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北朝鮮の市場経済とその評価

金龍(キム・ヨンフン) デイリーNK編集局長
2015.9.11

*【この論考は、2015年7月24日に東京で行われた「デイリーNK2015北朝鮮情勢報告セミナー」で報告された第3報告の論考です】

1. なぜトンジュ(金主)か?

 北朝鮮で計画経済は縮小され、個人の商売行為による「私経済領域」は、継続的に拡大している。これは、金正恩執権後、北朝鮮当局が市場統制と取り締まりを緩めたからと分析されるが、私経済を導くのは党・軍・政幹部と結託する新興富裕層「ドンジュ(金主)」だ。
 各私経済分野に布陣されているドンジュは北朝鮮の党・軍・情報幹部と利益を分担しながら私的領域を拡大再生産させているが、これは金正恩体制の「両刃の剣」と見ることができる。金正恩執権後、党・軍・政治の幹部は、体制の亀裂をもたらす可能性がある「私経済」を拡大させているドンジュの経済活動を黙認しているからだ。北朝鮮が、正常な国家運営がなされていない状況で、国家運営と幹部の生計に必要な財源を確保する一定の役割をドンジュが担っている。こうした私経済の拡大により、金正恩執権後、私経済分野での新しい形態の商売行為やビジネスが登場した。
 本稿では、ドンジュの「新形態の商売行為」と北朝鮮の私経済について見ていきながら、これらが今後の金正恩体制にどのような影響を与えるかについて考察してみる。

2.トンジュの登場と成長

 1990年代後半、いわゆる「食糧難」の時期国家配分および生産システムが崩壊して、北朝鮮全域に市場が生じ始めたが、この時に全国的に「商行為」を行う商人たちが登場。以後、住民が大挙、市場で商行為に参加するようになり、彼らの間に階層が分化されることになる。純粋に食べて生きるために商売を始めた人々の中から、能力があったり幹部と人脈がある商人が、「初期ドンジュ」としての面目を備えるようになる。彼らは市場で稼いだお金で「高利貸し」などを通じて大金持ちに成長した。以後、北朝鮮で言うドンジュは、商売を通じて富を蓄積した新興富裕層として、たくさんのお金を持ち、小売業やビジネスを行う階層を表す言葉となった。
 1990年代末、当時、道・市・群との地域間の移動が、現在よりも不自由な状況で、商人の移動を自由にしてくれて、お金を蓄積するドンジュも登場し始めた。特に、各地域で商品等を移動させながら利益を取りまとめるドンジュが急激に増加した。個人では所有できないトラックを国家機関に一定のお金を上納して賃貸して、商人と商売物品を移動させる「ソビチャ=サービス車」が登場し始めた。ドンジュは、複数台の「サービス車」を確保して利益を上げ、直接商品を輸入、密輸などで確保し、各主要市場で売る「卸売り」商売や、農村で農民に農産品を運送して売る商売が始まった。また、電力難で鉄道の運行に支障があることから、ドンジュはサービス車と同じように中古バスを国家機関から借り受けたり、輸入するなどして、「運送業」を通じて莫大な利益をあげた。
 そして、2000年代以降、市場が本格的に拡大され、ドンジュの事業領域も分化されていく。賄賂を通じて投資や再投資、貿易業などが比較的自由になり、ドンジュの事業領域は、多種・多様化された。現在では、北朝鮮の経済のすべての部分でドンジュが影響力を行使し、利益を捻出していると観測される。
 正確な数値は推定できないが、脱北者の証言と、北朝鮮内部の加速されている市場化速度を見たとき数万人、多くて十数万人のトンジュが存在していると見られ、今も増え続けていると見られる。 2000年代中頃のドンジュは、通常5千〜1万ドル程度の資産を所有していたが、当時でも既に数十万ドルを所有するドンジュがいたと言われている。全国的にドンジュが最も多い場所の一つある平安南道平城に10万ドルの資産を所有するドンジュが多く存在することが知られている。とりわけ、金正恩時代は市場経済が拡大したことから、ドンジュの数は大幅に拡大したとみられ、平壌のドンジュを中心に所有資産も増大し、数百万ドルの資産を所有しながら超豪華な生活を営むドンジュも相当数、いることが脱北者の証言からも推定できる。

