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板門店南北首脳会談に対する韓米日の評価

コリア国際研究所 南北関係研究室
2018.5.7

目次
1、金正恩を称賛する文政権と与党、警戒感示す野党と保守メディア
2、「板門店宣言」に対する韓国民の反応と米国専門家の見解
3、米欧・日メディアの反応
【資料】朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言全文

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 2018年4月27日、南北は11年ぶりに開催された首脳会談で3条13項目(資料参照)からなる「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」に合意した。半日間の短い時間だったが、南北の首脳が手を取り合って軍事境界線を越えたり、共同警備区域(JSA)内を二人で散策をするなどのシーンを内外の記者3000人を集めて生放送して見せたことで、「南北和解と非核化へのショー」は成功を収めたと言える。
 金正恩国務委員長は会談に先立って、歴史的な南北首脳の対面を記念して「平和の家」の芳名録に「新しい歴史はこれから 平和の時代、歴史の出発点で 金正恩 2018.4.27」と記帳した。

 1、金正恩を称賛する文政権と与党、警戒感示す野党と保守メディア

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月30日の首席秘書官・補佐官会議で、27日に南北首脳が署名した「板門店宣言」について、「新しい朝鮮半島時代を切り開く歴史的な出発」と述べた。
 首脳会談での宣言について文大統領は「朝鮮半島にもはや戦争と核の脅威はないことを全世界に示した平和宣言」と自賛し、その意義を強調した上で「非武装地帯の平和地帯化など、軍事的な緊張緩和に向けた南北の努力と信頼構築を通じ、新しい朝鮮半島の平和時代が開かれると確信する」と語った。
 また南北の共同繁栄に向けた画期的な契機がつくられたと述べ、「分野別の対話システムの全面的な復元とともに南北共同連絡事務所(の設置)によって常に協議できる枠組みをつくり、持続可能な関係改善を定着させる」との考えを示した。
 板門店宣言で完全な非核化や核のない朝鮮半島との共同目標を確認したことにも触れ、「世界が望んでいたことで、朝鮮半島はもちろん、世界史的な大転換の出発点になると確信する」と述べた上で「朝鮮半島の平和と繁栄の時代を後戻りできない歴史にしなければならない」と強調した。
 金正恩委員長に対しては、「会談成功のため、真心と誠意を尽くした金委員長の努力にもあらためて感謝の意を表する」と述べた。
 南北合意書締結の国会批准に関しては、「政治的な手続きではなく、法律的な手続きであることを肝に銘じてほしい」として、「国会の同意が新たな政争の具になることは望ましくない」と述べ、野党に協力を求めた。
 来月にも開催される米朝首脳会談にも言及し、「会談成功のため、米国との緊密な協議など、政府にできる必要な努力をしてほしい」として、「南北米の対話チャンネルをしっかりと稼働させ、国際社会の支持を得るための努力も並行しなければならない」と述べた(聯合ニュース2018/04/30 )
 板門店首脳会談に対するトランプ米国大統領の発言も文大統領の高揚感を後押ししている。ドナルド・トランプ大統領はツイッターを通じて「ミサイル発射や核実験が続いたすさまじい1年が終わり、北朝鮮と韓国の歴史的な会談が今行われている。良いことが起きているが、時が経たねばわからない!」とツイートした。また板門店宣言については「朝鮮戦争が終わろうとしている!米国、そして米国の素晴らしい国民は朝鮮半島で今起きていることを誇りに思うだろう!」と付け加えた。
 北朝鮮では28日この会談を「民族の和解・団結と平和・繁栄の新時代を開いた歴史的な対面」と金正恩の偉大な業績として大々的に報じ、映像も公開した。

