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張成沢訪中の意味するもの

コリア国際研究所 北朝鮮研究室
2012.8.24

 北朝鮮の張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長(朝鮮労働党政治局員、行政部長)を団長とする北朝鮮代表団が、8月13日(18日帰国)午後6時15分ごろ中国国際航空CA122便で北京に到着し、国賓クラスの人物が宿泊する釣魚台国賓館に入った。代表団は14日に開かれた「第3回黄金坪・羅先(羅津・先鋒)市共同開発のための朝中開発合作連合指導委員会会議」に出席するためと朝鮮中央通信は伝えた。

 *第2回会議は2011年6月に開かれ、両地帯の共同開発および共同管理プロジェクトの着工式も同時に行われた。

 主な随行者は、金永日(キム・ヨンイル)労働党国際部部長、金聖南(キム・ソンナム)国際部副部長、李光根(リ・グァングン)合営投資委員長、金亨峻(キム・ヒョンジュン)外務次官などだが、総勢は約50人という。
 今回の会議では、張成沢副委員長、陳徳銘商務相がそれぞれ朝中首席代表を務め、開発が進まない黄金坪と羅先地区開発事業を活性化させることが主要案件として扱われた。

 *双方は、両国政府の共同の努力で両経済地帯法の修正、制定および公布、開発計画の合意、管理委員会の設立、共同指導委員会の各分科の活動、両経済地帯管理活動家の養成、すでに着工した対象の推進、国境通過と通信協力などを第2回会議以降の成果として評価したが内容はほとんどなかった。第4回会議は2013年上半期に平壌で行われることが決まった。

 張成沢副委員長の訪中は、昨年5月に金正日総書記に随行して以来1年3ヶ月ぶりだが、今回の訪問はこれまでと異なり、最高指導者金正恩第1書記の名代的位置づけでの訪問となっていることだ。そのため中国側の応対もこれまでとは大きく違った。それは、張副委員長が北京で胡錦濤国家主席、温家宝首相ら中国首脳部と会談を行なったことにも示された。張成沢副委員長一行は18日帰国した。

1、張成沢訪中の目的

 張成沢氏訪中の目的は、一言で言って、金正恩体制の命脈を握る経済の再生問題、特には挫折の危機に陥っている経済特区事業と一向に進展しない外資の導入で突破口を開こうというものだ。
 この経済特区事業と外資導入の分野は一貫して張成沢氏が責任者として主導してきた分野だ。その成否は彼の勢力基盤拡大にも大きく影響してくる。李英鎬(前参謀総長)を粛清し、いまや思う存分力を発揮できる状態となっているだけに、この分野で何らかの成果を示さなければ、彼は軍部勢力からの反撃も受けかねない。そういった意味で、金正恩体制の安定も張成沢の勢力基盤安定も、ひとえに経済特区の成功と外資の導入にかかっているといっても過言ではない
 そして経済問題に隠れてはいるが、今回の張成沢氏訪中でもう一つ重要な目的は金正恩第1書記の訪中問題であろう。後見人の張成沢氏が団長の代表団である以上、金正恩第1書記の訪中問題が議論されたることに不思議はない。金永日(キム・ヨンイル)党国際部長(国際書記)が同行したのは、そのためだと見られる。
 金永日氏は2010年1月、朝鮮労働党と中国共産党間の外交を総括する国際部長に起用されて以降、金正日総書記の4回の訪中に同行している人物なので、今回金正恩訪中の根回しに専念した可能性もある。経済会議の写真には写っていなかった。しかし現在のところこの問題に関する情報は少ない。

経済専門家で占められた随行員

 中国国営・新華社通信と北朝鮮・朝鮮中央通信が14日に配信した中朝共同指導委員会第3回会議の関連写真を見ると、サインをする張成沢氏の後ろに北朝鮮の幹部9人が並んでいるが、このうち金聖南党国際部副部長、金亨峻外務次官、池在竜(チ・ジェリョン)駐中北朝鮮大使を除く6人が経済分野の幹部だ。そのうち重要幹部は次の2名だ。
 まず李光根合営投資委員長(59)であるが、彼は故・金日成主席の主治医だった李・ヨング元烽火診療所副所長の息子だ。ドイツ留学を終えた後、貿易省や対外経済委員会、貿易会社などの勤務を経て、2000年に47歳で貿易相に起用され、注目を集めた。その後、党の統一戦線部副部長を務めた後、今年初めに外資誘致を統括する合営投資委員会の委員長に就任した。
 次に初代合営投資委員長を務めた李秀勇(リ・スヨン)党副部長(77)=別名:李徹(リ・チョル)だが、彼は1980年から30年間にわたりスイス大使を務め、40億ドル(約3150億円)に上る故・金正日総書記の海外裏金を管理し「金正日の金庫番」と呼ばれた人物だ。スイス大使在任中は、金総書記の3人の息子、正男(ジョンナム)、正哲(ジョンチョル)、正恩(ジョンウン)の各氏のスイス留学をサポートした。2010年3月に帰国し、新たに発足した合営投資委員会の初代委員長に就任した。北朝鮮は同氏の役職を「副部長」と伝えているだけで、所属は明らかにしていない。