3.トンジュの階層分化

 北朝鮮のドンジュは、「最高位層」「中間層」「一般層」に分類できる。「最高位層」は、国家事業と外貨稼ぎ事業領域で、中央権力機関と癒着して、大規模な事業をするドンジュをいう。核心的な権力へのアクセスが可能で、党・軍・政治の核心支配層と結託するドンジュだ。彼らの中には、中央党の幹部、市道の党幹部、軍幹部、外交部大使などの家族や、親戚が多く、ビジネス上の関係を結んで事業を行うトンジュも存在する。
 核心階層と結託したドンジュがいれば、その下には、最高位層の権力より強くないが、各道および市党中間幹部たちとの協力関係を維持し、ビジネスを行う「中間層ドンジュ」が存在するが、現在の北朝鮮では、中間幹部との結託したドンジュが最も多いと推定される。中大型工場・企業所社長、支配人、道・市・郡の党と人民委員会の中間幹部との各種利権事業を行うドンジュだ。また、貿易権を持つ軍隊と政府・与党の組織を通じてビジネスを行うドンジュも相当数が存在すると推定される。一般的な市場では、中小規模の商売とサービス業を介して富を蓄積したトンジュが存在する。彼らもまた、地方自治体の幹部に一定の賄賂を捧げて富を蓄積し、主に密輸、住宅販売、高利貸し業、サービス車の運用、卸売業などを行っている。

4.ドンジュの私経済領域の特徴

 現在、北朝鮮のさまざまな社経済分野でドンジュがビジネスを行っているが、最大の特徴は、資本主義社会のように、「個人が企業を所有して売買できる財産権、ないし所有権がない」という点だ。社会主義生産を担当する生産手段の所有は不可能だが、国家機関にお金を上納し、個人事業をすることができる許可権や企業所や鉱山などを運営できる限定運営権だけを保持することが可能だ。すなわち、国家機関を私的所有することはできないが、管理、監督、意思の決定権などで利益を創出することができる「運営権」を所有しているということだ。これの売買は不可能だが、運営権の所有を通じて利益を創出する「北朝鮮式の不完全な運営権」と見ることができる。
 なによりも金正恩時代にドンジュの事業領域が拡大され、次の3つの顕著な特徴を示している。一つ目は、北朝鮮が私経済に対する統制を緩和しながら、個人ドンジュの運営権の範囲が大幅に拡大していることだ。例えば、企業所運営に一定の投資をしたら、材料、原料の購入をはじめ、労働者の採用など、企業所全体の運営をドンジュが完全に担当する業態が増加している。二つ目は、上位の党・軍・政治の所属機関から下位機関での運営権移譲が増加している。ドンジュの領域拡大に中央所属機関・企業所をはじめとする外貨稼ぎ企業所、軍傘下の水産事業所・基地がドンジュによって運営されている事例が増えている。三番目にドンジュの多層化だ。党・軍・政治所属と傘下機関の企業所社長・支配人(マネージャー)基地長などの幹部家族(女性)、親戚などが直接、個人事業をしたり、彼らと一定の関係を結んだドンジュが運営主体となることもある。

5.トンジュの運営権の種類の分析

 これまで、実質的な所有権がなく、運営のみ可能な「北朝鮮式不完全な運営権」について言及した。「北朝鮮式不完全な運営権」の種類は、以下のように@A型の約2つに分類することができる。

 