 1)韓国政府・与党、金正恩を美化

 文在寅政権と与党「共に民主党」による「金正恩美化」は、想像以上だった。叔父を殺し叔母を政治から排除し、兄を毒殺し、北朝鮮の幹部や住民を処刑し、数多くの人々を強制収容所に送り込んだだけでなく、「天安艦」爆沈事件などで多くの韓国軍人を殺害した金正恩に対して、そうした蛮行がなかったかのようにあらんかぎりの賛辞を送った。
 与党「共に民主党」のチュ・ミエ代表は歓迎晩餐会に参加して「金正恩委員長の姿は感動的であった」と語った。ウ・ウォンシク院内代表は「この会談と宣言は感激的であった」と語り、パク・ポンゲ首席スポークスマンは、会談直前の芳名録に「歴史」を韓国語表記と朝鮮語表記の両方を書いたバランス感覚に感銘したと語った。 
 他の与党人士も大同小異だったが、過去3回の首脳会談に参加していた文正仁安保特別補佐官は「金正恩委員長は格式張らない人だ。父の金正日に似ていて親近感あふれる開かれた気持ちを持っていた」と褒め称え、夫人の李雪主についても「大変上品な人だ」と賛辞を送った。チョン・セヒョン元統一部長官は「年に比べて大変老練だと思った。余裕があり熟達した感じだった。金日成主席と似たところがあった」とした。野党で唯一参加した民主平和党の朴智元(パク・チウォン)議員は「金与正副部長は愛嬌に溢れていた。金英哲部長、李善権委員長は独特なカリスマを持っている」と天安艦爆沈事件の「主犯」まで褒め立てた。
 朴元淳ソウル市長は「自転車に乗って平壌まで一気に行ける気分だ」。李在明京畿道知事候補は「涙が出てくる。世界史に残る歴史的合意を成し遂げた両首脳に心から敬意を表する」とまで述べた。

 2)懸念する自由韓国党

 しかし、すべての韓国人が賛辞を送ったのではない。自由韓国党のチャン・ジェウォン首席スポークスマンは「少し前までは核とミサイルで世界を脅迫していた金正恩だ。おじだけでなく実の兄まで殺したと言われる金正恩をこのように美化してはいけない」と語った。
 自由韓国党の洪準杓(ホンジュンピョ)代表は4月30日午後2時、ソウル汝矣島(ヨイド)の党事務所で南北首脳会談の結果に関する記者会見を開き「北朝鮮核問題は実質的に一言も出せず、むしろ北の立場だけを代弁した今回の首脳会談の結果に対し、国民と共に深刻な憂慮を表明せざるを得ない」とし「北核廃棄と南北交流、人道的問題はむしろ過去の合意より後退した。非正常な南北首脳会談合意が出てきた裏には、北の金正恩と我々側の主体思想派の隠れた合意があると考え、自由韓国党はこの政府の主体思想派の策略で自由大韓民国が崩れることがないよう全力を尽くす」と主張した。
 続いて洪代表は「今回の会談の結果は我々の安保の自発的武装解除と変わらない」とし「韓半島の平和を実現するための核心課題である北核廃棄問題が一歩も進展しなかった。むしろ過去の合意より後退した」と批判した(中央日報日本語版2018/4/30)

 3)朝鮮日報が社説で警告

 「いずれにしても北朝鮮とは今後も対話を続け交渉しなければならない。しかし北朝鮮とはいかなる集団であるかは一瞬たりとも忘れてはならない。彼らは6・25戦争(朝鮮戦争)を引き起こし、数百万人を犠牲にし、今や三代世襲王朝を築き上げ住民を奴隷にしている。北朝鮮住民は人権という言葉さえ知らないまま踏みにじられており、核兵器開発が行われる過程においても数十万人が飢え死にを強いられた。人間を高射砲でバラバラにして殺害し、火炎放射器で跡形もなく消し去ることも彼らはためらわない。金正恩委員長の叔父や腹違いの兄でさえその例外ではなかった。1968年1月の韓国大統領府襲撃未遂事件、武装スパイによる一般住民の虐殺、大韓航空機爆破、アウンサン・テロ、金浦空港テロ、西海(黄海)での奇襲攻撃、哨戒艦「天安」爆沈、延坪島砲撃など、大韓民国に対するテロや蛮行は数え上げればきりがない。ヒル氏は「北朝鮮は残酷な政権」と指摘したが、実際はその程度の表現では不十分だ。命がけで北朝鮮から逃れた3万人以上の脱北者の存在もその事実を明確に伝えているのではないのか。
 金正恩氏がいくら予想外で破格の言動を示したとしても、その本質自体は全く変わっていない。ところが彼らが何度か笑顔を見せただけで韓国国内では韓半島(朝鮮半島)に平和がもたらされ、統一が近づいたかのような雰囲気が広がり、金正恩氏を何か英雄のように持ち上げる声まで出始めている。かつて故・金大中(キム・デジュン)大統領と金正日・総書記との首脳会談直後も同じように韓国国内では「金正日ブーム」が起こったことがある。しかしその結果、韓半島(朝鮮半島)にどのような結果がもたらされたか今改めて思い起こさねばならない。
 金正恩氏が本当に核を放棄し、改革・解放に進んで普通の国になることが確認されれば、韓国は喜んでそれを支援しなければならない。北朝鮮が常識の通じる普通の国になれば、これまでのような暴政や蛮行は続けられなくなり、北朝鮮住民も解放されるだろう。しかし今のいたずらに高揚した雰囲気が今後も続くようでは、そのような日はいつまでも来ない。我々は冷静な態度で北核廃棄が本当に進むのか見極め、北朝鮮政権との対話においても彼らの正体を常に忘れず、絶対に警戒を怠ってはならない。ドイツもかつてはそのようにしていた(朝鮮日報社説2018/05/03)。

