の3回目の訪朝が注目されていたが、当初予定されていた金正恩委員長との面会も実現せず、トランプ大統領の親書も直接渡せない外交上の非礼まで味わった。もちろん北朝鮮核兵器のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄)は議論されず、北朝鮮非核化のロードマップすら提示されなかった。
 しかしポンペオ国務長官は、「ワークチームの立ち上げ」、「東倉里のミサイルエンジン実験施設の閉鎖の協議開始」、「板門店での米兵遺骨の返還協議開始」の三点をもって「会議は進展した。交渉は生産的だった」と説明した。だが北朝鮮側は、ポンペオ国務長官が平壌を離れてからわずか5時間後(7月7日)に、外務省スポークスマン談話で、米国側に対して「強盗的一方的主張」と不満をぶちまけ、このままだと「非核化の決意も覆すかもしれない」と米国側を脅迫した。
 その後10月7日の3カ月ぶり4回目のポンペオ米国務長官訪朝では、金正恩委員長との会談を約3時間半行ったものの、具体的な非核化措置の実施(非核化リストの提出)を求める米国と、朝鮮戦争の終戦宣言を求める北朝鮮との溝は埋まらなかった。その結果2回目の米朝首脳会談は取り上げられなかった。
 結局、米中間選挙前と思われていた第2回米朝首脳会談は、年内の開催も流れ来年に持ち越された。板門店首脳会談で明記された「終戦宣言」は実現せず、今年中の「金正恩ソウル訪問」約束も不履行となった。

1、北朝鮮が明らかにした「朝鮮半島非核化」の意味

 金正恩は、今年に入り2回にわたる「南北首脳会談」と初めての「米朝首脳会談」をもち、「朝鮮半島の非核化」とのフレーズで合意を発表し「非核化ショー」を繰り広げた。
 この当面の狙いは、文在寅政権と共に「平和ショー」を演出して米国の軍事オプションを阻止し、米国中間選挙に絡めてトランプ大統領から譲歩を引き出して「終戦宣言」と「制裁解除」を手に入れことだった。そして中長期的には、「終戦宣言」で国連軍司令部を解体させ、米軍を国連軍から切り離すことによって米朝平和協定の締結を有利に進め、韓国から米軍を撤退させることで南北連邦制へ進めようとしたことにある。
 しかし、文在寅大統領もトランプ大統領も、「朝鮮半島の非核化」と「北朝鮮の非核化」を厳格に区別せず、同じ意味だと説明し、自らの政治的成果にしようとした。この詐欺的解釈がまかり通った背景には「朝鮮半島の非核化」を「北朝鮮の非核化」と欺瞞し「金正恩は1年以内に核を放棄すると約束した」との文在寅大統領の嘘言があった。
 米朝協議がこう着状態となった直接的要因は、「朝鮮半島非核化」と「北朝鮮非核化」を無理やり同じ意味として交渉を進めたことにある。北朝鮮と文政権はトランプ大統領の「誤解」を利用して、中間選挙での宣伝材料を欲しがるトランプ大統領から「終戦宣言」と「制裁解除」を手に入れようとしたが、米国の先「核の申告」要求の壁にぶち当たり目的を果たせないまま今年を終えた。
 守勢に立たされた北朝鮮は、予想されたことであるが、ついに「われわれだけの非核化を約束したことはない」と本音をさらけ出して米国を非難し始めた。
 朝鮮中央通信は12月20日の論評で、「朝鮮半島の非核化には、米国の核兵器を含めた侵攻軍が配備されている韓国と、北朝鮮の双方が含まれる」とし 「したがって、朝鮮半島の非核化とは、南北朝鮮の両地域と、朝鮮半島を標的にできる周辺地域から、核の脅威をすべて取り除くことを意味する」と主張し、「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」ではないと明言した。しかし米国の対応を非難しながらも依然としてトランプ非難は行っていない。

2、核放棄拒否を明確にした金正恩

 「朝鮮半島非核化」は「北朝鮮の非核化」ではないとの論理で金正恩が「核兵器申告」をかたくなに拒否したことで、「非核化ショー」の幕は下ろされ、本格的な米朝ガチンコ交渉に入ることになった。トランプ大統領は「金正恩と恋に落ちた」と言いながらも、核兵器の申告を優先し「終戦宣言」には応じず「制裁緩和」も行わなかった。そして第4回ポンペオ訪朝でも「先核兵器の申告原則」を譲らなかった。
 これで金正恩が文在寅政権と共に練り上げた中間選挙利用の「トランプ攻略作戦」は失敗に終わり、「非核化ショー」も終わりを告げた。
 金正恩は、父の金正日総書記の死去7年(12月17日)に際し、平壌の錦繍山太陽宮殿を訪れ「わが党はこの7年間、将軍様(総書記)の思想や路線を守り、遺訓を貫徹するため、力強く闘争を進めてきた」と報告。「今後も、一寸のずれもなく、一歩の譲歩もなく、将軍様の構想と念願を実現するために闘っていこう」と呼び掛け、再び核保有路線堅持の姿勢をあらわにしている。

3、金正恩との会談を急がなくなったトランプ大統領

 トランプ大統領は、第4回北朝鮮訪問を終えて帰国したポンペオ国務長官とホワイトハウスで面会し、金正恩委員長との会談内容の報告を受けた。ポンペオ氏はその後、記者団に「目標達成への道は長く、多くの作業がある。ただ、最終的かつ完全に検証された非核化への道筋は見えている」と語ったが、その言葉とは裏腹に「北朝鮮の完全な非核化」が容易ではないことをうかがわせた。
 この報告を受けた後トランプ米大統領は10月9日、遊説に向かう大統領専用機で記者団に、金正恩委員長との再会談の開催時期は11月6日投票の中間選挙の後になると明らかにした。
 しかしトランプ氏は中間選挙後2018年中の会談見通をさらに修正し、その時期を「来年(2019年)の初め」としたが、その後さらに1月か2月としながら最近は「会談を急がない」発言を繰り返している。
 トランプ米大統領は12月14日、北朝鮮の非核化に向けた米朝協議について「多くの人が尋ねるが、私たちは急いでいない」とツイートした。「金正恩委員長は北朝鮮が経済的に大きな成功を収める潜在力があることを誰よりよく分かっている」との見方を示したうえで「この機会を国民のために最大限に活用するだろう」と語り、「私たちはとてもうまくやっている!」と強調したものの、会談実現がますます不透明になっていることを感じさせるものだった。
 結局2018年に大騒ぎした「北朝鮮非核化」は一歩も前に進まなかった。そもそもが初めから同床異夢だったのだ。これで金正恩・文在寅の「北朝鮮非核化ショー」は幕を下ろし、文在寅大統領の「仲介役」も終わりを告げたと言える。

 2019年はトランプ大統領と金正恩委員長のガチンコ勝負となるだろう。金正恩が核兵器の申告に踏み出すか否か、独断でシリアからの米軍撤退を強行したトランプ大統領がこれまでの「先核兵器申告」の原則を守れるかどうか、2019年朝鮮半島の行方はこの二人の指導者の決断にゆだねられている。

以上

 
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