まずは、「北朝鮮式不完全な運営権@型」

 国や地方に所属している機関、企業所、工場に一定のお金を上納して契約関係を結び、公共機関の保護を受けながら利益創出をするタイプだ。つまり国家機関と運営権を共有することで、ドンジュの個人事業体登録が不可能なため、工場、企業所をはじめ、機関の車両や船、列車、機械設備などを国家名義で登録して、ビジネスを行う。名目上は、社会主義的な北朝鮮で私的所有ができないため、こうしたタイプのトンジュのビジネス業態が最も多いと推定される。
 @型には、投資型・賃貸型ドンジュがある。投資型は、工場企業所、貿易会社、店、レストランに当該機関と幹部との関係を介してお金を投資する形だ。ドンジュによって形成された私的資本が、国営企業に一定のお金を捧げ投資して利益を得る「投資型」である。ドンジュは、製造業・サービス業・資材調達・賃加工・自営業者など、自分が投資した分の収益を回収して関連機関幹部と利益を分担する。例えば、北朝鮮の「テソン貿易会社」「金剛貿易会社」「勝利貿易会社」など、北朝鮮ではかなり有名な外貨稼ぎ会社にもドンジュが資金を投資していると見られる。ドンジュは、少なくは1万ドル、多くは数十万ドルをこれらの会社に投資する。ドンジュ資金が新たな収益を出せば、その分配は税金、投資家ドンジュの分け前、その他の関係者にわけられる。事業が終了したら、ドンジュは投資分を取り戻すことができる。
 最近の北朝鮮で「投資型ドンジュ」が最も多く参入している分野は、「国家建設事業」だ。金正恩政権では、平壌と新義州などの主要都市で大規模な住宅建設が進められているが、ここに巨大資金を持つドンジュが参入しているのである。平壌、新義州マンションの建設に多くの人のトンジュが建設資本を投資して、分譲権を得て、他の富裕層にアパート分譲権を売って利益を得ているというのが北朝鮮の内部消息筋の話だ。また、デイリーNKの消息筋によると、順天火力発電所の廃熱を利用したプール・浴場(スパ)の建設にドンジュが投資をしている。
 投資型よりも積極的な事業活動の「賃貸型ドンジュ」がある。国営企業の資産を借りて賃借しながら名義だけを貸すケースで、工場、企業所、店舗、レストランを賃貸して直接運営して収益を出す。すなわち、事業許可や貿易許可証を受けて運営するのだ。投資型ドンジュと比較すると、個人が比較的独立して事業を運営することができ、貿易、サービス業、製造業、水産業、鉱業などに賃貸型トンジュが存在する。最近のケースでは、大同江上流地域の平安南道の砂採取事業で、ドンジュが脚光を浴びていると言われている。これらのドンジュは、砂採取事業を実質的な運営を担う北朝鮮版「最高経営責任者」、つまりCEOを雇ってすべての運営を委ねる場合もある。
 主に経営難に陥っている小規模工場や企業所、レストラン、商店などもドンジュの事業対象だ。彼らが運営して稼いだ収益を使用料や家賃など、関連機関に上納して運営権を保護される。例えば給養管理所所属の国家の建物を利用して比較的大きな食堂の運営、または商業管理所の承認を受けて住宅などで小規模食堂を運営することもある。また、利便性奉仕所の承認をもらって、個人運営する便利なサービス施設が並んでいる。
 サービス施設には、美容室、写真館、ゲームセンター、ビリヤード、カラオケ、宿泊所などがある。ビリヤード、カラオケ、宿泊所は「非社会主義」と見なされ取り締まりが入ることもあるが、ドンジュによって着実に増えている。
 これ以外には、「卸小売」と「運輸業」を展開するドンジュがいる。2000年代、中国産の中古トラックやバスが密輸入されて「サービス車」が急増した。サービス車は、ペーパー上、各機関・企業所の所有財産として登録されているが、ドンジュが資金を上納して借り受けて、事実上の「個人運輸業」として事業を行う。ドンジュは、運転手や整備士を雇って私的な労働市場を形成。サービス車の活性化によって、北朝鮮内の人的、物的移動をさらに拡散させた。北朝鮮版商人型ドンジュとして、商売の元金を持って中国から商品を入手し、中間業者に販売し差額で大金を稼ぐのだ。最近では、電車や船をドンジュがリースして運輸業をするビジネスも増加している。
 2005年中頃に延辺式「羊肉の串焼き」食堂が大人気を呼んだことがある。これは、テーブルだけでなく、味付けされた食材の羊肉まで、そのまま中国から輸入された。最近では、住民の生活水準が向上したことから「ピザ」「ハンバーガー」「コーヒーショップ」なども登場している。これらの店舗を国へ一定のお金を上納して運営権を獲得し、複数の店舗を運営するトンジュも増えているのだ。いわば、フランチャイズのような形式だ。また、中国産の大型冷蔵庫を持ち込み、精肉店を運営するドンジュも登場した。保管施設が、不十分な一般住民たちは、お金を出して肉を保管してもらえる。精肉店は、肉の保管料だけでなく、新鮮な肉を一般住民に販売して利益をあげるのだ。

 