 2、「板門店宣言」に対する韓国民の反応と米国専門家の見解

 1)韓国世論調査の結果は「非核化」に不安

 毎日経済新聞の世論調査では、南北首脳会談は「良かった」が80%であった。しかしその中身は、36%が「非常に良かった」、46%が「マアマア良かった」であった。全世界の記者3000人が取材し、韓国のTVが一日中生中継を見せた結果、「だめだった」とは言えない雰囲気となったのは致し方ないと言える。しかし46%の「マアマア良かった」までも「良かった」に入れることが妥当なのかは吟味する必要がある。
 それは今回首脳会談の目玉である「非核化合意内容」の反応に示された。「非核化合意をどう見るのか」の項目では次のような結果が出た。
 「北の意志が感じられ非常に良かった」が6%、その反対に「明確な非核化意志が不足している」が12%、「何らの進展もなかった。核保有を固守するだろう」が2%、残りの80%は「米朝首脳会談の結果を見なければならない。南北首脳会談だけでは判断できない」だった。南北首脳会談の最も主要な議題であった「非核化」が今回の首脳会談だけではわからないとしているのだ。このような会談を成功した会談と言えるのだろうか?
 韓国国民の多数は、非核化は始まりに過ぎない、米朝首脳会談を見てみないとわからないと考えているのだ。

 2)米国の専門家も批判的見解

 米国でも専門家は金正恩を美化する動きに警告を発した。
 米国のクリストファー・ヒル元国務次官補は4月1日「(南北首脳会談後)金正恩委員長を正常でかつユーモアあふれる人間のように(政府関係者やメディアが)描いている」とした上で「北朝鮮が非常に残酷な政権であることを絶対に忘れてはならない」と警告した。 
 ヒル氏は南北の首脳による今回の板門店合意についても「過去の宣言を繰り返したものに過ぎない」と冷めた見方も示した。ヒル氏はかつて北朝鮮の核問題をめぐる6者協議の米国代表を務め、また北朝鮮に何度も渡り実際に交渉を行った経験もあることから、北朝鮮ついてよく知る「対話派」とされてきた。しかも当時は北朝鮮の側に立つことも多く、時にその過度に宥和的な態度から「キム・ジョンヒル」と揶揄されたこともあった。キム・ジョンヒルとは北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記とヒル氏の名をくっつけた言葉だ。そのヒル氏が見ても今回の板門店合意に対する韓国や米国の一部の雰囲気は「あまりにも楽観的」と言わざるを得ないのだ(朝鮮日報社説2018/05/03 )。

 その他保守リベラルを問わず多くの専門家が板門店宣言に対して「核心が曖昧模糊としている」「細部の内容が欠如している」と指摘した。
 ①代表的対話派のロバート・ガルーチ氏(元国務省北核特使)
 今回の合意は、すべての人の関心事であった北朝鮮の非核化を含む多くの部分が大変曖昧模糊としている。特に合意文で軍事的敵対行動中断が、米韓合同軍事演習中断を意味する部分があるので正確な意味を把握する必要がある。
 ②ビクター・チャ(戦略国際問題研究所研究員)
 今回会談の肯定的雰囲気と北朝鮮の核ミサイル中止は歓迎すべきことだが、会談が楽観的雰囲気の中で進み、北朝鮮が非核化に対して米国と同じ視点のCVIDであるかはわからない。
 ③スミテリー研究員(戦略国際問題研究所研究員)
 過去ですでに見た場面である。米朝会談で何らかの合意は作るだろうが、北朝鮮が本当に非核化の検証に応じるかはよく見てみる必要がある。
 ④ロバート・マニング(大西洋評議会上級研究員)
 韓国民の感性を刺激し、金氏王朝指導者の寛大さと柔軟さを浮き上がらせた見事に演出された儀式だった。
 ⑤ブルッキングス研究所・朴チョンヒョン韓国碩座
 北朝鮮に誠意ある非核化の行動を要求する必要がある。「板門店宣言」は合意まで遠い道のりが残っている。

