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金第1書記2014年「新年辞」の貧弱な内容

北朝鮮研究室
2014.1.4

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は1日、国営報道機関を通じて演説し、今年の国政方針である「新年の辞」を発表した。発表形式は昨年同様金第1書記が肉声で演説するものであったが、27分あまりの演説で本人の映像は前後合わせて2分47秒にすぎなかった。ほとんどの画像は、朝鮮労働党庁舎の写真であった。内容だけでなくこうしたことも今年の「新年辞」を迫力のないものにしている。
 演説は昨年同様金日成、金正日への敬意を捧げる挨拶から始まった。そして人民軍将兵と人民及び海外同胞への挨拶に言及した後、昨年の成果、今年の課題、南北関係、対外関係と続けられた。

1、どこかにいってしまった昨年の目標

 昨年の成果では、経済建設と核武力建設で勝利を収めたとし、金日成・金正日主義を輝かせ党と人民の団結が一層強くなったとしながら、党内の宗派(分派)汚物を一掃する断固たる措置を取ったことを真っ先にあげた。これは張成沢を粛清処刑したことを指すものである
 しかし、2013年に掲げた経済目標についての成果は「人民経済多くの部門、単位において生産的高揚が起き、自立経済の土台がよりしっかりと固められ、農業部門の職員と勤労者たちが、難しい条件と不利な自然気候の中で農業生産で革新を起こし、人民生活向上に貢献しました」と抽象的な表現でしか総括できていない。人民生活の何がどう具体的に向上したかは一切言及されなかった。
 昨年主攻目標に掲げた軽工業と農業においてもどのような成果があったかは全く述べられていない。また石炭、電力、金属、鉄道運輸を先行させ経済を活性化させるとの方針や、畜産・水産部門て掲げた目標はどこかに消えてしまっている。「新世紀産業革命」で経済強国建設の転換局面を造りだすとの「野心的目標」もその結果が言及されていない。また、こうした経済運営を推進する「経済指導管理」がどのように改善されたかも一切語られていない。
 ただ一つ具体的成果として指摘されたのは、「馬息嶺速度」が造りり出され「馬息嶺スキー場」が完成したということだけである。そしてそれを補う形で語られたのが文化部門での成果である。、「体育と教育を含めた文化部門でも新しい前進を達成した」とするものであるが、それは次のように指摘された。
 「党の体育強国建設構想を奉じて全国が体育熱風で沸き立ち、われわれの頼もしい体育人たちは国際競技で金メダルを獲得し、祖国の栄誉をとどろかせました。。
 全般的12年制義務教育実施のための準備が成果的に推進され、科学技術分野で多くの成果が達成されたばかりか、現代的な医療施設が整えられ医療奉仕が改善されました。
 音楽芸術部門で時代の名曲が多く作り出され、千万軍民の心を忠誠の世界へと昇華させ、闘いと偉勳へ力強く鼓舞しました」。
 こうしてみると、昨年の公約はほとんど達成されていないことが分かる。公約が達成されなかったのは、すべて「張成沢一派の責任」だということらしい。新年辞の総括部門で「党内の宗派(分派)汚物を一掃する断固たる措置を取った」ことを真っ先にあげたのは、そのことを言いたかったためであろう。