北朝鮮式不完全な運営権A型

「北朝鮮式不完全な運営権A型」は、@型より拡大された権限を持ち、国家機関所有の土地、設備、鉱山などを事実上、個人ドンジュが所有して利益をあげる形だ。これはドンジュの私的資本が、自由に企業形態の事業を運営することをいう。個人営農、家内手工業、賃加工など国の生産手段への依存度が低い農業と軽工業中心に盛業を成している。 A型の特徴は、国営企業との競争や協力関係にある。代表的なものとして「家内手工業」などがあり、国営企業や市場などで原材料を購入したり、中国などから輸入して、タバコ、靴、服など軽工業品を家庭内で生産する。個人手工業は、関連分野の専門知識を持っており、一般住民を雇用して服、タバコ、靴などの生活必需品をはじめ、トウモロコシで作ったお酒、漁業用の網、さらには自動車ガラス、ディーゼル油、薬物吸入器までも製造する。
 北朝鮮で韓流が拡散したことから、韓国ファッション雑誌を手に入れて、直接服を製作して販売する家内手工業も登場した。平安南道の消息筋はデイリーNKとの通話で「個人テーラーが、中国を往来する貿易関係者などを介して、南朝鮮ファッション雑誌を持ってもらうことが増えた」と述べながら「雑誌を参考にして服を製作し、幹部や金持ちの人々に販売している」と証言している。また、鉱山から名義を借りずに、比較的小さな規模のトンネルを運営する「私掘(サグル)」もある。収益を関連機関に上納して運営するのだが、特徴は「譲渡権」があることだ。北朝鮮の市場内の店舗(テナント)は、本来は国家所有物だが、最近では譲渡が可能な権限を与えている。現在、両江道恵山農民市場でのテナント単価は4500元から1800元で、北朝鮮ウォンで計算すると590万ウォンから235万ウォンの大金で取引されている。

6.金正恩時代私の経済化の限界

 金正恩時代の北朝鮮の私経済はドンジュという個人の経済力によって形成された資本を元にして拡大しているが、根本的な限界を持っている。つまり、個人の力で私経済が拡大されているではなく、軍・党・政治の主要な機関に属しながら、これらの機関の承認と統制の下で私経済が拡大しているという点で限界がある。ドンジュは、党や軍、人民委員会に、一定の籍を置いて、この機関の承認を得ながら私経済活動を行わなければならない。北朝鮮当局は、いつでも政治的や経済的に、問題に出来る。そうなれば、ドンジュの私経済活動は萎縮するだろう。とりわけ、ドンジュが独自で事業を運営したり、リースをした機関・企業所を譲渡、売買できないという点で、影響力には限界がある。もちろん、最近では譲渡まで可能な新しい私経済領域が登場しているが、まだ微々たるものだ。基本は、ドンジュが国有財産を借りて商行為をすることにとどまっている。
 これまでドンジュが牽引する私経済を見てきたが、北朝鮮指導部の抵抗による制御と取り締まりというリスクが常に存在する。特に権力によってドンジュの再投資は制約を受けている。通常、生産性が上がれば、積極的に再投資が活発になるが、現在の北朝鮮では、特権的な分配によって投資機会が公平か、もしくは一貫していない。これこそが、北朝鮮式私有化の不安定と見ることができる。また、首領独裁体制で個人、すなわち金正恩の個人的な判断による方針や指示が私経済の不安定性を高めている。
 金正恩がドンジュの特権が強まることによって生じる腐敗の深化や市場化を通じたシステムの亀裂、ないし変化が生じた場合、私経済を縮小させるかもしれない方針や指示を下す可能性がある。過去、金正日が、定期的にかつ、多角的に市場を制御したのが、まさにこのためだった。例えば、現在、北朝鮮の市場内で店舗(テナント)が大幅に増加しているが、これがさらに新興ドンジュを生み出し、北朝鮮私経済を活発化する役割を担っている。しかし、こうした私経済が、資本主義的思考を広め住民意識の変化をもたらし、体制を脅かすと判断されれば、金正恩はいつでも市場に対する統制は始めるだろう。