(コ・ソングクTV「正論一針」より)

 3)マンスフィールド財団のジャヌージ理事長の見解
 FNN ワシントン支局 柴木友和 2018年4月28日 土曜 午後10:50

 かつて国務省に勤務。議会上院の外交委員会で政策部長をしていたこともあるジャヌージ氏は、南北が非核化で合意したことなどは一定の成果と認めつつも、次のように指摘する。
 「両首脳は最低限の進展を達成したが、私はこれを誇張したくはない。こうした進展はほとんど象徴的なものだった」「我々は慎重であるべきだ。北朝鮮の声明に疑念を抱く必要はないが、多くの詳細がまだ解決されていないことを理解する必要がある」
 ジャヌージ氏はさらに、非核化は象徴的な言葉であり、実際に北朝鮮の核兵器の廃棄などロードマップ=工程表にして実行に移すにはかなりの時間がかかるとしていて、近く行われる見通しの米朝首脳会談でも困難があるとの見方を示している。
 「北朝鮮はまだ、非核化を達成するために必要なロードマップや、段階的なステップを示していない。私はこれは米朝首脳会談においても達成されないだろうと考えている」「戦略的なフレームワークを具体化することは、多くの時間と努力を要するだろう」「アメリカはもう北朝鮮にもてあそばれない」
 ただ、ジャヌージ氏は現在の状況は、以下の3つの点で過去の南北会談とは異なると指摘。これまでと比べて成果が期待できる状況だという。
 1 韓国の文在寅政権が北朝鮮に融和的で、まだ十分な任期が残っていること
 2 北朝鮮の金正恩委員長の政治基盤が以前よりも強固であること
 3 アメリカ大統領が、ディール=取り引きができるビジネスマンのトランプ大統領であること
 6月までに開かれる見通しの米朝首脳会談では、北朝鮮がどこまで具体的に非核化に向けたプロセスに踏み込むのか、北朝鮮が見返りに何を要求してくるかが焦点となる。
 トランプ大統領は27日、米朝首脳会談について「偉大な成功を期待する」と強調する一方で、「アメリカはもう北朝鮮にはもてあそばれない」とけん制している。

 3、米欧・日メディアの反応

 1)米欧主要新聞の反応は批判的

 米国をはじめとする西側の有力各紙は今回の南北首脳会談で最も重要な「非核化」について議論がなかった点を一斉に指摘した。成否の判断は今後すべての実質的交渉を担うことになった米朝首脳会談まで待ってみなければならないということだ。
 リベラル系の米紙ニューヨーク・タイムズは28日、「南北首脳は『韓半島(朝鮮半島)の非核化』の定義も具体的なタイムテーブルも明らかにしないまま、年内の(朝鮮戦争)終戦宣言を推進するという宣言だけした」「このような合意はトランプ米大統領の2つの『てこ』、つまり対北朝鮮制裁と対北朝鮮軍事行動という『チップ』を吹き飛ばすだろう」と書いた。今回の会談の和解ムードにより北朝鮮が韓国に『保険』を掛け、トランプ大統領の立場をぐっと狭めたというのだ。
 米紙ワシントン・ポストも28日、「今度こそ違うのか?」という見出しの記事で、「北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は明らかに先代とは違うスタイルだった」としながらも「金委員長は文在寅大統領を通じて民族主義的連帯を強化し、韓米同盟の亀裂を招くという1つめの計画を達成した」と表現した。
 保守系の米紙ウォールストリート・ジャーナルは27日付の社説で、文大統領を強く批判した。同紙は「文大統領は今回、北朝鮮の非核化のための具体的な宣言に向けて圧力を加えるチャンスがあった。国際査察団の核実験場訪問など実効性のある最初の措置も要求できたのに、そうはしなかった」「その代わり、彼は金委員長の言葉を額面通り受け入れて、真摯(しんし)さを保証した。北朝鮮のレトリック(巧みな言葉)を十分に知っていながら、その意味を誇張して世界に広報してやったのだ」と書いた。
 同紙はさらに、「文大統領は、北朝鮮が2000年と07年の南北首脳会談で平和を約束した直後、韓国海軍哨戒艦『天安』爆破・沈没事件などで挑発させた前任者たちの前轍(ぜんてつ)を踏む危険性が高い」「文大統領が米国の圧力から北朝鮮を救ってやろうと努めているのはなぜだろうか?」「文大統領は『米朝バランサー論』を主張した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の秘書室長を務めていたほか、現政権の任鍾ソク(イム・ジョンソク)大統領秘書室長はかつて北朝鮮のイデオロギーに追従しており、05年まで韓国国内にある北朝鮮政権の著作権を管理する要員の役割をしていた」と経歴まで挙げて指摘した(全文は2)に)。
 英紙フィナンシャル・タイムズも28日、「楽観主義で疑念を覆い隠すことはできない」という見出しの記事などで、「今回も使い古された用語が飛び交っただけで、実質的かつ検証可能な核廃棄の約束は何もなかった」と批判した(朝鮮日報2018年4月30日 8時8分 )。
 その他香港サウスチャイナモーニングポストは「金正恩が意味深長な発言を行ったが、彼は過去の合意不履行を米国と韓国に責任を押し付けた発言を行った。金正恩自身が振り返ってみる必要がある。トランプを批判してきたCNNも軍縮にも言及しているが実態を直視する必要があると指摘した。