2、合意された主な内容と協議された事案

 1)インフラの建設促進とシステムの整備及び人材の育成

 8月14日、北朝鮮と中国は「第3回黄金坪・羅先(羅津・先鋒)市共同開発のための朝中開発合作連合指導委員会会議」で両国の国境地帯の経済特区2ヵ所でのインフラ建設に拍車をかけ、開発を強化することに合意した。
 中国商務省は14日午後、報道資料を出し、「北朝鮮・労働党の張成沢行政部長と陳コ銘商務相の共同司会で、『羅先(ラソン)経済貿易地区と黄金坪(ファングムピョン)・威化島(ウィファド)経済地区の共同開発と共同管理に向け、「両国は現在、2ヵ所の経済特区の開発が実質的な段階に差し掛かっているということに、意見が一致した」と明らかにした。
 また、両国は、開発計画要綱や推進システム構築、人材教育、法律制度の構築、税関通過の利便性強化、通信や農業分野で実質的な進展をなすために合意したと、中国商務省は伝えた。さらに両国は、羅先地区管理委員会や黄金坪・威化島地区の運営・管理、羅先地区への電気供給や工業園建設などに関する協約も交わした。商務省は、羅先地区には原材料や装備、先端新技術、軽工業、サービス業、現代農業などを中心に開発するだろうと明らかにした。また、黄金坪・威化島地区には、情報産業、旅行文化やアイデア産業、医療加工業などを中心に開発し、北朝鮮の知識密集型新興経済地区に作る計画だと伝えた(東亜日報2012・8・15)。
 双方は今回「政府主導」「企業主体」「市場原理に基づく運用」「相互利益」を経済協力の基本原則とすることをあらためて確認した。北朝鮮側は「企業主体」ではなく、開城工業団地のように「政府主体」での開発してほしいとの要請したが、中国側ははこれまで守り続けてきた「企業主体の市場原理に基づく運用」という原則を合意文に再び盛り込み、無条件では支援しない姿勢を明確にしている(末尾【資料】参照)。

中朝が経済特区管理委発足で合意 羅先へ電力供給も

 北朝鮮と中国は会議で、北朝鮮の経済特区である黄金坪・威化島と羅先地区の共同開発の本格化に向け、二つの管理委員会を発足させることでも合意した。
 同日北京で開催された3回目の開発合作連合指導委員会会議で、中朝は共同開発の中心的役割を担ってきた開発合作連合指導委員会を解散させ、新たに管理委員会を構成して共同開発の具体化に向けた協議を進めることを決めた。管理委員会は黄金坪・威化島と羅先地区にそれぞれ設置する。
 中朝は工業団地の建設のほか、経済技術や農業分野における包括的な協力を約束したほか、羅先地区への電力供給でも合意した(聯合ニュース2012/08/14 19:46 )。

 2)外資導入を協議

 張副委員長の今回訪中でのもう一つの柱は、外資の導入だ。現在北朝鮮は深刻な外貨不足に見舞われ、外貨商店では外貨による「おつり」すら出せずにいるだけでなく、在日朝鮮人との合弁企業では利益支払い(外貨で支払われることになっている)なども約束どおり履行されていない状況だ。