7.金正恩時代はドンジュとの不便な同居

 北朝鮮の私経済は、社会主義制度の理念から脱却した部分として、金正日時代だけでも、市場に継続的な取り締まりと統制はあった。しかし、金正恩時代に入って市場に対する取り締まりと統制が非常に緩み、市場年齢制限まで撤廃され、市場の営業時間も大幅に延びた。また、先述のように店舗(テナント)も増加した。このような市場の拡大の理由は、伝統的な計画経済を復元する能力がない北朝鮮当局が、市場を容認することなくして「民生問題」を解決する術がなかったからである。すなわち、住民を養う能力がない金正恩が、自分のシステムに反する要因が早まる可能性があったとしても、やむを得ずドンジュをはじめとする住民の私経済を容認している。さらに、配給制度の崩壊によって、生活苦にあえぐ住民の不満を、これらの商行為の容認によって払拭させようと意図もあるとみられる。国境管理と非社会主義風拡散に対する取り締まりの強化など、金正恩体制の保衛に関連する国家統制の領域は、強化されたが、住民の市場活動の統制が緩和された点がこれを物語っている。体制を脅かす行為をしない限り、住民の商売行為は妨げないということだが、住民の体制不満の払拭と忠誠心を誘導する狙いがあるとも解釈される。
 とくに、金正恩と核心権力層、そして市場を主導する勢力であるドンジュとの間にコネクションが存在する。核心権力層がドンジュに特権を提供し、生まれた利益を金正恩に様々な形での「忠誠資金」として捧げ、金正恩は、これを統治資金として活用している。金正恩の立場からすれば、核心権力層の既得権を認めて、彼らの政治的忠誠と支持を受けることができる。核心権力層は、その下の単位の組織を管理できる物質的な基盤を準備することができるようになる。

8.私経済化による金正恩体制の展望

 このようにドンジュと金正恩をはじめとする核心権力層の間のコネクションは、今後も強固になる可能性が高い。これらのコネクションと私経済拡大を通じて、北朝鮮当局は、かなりの財政収入を得ていることから、市場の緩和政策を継続する可能性が高い。北朝鮮当局は、市場の商人から相当な規模の税制を収めている。また、国営企業・機関が個人事業家に機関名や不動産の名義貸しで得る収入も実質的な財政収入だ。国営企業の生産活動と各種建設事業を個人事業家に委託する場合も多い。
 こうしたことから、北朝鮮の私経済と金正恩体制の首領独裁体制は、二律背反的な共存をしていると評価される。社会主義という独裁体制の穴を私経済が埋めており、この穴を通じて金正恩をはじめ核心権力層が寄生しており、今後も私経済は拡大すると予測される。しかし、北朝鮮での私経済拡大は、金正恩にとっては両面的だ。市場拡大により、住民に対する統制力は弱体化し、非社会主義の要素の拡大などが、ますます深刻化する場合、金正恩体制に対する住民の忠誠心弱体化と偶像化に支障をきたすとなれば、金正恩は私経済に歯止めをかけるかもしれない。体制に対する住民の不満を払拭させるために使用し、経済活動を容認しているが、私経済の拡大が体制の変化につながる可能性があるということだ。これこそが、北朝鮮式私経済の「二面性」と見ることができる。
 金正恩執権以後、北朝鮮私経済の大きな流れは、金正恩と核心権力層の黙認の下で、主要幹部とドンジュ間の結託などで、拡大再生産されてきた。いる方向に進行されてきた。私経済化を通じて生まれた利益を幹部とドンジュが分担して、金正恩はこれらの黙認しながら、忠誠心を確保することができるという点がこれを物語っている。つまり私経済化を通じた「利益共同体」が形成され、これらの分担の割合が多様化されていることから、今後もドンジュの影響力は向上するしかない。もちろん金正恩という個人指導によって、突出した政策が打ち出される可能性もあるが、断片的な次元ではなく、中長期的に幹部とドンジュ間の利益共同体は、強化される方向に行くと予想される。
 しかし、こうした分担を通じた利益共同体の結集力が、強固になって深化されるほど、これを打ち破る、つまり私経済化を通じて得た利益を除去しようとする政策を金正恩が展開した場合、少なくない反発が予想される。金正恩が、幹部たちの反発を予想して、現在の私経済化の制御と許可を適当なバランスで調節するリーダーシップがあるかどうかはわからないが、幹部の忠誠心を誘導するために放置した場合、金正恩が予期しない結果になる可能性がありえる。また、金正恩が核心権力層と中間幹部とドンジュの利益分配を潰せば、金正恩体制に深刻な亀裂が発生する可能性がある。

 
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