 2)【WSJ社説】南北首脳会談の高揚感に惑わされるな
 2018 年 4 月 28 日 18:13 原文 (英語)

 北朝鮮と韓国の指導者は27日、板門店で会談し、新たな平和の時代の幕開けを宣言した。トランプ米大統領は「そこでは今、こうしているあいだにも、多くの素晴らしいことが起きている」と述べた。しかし、それが真実だとすれば、それは舞台裏で起きているに違いない。表立った外交交渉では大きな前進が何1つなかったからだ。
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はハグや乾杯をしながら、両国が「朝鮮半島の非核化」を目指す共同宣言に署名した。しかし、重要な問題は正恩氏が非核化をどう考えているかである。北朝鮮が言う朝鮮半島の非核化提案は、譲歩とは程遠く、核開発プログラムを廃棄せよという要求に抵抗するときに北朝鮮が使ってきた常とう手段である。米国が核保有国であり続ける限り、自分たちも放棄しないというのが北朝鮮の言い分である。
 首脳会談後に出された共同宣言には具体的な文言がない。文大統領には非核化に向けた意欲をより具体的に示すように正恩氏に促す機会があった。国際査察団による北朝鮮の核関連施設の視察を許可するといった具体的な第1歩を要請することもできただろう。文大統領がそうした働きかけをしたという証拠はない。
 それどころか文大統領は正恩氏の言葉を額面取りに受け止め、正恩氏が誠実であると保証してしまったようだ。何度も合意を破棄されてきた過去を踏まえると、理解し難い対応である。韓国政府は北朝鮮の巧言だと知りながら、その意味を世界に向けて誇大宣伝することを選んだのだ。

 年内に朝鮮戦争を正式に終結させる目標を含めるため、文大統領が首脳会談のテーマを広げたことも問題だ。正恩氏はもはや韓国からの米軍撤退を要求していないが、米韓同盟の弱体化、在韓米軍の削減といったその他の要求をする余地はまだ多く残されている。独裁者からも平和は買うことができる。問題はそれにどれだけの対価を支払うかだ。
 今回の首脳会談には、2000年と2007年に行われた過去2回の南北首脳会談の二の舞になる恐れがある。北朝鮮に平和と兄弟愛を約束する共同宣言に署名させるために、韓国は最大限の努力をした。その2回の首脳会談後も北朝鮮は核開発プログラムと軍事的挑発を再開させた。2002年には北朝鮮軍が韓国の哨戒艇を砲撃、6人の兵士が死亡した。2010年には北朝鮮が別の哨戒艦と延坪島を砲撃する事件があり、韓国側に合わせて50人もの犠牲者が出た。
 制裁措置の効果や中国からの圧力もあり、正恩氏の考え方に大きな変化があったのではと期待する向きもある。しかし、正恩氏は祖父や父以上に強硬姿勢を取り、核兵器開発を北朝鮮の神聖な義務としてきた。5年前には1953年の朝鮮戦争休戦協定が無効だと宣言した。韓国の情報機関は2010年の攻撃を指揮したのも正恩氏だと考えている。
 ではなぜ、文大統領は米国が最大限の圧力をかけている北朝鮮に救済の手を差し伸べたのか。親北左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の秘書室長だった文氏は、盧氏と同様、米国と北朝鮮の間の「調整役」を務めたいと考えている。文大統領の秘書室長、任鍾晳(イム・ジョンソク)氏は自叙伝によると、北朝鮮イデオロギーの信奉者で、2005年まで北朝鮮政権が保有する知的財産の使用料をその代理人として韓国で徴収していたという。