大豊グループは成果上げられずに解散

 外資が枯渇する中で、外資誘致の公式窓口として鳴り物入りで発足(2010年1月)した朝鮮大豊国際投資グループが、発足後2年で解散の憂き目に会い合営投資委員会に吸収された。これは、経済事業で軍部の影響力を弱める動きとも関係しているようだ。
 大豊グループは2009年12月、北朝鮮の経済開発を主導する「国家開発銀行」の外資誘致窓口として国防委員会直属で設立された機関だ。2010年1月、国防委員会が発表し、その実体が外部に明らかになった。
 大豊グループは発足時、2010年の1年間で100億ドル(約7850億円)、5年以内に1200億ドル(約9兆4000億円)の外資を誘致する計画を立てたが、目立った成果を出せなかった。
 同グループの朴哲洙(パク・チョルス)総裁は解任後、ほかのポストに就いておらず、国家開発銀行も解散させられたという(朝鮮日報2012/08/06)。
 大豊グループは別の外資誘致窓口となる「内閣合営投資委員会」に吸収されたが、

張成沢氏、巨額の借款を中国に要請

 張成沢副委員長が、北朝鮮の経済発展と改革に必要だとして中国政府に10億ドル(約790億円)以上の人民元借款を要請し、両国が協議を進めたという。
 北京の消息筋は14日「北朝鮮が今月初めに訪朝した王家瑞・中国共産党対外連絡部長に経済開発に向けた借款という形で巨額の支援を求め、王部長はこれについて協議する姿勢を示したと聞いている」と伝えた。
 金正日総書記の「金庫番」と呼ばれた李秀勇(リ・スヨン)労働党中央委員会副部長、や貿易・投資を統括する李光根(リ・グァングン)合営投資委員長(元貿易相)らが同行したのは人民元借款問題について協議が主な目的であったと見られている。
 だが中国は、借款形態の人民元支援が軍事費や統治資金に流用されることなく、社会インフラの整備といった経済開発事業に確実に使われるよう、改革に向けた具体的な計画を北朝鮮に求めているようだ。また、借款の償還を保証する鉱物資源の担保問題についても、中朝の間で議論が進められているという(朝鮮日報2012/08/15)。

3、訪中で力を誇示した張成沢の思惑

 張成沢副委員長の今回訪中にはこれまでとは異なる際立った特徴がある。それは後見人としてはじめてその権力を誇示したことである。金正日総書記存命中は、金正日の統制と中央党(中央幹部の党生活組織、組織指導部第1副部長が管理)の監視もあり、出来るだけ目立たないようにと表立った動きを行なってこなかった。
 しかし、監視役の李済剛や対抗勢力の李英鎬などが居なくなり、何よりも金正日の死去で重石が取れたことで、今回のように権力を誇示する行動が可能となった。また中国側も張氏の権威を高める配慮を行なった。

党主導の先軍路線定着を誇示

 張成沢氏の権威誇示は、代表団に金永日労働党国際部長のほか、金聖南労働党国際部副部長、李光根朝鮮合営投資委員長、金亨峻外務次官らを含め規模が50人に達するとされるところにも示された。金聖南氏は故金総書記の中国語通訳を専門に担当した人物で、金第1書記と王家瑞中国共産党対外連絡部が会談した際にも同席するなどなど、北朝鮮最高指導者の通訳を担当してきた。
 朝鮮中央通信が今回の訪中を平壌出発から報じたのも注目すべき点だ。これまで張副委員長は中国や欧州を頻繁に訪問しているが、北朝鮮メディアが報じたことはなかった。
 韓国の脱北元高官は「張副委員長の訪中は、北朝鮮の最高指導者レベル。金総書記死去後に政治的影響力が大きくなったことを示す」と分析した(聯合ニュース2012/08/14 )。

金英柱の二の舞回避のための布石

 しかし張副委員長の力も誇示は、決して金正恩第1書記に対抗するためのものではない。当研究所が北朝鮮の内部から得た情報によると、張副委員長は部下に対してまかり間違っても「張成沢万歳」を叫ぶな。徹頭徹尾「金正恩万歳」を叫べと指示しているという。
 張副委員長の頭には、金正日総書記に除去された金英柱(金日成の弟)のことがこびりついているらしい。金日成の後継者と見られていた金英柱(金日成の弟)は、甥の金正日を可愛がり愛情を込めて彼を幹部に育てたが、金正日が権力を掌握する過程で粛清の憂き目に会った。
 血がつながっていないとはいえ、現在の張成沢と金正恩も似たような関係にある。今は金正恩が張成沢に依存しなければならないために張成沢を登用しているが、新しい金正恩人脈が確固たる基盤を築いた後はどうなるか分からない。特に彼の妻の金慶姫が先に死去した場合、その不透明さはいっそう増すことになる。
 張成沢はそうした時に備え、今布石を打っていると見ることができる。その布石は金正恩体制における一等功臣としての業績の構築と自身を排除できない勢力配置(政敵の排除)である。そういった意味で「経済特区の開発」と「外資の導入」の成功如何は、金正恩体制だけでなく直接的には張成沢副委員長の運命をも決めるといっても過言ではない。