2、目先にとらわれた「併進路線」の今年度課題

 金第一書記は、今年の闘争方向を「栄えある朝鮮労動党創建70周年を輝かしく飾る大祝典場につながる勝利者の進軍」とした。
 そして経済建設では中心課題として、「私たちは今年に農業部門と建設部門、科学技術部門が率先して革新の烽火を高く掲げ、その烽火が社会主義建設のすべての戦線で飛躍の炎として激しく燃え盛るようにしなければなりません」と演説した。
 昨年は農業と共に軽工業を中心課題の中に入れていたが、今年は軽工業が抜けている。軽工業まではとてもじゃないが手を伸ばせないということであろう。
 農業の課題では金日成が50年前に発表した「社会主義農村テーゼ」と結びつけて、その正当性と生活力の証明となるようにせよとしている。なんとも時代錯誤的課題の提示であろうか。
 金日成が「社会主義農村テーゼ」を発表した時代は、社会主義計画経済がまだ機能していたし配給制も維持され、今に比べればはるかに農村の基盤はしっかりしていた。それにも関わらず「農村テーゼ」は成功しなかった。そこで示された「主体農法」は北朝鮮農村を破壊しただけである。
 北朝鮮農村が「農村テーゼ」によって破綻されたにもかかわらず、それをいまさらながら持ち出した狙いはなんであろうか。それは外貨が乏しいだけでなく、外国からの支援、韓国からの支援が見込めないとの予測から、「自力更生」を強調することによって、耐乏生活に備えさせようするものであろう。
 次に掲げた課題は、建設で新しい繁栄期を切り開こうというものだ。引き続き平壌リニュアールを推進し、地方も特色を出していくようにと指示している。今年も箱物展示物の建設で自己の権威を高めようとしているのである。この出費の無理が重なって張成沢事件が噴出したことを何も知らないようである。このまま突っ走れば第2第3の張成沢事件が発生するに違いない。
 三番目には科学技術の発展が強盛国家建設の原動力だとし、そこに人民の幸せと祖国の未来がかかっているとして、知識経済の推進を強調した。しかし知識経済の象徴である携帯電話事業からオラスコム社さえ撤退を余儀なくされている。その財源をどのように調達するつもりなのだろうか。
 そのほか金属、化学工業、電力、石炭工業などの基礎産業の先行、軽工業、水産業の強化、地下資源と山林資源、海洋資源の開発などの課題をあげ、教育をはじめとした文化の建設を強調したが、その具体的方途については言及がなかった。ただ「節約」と「経済管理の改善」だけが強調されている。
 経済建設の課題と共に国防建設の課題も提示した。国防建設では「今日人民軍を強化する上での中心課題は、軍隊の基本戦闘単位であり軍人たちの生活拠点でもある中隊を強化することであります」と中隊の強化を強調する一方、国防工業では、軽量化、無人化、知能化、精密化を掲げた。しかしこれは「馬息嶺スキー場」のように人海作戦で解決できる課題ではない。
 そして本年課題の締めくくりとして、こうした各課題を成功裏に進めるには党の唯一的領導体系の確立と革命的規律が必要だとしてそれを厳格に打ち立てなければならないと強調した。

3、鎧をちらつかせながらの南北関係改善ポーズ

 金第1書記は「今年は、偉大な首領様が祖国統一に関わる歴史的文献に生涯最後の親筆を残してから20年にあたる年です」としながら、外国勢力を排除した自主的統一の三大原則と南北共同宣言の履行を求め、民族の安全と平和のために戦争の危機を阻止したうえで「北南間の関係改善に向けた雰囲気を造成しなければならない」「南朝鮮は北南関係改善の方向に進むべきだ」などと主張した。しかし昨年末に金正恩が「戦争は前もって知らせてからやるものではない」と強弁したことを考えると素直に受け取ることは難しい。
 昨年もこうした提案が行なわれた直後、2月には、中国を含む国際社会からの警告や指摘を無視して3回目の核実験を強行し、大々的な核戦争挑発騒動を起こしている。そうした前歴もあることから、その真意については慎重に推し測る必要がある。「朝令暮改」は金第1書記の得意とするところだ。軽々に信じることは危険である。

4、米中との関係に言及しなかった対外関係

 金第1書記は「世界最大の熱点地域である朝鮮半島では、わが共和国を圧殺しようとする敵対勢力の核戦争策動でよって、一触即発の戦争危機が造成され、地域と世界の平和と安全が厳しい脅威にさらしました」と指摘し、名指しこそしなかったものの米国とその同盟国に対する警戒心をあらわにした。そこには米国との対話や中国が議長国となっている6カ国協議に対する言及はなかった。

*          *          *

 北朝鮮は今、外交面、経済面の双方でこれまで以上に孤立している。国連による対北朝鮮制裁がいまなお解除されない中、張成沢の処刑により国内の団結にはヒビが入っており、中国とも不安定な関係がかもし出されている。
 そうした不透明性があるためか、今年の「新年辞」では戦略的方向性を提示できず、思想闘争と唯一的領導体系の確立課題以外は、羅列したものとなっている。新年辞で金第1書記は「われわれは偉大な将軍様が全社会の金日成主義化綱領を宣布して40周年になる意味深い今年、党を組職思想的に強固にして、社会のすべての成員を金日成・金正日主義者にしっかりと準備させ、革命隊伍の一致団結をより強化しなければなりません」と、思想的引き締めと統制を強める方向を示した。
 今後進める粛清の範囲を縦系列だけにとどめるのか、横の人脈にまで拡大するのかは定かではない。そこが注目されるところであろう。現在のところ影響を最小限にとどめるために縦系列だけの粛清に留めようとしているようにも見える。しかし、これでは、張成沢の根は残ることになり、第2第3の張成沢事件が起こる可能性もある。今年の北朝鮮はこれまでになく厳しい年となるに違いない。
 これまで北朝鮮はこのような状況に追い込まれるたびに、韓国に対して挑発的軍事行動に乗り出した。そうしたことから韓国と米国は北朝鮮の挑発に「断固たる対応」で臨むことをたびたび明言している。中国もいまは無条件で北朝鮮を後押ししにくい状況にある。
 金第1書記が状況の判断を誤り、再び昨年のような核戦争騒動を起こすならば、それは金王朝崩壊の序曲となるに違いない。

以上

 
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