 文大統領は北朝鮮の非核化よりも、支援や資金を利用して異なる体制を維持したまま南北両国を統一させることを重視しているのかもしれない。文大統領はその目的のために、トランプ氏をクリントン元大統領、ジョージ・W・ブッシュ元大統領と同じ失敗に引き込もうとする可能性がある。2人の元大統領は実現しなかった非核化の約束と引き換えに北朝鮮に見返りを与えてしまった。
 正恩氏との首脳会談に向けて動いているトランプ氏は、この独裁者が、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に真剣に取り組んでいなければ、交渉の席を立つと述べた。これこそ正しい姿勢だ。しかしトランプ氏は、南北首脳会談の高揚感に便乗することで、そうした平和を手にすることへの期待感を高めてしまっている。数十年にわたって裏切られてきた米国の方針として望まれるのは、不信感を持ちながら検証していくことである。

 3)日本主要新聞の社説(「南北首脳会談社説を読み解く」より )
 毎日新聞2018年5月1日 東京朝刊

 南北首脳会談での各社社説の見出し
 ・毎日=非核化への流れ止めるな
 ・朝日=平和の定着につなげたい
 ・読売=非核化の道筋はまだ見えない
 ・日経=板門店宣言を北の完全非核化につなげよ
 ・産経=微笑みより真の非核化を
 ※いずれも4月28日

 日本の各紙の社説はおおむね、核問題に関して物足りなかったとの見方を示した。
 毎日新聞は「北朝鮮の具体的な行動が盛り込まれなかったのは残念だ」と評しつつ、「ようやく芽生えた非核化の流れを決して止めてはならない」と記した。
 朝日新聞は会談全体を「いまも冷戦構造が残る朝鮮半島に、新たなページが開かれつつあることを印象づけた」と前向きに評価した。非核化問題については「南北だけでは解決できないという限界も浮き彫りにした」と一定の理解を示した。
 産経新聞は金氏の「微笑(ほほえ)み外交」を批判し、「大きな前進があったようにとらえるのは、大きな間違いである」と断じた。
 非核化への新たな姿勢が期待されたのは、南北会談の1週間前の4月20日、北朝鮮が核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止を突然表明したからだ。米朝首脳会談へ向けて、軟化姿勢を示す布石であろう。
 この際の社説で毎日は、対話開始への意思表示だとするならば、「まずは前進」と一応評価した。だが、既存の核兵器放棄への言及がなかったことから、「核保有国として、米国と対等な立場で軍縮交渉に臨む考えを示唆したとも言える」と推測、「現段階での過大評価は禁物だ」とくぎをさした。
 読売新聞も「核実験の中止だけで、脅威が減じるわけではない」とし、産経は「これは、『核保有国宣言』に他ならない」とした。
 非核化の中身の精査は、6月初旬までに開かれる米朝首脳会談へ持ち越しとなった形だ。

【資料】
 朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言全文

 聯合ニュース2018/04/27 20:05

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は27日、朝鮮半島非核化に向け国際社会の支持と協力のために積極的に努力していくとする内容などを盛り込んだ「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」に署名し、発表した。
 南北首脳はこの日、板門店の韓国側施設「平和の家」で首脳会談を行い、宣言に合意した。
 以下は宣言の全文。

 大韓民国の文在寅大統領と朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長は平和と繁栄、統一を願う全ての同胞の終始一貫した意思を受け止め、朝鮮半島において歴史的な転換が起きている意味深い時期に、2018年4月27日に板門店の平和の家で南北首脳会談を進めた。 
 両首脳は朝鮮半島にこれ以上、戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを、8000万のわが同胞と全世界に向け厳粛に宣言した。 
 両首脳は冷戦の産物である長期の分断と対決を一日も早く終息させ、民族的な和解と平和・繁栄の新たな時代を果敢に進み、南北関係をより積極的に改善し発展させていかなければならないという確固たる意志を込め、歴史の地である板門店で次の通り宣言した。