4、張成沢勢力を後押しする中国

 8月17日の張副委員長と胡錦濤国家主席、温家宝首相との面談では、羅先経済貿易地帯と黄金坪・威化島経済地帯の中朝共同開発促進や北朝鮮の新経済管理体制について意見交換がなされたが、このような具体的経済事案について中国首脳がここまで言及したのは異例のことだ。
 張副委員長が胡主席と人民大会堂で面談した際、「朝鮮労働党と国家、朝鮮人民軍の最高指導者である金正恩元帥からの親愛なるあいさつを伝えます」と述べたのに対し、胡主席は北朝鮮の羅先経済貿易地帯と黄金坪・威化島経済地帯の共同開発・共同管理に向けた中朝共同指導委員会の会議が成功を祝うと発言したという。それとともに張氏に対しては「何年もの間、張成沢同志が中朝の友好関係に大きな役割を果たしたことを高く評価している」と述べ張氏を激励したとされるが、この発言も注目される内容だ。

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【資料】

中国首相、対北朝鮮投資で5項目の要求
朝鮮日報日本語版8月20日(月)11時11分配信

 中国の温家宝首相は今月17日、北朝鮮の実力者、張成沢(チャン・ソンテク)行政部長と北京で会談し、中朝経済協力の活性化に向け、北朝鮮に次の5項目の改善を求めた。

(1)法的環境の改善

 中国国営の新華社通信によると、温首相はまず、張成沢氏に法律面での改善を要求した。これは北朝鮮に投資した資金が回収できなくなるなど、さまざまな不利益を受ける中国企業が急増していることが背景にあるとみられる。北朝鮮に詳しい筋は「中国企業は北朝鮮との商業上の紛争が起きても、それを解決する法律が北朝鮮にはない点を指摘してきた。温首相による言及はこの点を意識したものだ」と述べた。
 これに先立ち、中国500大企業に数えられる西洋集団は、2006年に北朝鮮の甕津鉱山に2億4000万元(現在のレートで約30億円)を投資したものの、一銭も資金を回収できないまま、現地から追放された事実を今月初めに明らかにしている。

(2)地方政府との協力強化

 第2の要求事項は「関連地域間の連携と協力強化」だ。北朝鮮に詳しい筋は「関連地域」という表現を「北朝鮮と中国双方の地方政府」という意味だと指摘する。北朝鮮の地方政府の官僚から、手続きを急ぐためとの名目で賄賂を要求される中国企業が少なくないからだ。同筋は「ひそかに企業のカネを巻き上げることなく、地方政府間で当初合意した通りにやろう」という意図だと説明した。

(3)土地・税金に市場システムの適用を

 温首相から張成沢氏への第3の要求は「市場システムを適用し、土地・税金分野で良好な条件を整えよ」という内容だった。これは不明朗な名目での税金、土地使用料に対する不満とみられる。北朝鮮は昨年9月、西洋集団に突然、土地賃貸料、工場用水使用料、資源税の負担を要求し、同社が拒否すると一方的に投資契約を破棄した。

(4)企業の困難解決支援を

 温首相は第4の要求として「投資企業のために、実際の問題や悩みを解決すること」を挙げた。韓国政府の関係者は「温首相が先に言及した法律、地方政府、土地・税金問題のほか、中国企業が北朝鮮で直面し得るあらゆる商業上の紛争を当局レベルで解決する意思を示すよう北朝鮮に求めたものだ」と分析した。

(5)税関・品質管理の改善

 温首相は最後に税関、品質管理サービスについても改善を求めた。韓国統一部の当局者は「開城工業団地の操業当初から、韓国が北朝鮮に要求し続けたことだ」と述べた。北朝鮮は税関問題について、北朝鮮で生産された製品の全量検査にこだわっている。同当局者は「通関方式はサンプル調査が国際標準だ。全量検査を行う場合、通関が大変遅れ、全体の生産性が低下する」と指摘した。品質管理についても、同当局者は「社会主義に慣れた北朝鮮の労働者は、割当量を達成することだけを考え、品質は眼中にない。北朝鮮の労働者を雇用したことのある中国企業も同じ考えではないか」と推測した。

 北朝鮮メディアは、温首相による以上5項目の要求については一切報じていない。

以上

 
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