 1.南と北は南北関係の全面的かつ画期的な改善と発展を実現することにより、切れた民族の血脈をつなぎ共同繁栄と自主統一の未来を早めていく。
 南北関係を改善し発展させるのは全ての同胞の終始一貫した願いであり、これ以上先送りすることはできない時代の切迫した要求である。

 (1)南と北はわが民族の運命はわれわれが自ら決めるという民族自主の原則を確認し、すでに採択された南北宣言と、全ての解放を徹底的に履行することにより、関係改善と発展の転換的な局面を開く。 
 (2)南と北は高官級会談をはじめとする各分野の対話や交渉を早期に開催し、首脳会談で合意した問題を実践するための積極的な対策をたてていく。 
 (3)南と北は当局間協議を緊密にし、民間交流と協力を円満に保障するため、双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所を開城地域に設置する。 
 (4)南と北は民族的和解と団結の雰囲気を高めていくために、各界各層の多方面に及ぶ協力と交流、往来や接触を活性化する。 
 対内的には、6月15日をはじめ、南北双方にとって意義がある日を契機に当局や国会、政党、地方自治体、民間団体など、各界各層が参加する民族共同行事を積極的に推進し、和解と協力の雰囲気を高め、対外的には、2018年のアジア大会をはじめとする国際競技に共同で出場し、民族の才気や才能、団結した姿を全世界に示していく。 
 (5)南と北は民族分断により生じた人道的な問題を至急解決するために努力し、南北赤十字会談を開催し、離散家族・親戚の再会をはじめとする諸般の問題を協議し解決していく。 
 まずは8月15日を機に離散家族・親戚再会を進める。 
 (6)南と北は民族経済の均衡発展と共同繁栄を成し遂げるため、10.4宣言で合意した事業を積極的に推進し、第一段階として東海線および京義線鉄道と道路を連結し、現代化して活用するための実践的な対策を取る。

 2.南と北は朝鮮半島での尖鋭的な軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するために共同で努力していく。

 (1)南と北は地上、海上、空中をはじめ全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面的に中止する。
 これに当たり5月1日から軍事境界線一帯で拡声器放送とビラ散布をはじめ全ての敵対行為を中止し、その手段を撤廃して今後、非武装地帯を実質的な平和地帯としていく。
 (2)南と北は西海(黄海)北方境界線一帯を平和海域とし、偶発的な軍事的衝突を防止して安全な漁業活動を保障するための実質的な対策を立てていく。
 (3)南と北は相互協力と交流、往来と接触が活性化されることに伴い、さまざまな軍事的保障対策を取る。
 南と北は双方の間に提起される軍事的問題を遅滞なく協議、解決するために国防相会談をはじめとする軍事当局者会談を頻繁に開催し、5月中にまず将官級軍事会談を開く。

 3.南と北は朝鮮半島の恒久的で堅固な平和体制構築に向け積極的に協力していく。
 朝鮮半島における非正常的な現在の停戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することは、これ以上先送りできない歴史的課題だ。

 (1)南と北はいかなる形態の武力も互いに使用しない場合の不可侵合意を再確認し、厳格に順守していく。
 (2)南と北は軍事的緊張が解消され、互いの軍事的信頼が実質的に構築されるのに伴い、段階的に軍縮を実現していく。
 (3)南と北は休戦協定締結から65年となる今年に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で堅固な平和体制の構築に向けた南北米の3者または南北米中の4者会談開催を積極的に推進していく。
 (4)南と北は完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するとの共通目標を確認した。
 南と北は北側が取っている主動的措置が朝鮮半島非核化に向け非常に意義があり、重大な措置であるとの認識を同じくし、今後、それぞれが自身の責任と役割を果たしていく。
 南と北は朝鮮半島非核化に向けた国際社会の支持と協力へ積極的に努力する。
 両首脳は定期的な会談と直通電話を通じ、民族の重大事項を随時、真摯(しんし)に議論して信頼を厚くし、南北関係の持続的発展と朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向かう良い流れを一層拡大していくため共に努力する。
 これに当たり、文在寅大統領は今年秋に平壌を訪問する。

 2018年4月27日 板門店

 大韓民国 大統領 文在寅
 朝鮮民主主義人民共和国 国務委員会委員長 金正恩

以上

 
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