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北朝鮮による天安艦雷撃から1年
―変化した韓国の世論―

コリア国際研究所 南北関係研究室
2011.3.26

 昨年3月26日に北朝鮮の魚雷攻撃で、韓国哨戒艦天安(チョンアン)が二つに折れて沈没してから1年が過ぎた。事件当時、哨戒艦の乗組員104人のうち46人が犠牲となり、韓国国民は強い憤りと深い悲しみに包まれた。生存者58人のうち8人は戦友を亡くした痛みを抱えたまま服務を終え、残り50人は各部隊に分散配置された。
 「天安艦」は4月15日に艦尾が引き上げられ、官民による国際合同調査団(韓国人の専門家49人と、米国、オーストラリア、英国、中立監視国スウェーデンの4カ国の専門家24人の計73人で構成)によって調査が進められ、北朝鮮の攻撃によるものとの結論付けた。
 彼らは外部からどのような衝撃が加えられた場合に、天安と同じ切断面が形成され、同じ結果が出てくるかを実験で何度も説明した。また天安の切断面と、現場海域で発見された北朝鮮魚雷のプロペラに残っていた吸着物を比較分析し、その上で「魚雷による水中爆発」との結論を得るに至った。
 調査に参加した4カ国の代表は、各国の名で「調査結果に同意する」というサインまで行っている。この詳細は2010年9月10日に韓国国防部が発行した「合同調査結果報告書―天安艦被撃事件―」(P.288)の中で説明されている。
 しかし北朝鮮は「天安」沈没から22日目の4月17日、軍事論評員名義の文章を発表し「南朝鮮(韓国)傀儡(かいらい)軍部の好戦狂らと右翼保守政客らは、沈没原因が究明できなくなるや、不祥事をわれわれと連係させようとおろかに画策している」と述べた(朝鮮中央通信)。この立場は今も変えていない。

1、北朝鮮の主張に追随した韓国の「従北朝鮮勢力」

 北朝鮮の動きと平行して韓国内の「従北朝鮮勢力」(参与連帯など)や米バージニア大のイ・スンホン教授、米マニトバ大のヤン・パンソク教授(地質学)、ジョンズ・ホプキンス大のソ・ジェジョン教授(国際政治学)などが北朝鮮犯行説に異論を唱え韓国国民を混乱させた。
 また、民主党の推薦で官民合同調査団に参加した政治ポータルサイト「サプライズ」のシン・サンチョル代表は「北朝鮮の魚雷に書かれていた『1番』という文字は韓国側が書き入れたものだ」と主張し物議を醸した。
 そればかりではない、昨年10月に韓国記者協会、韓国PD(プロデューサー)連合会、全国言論労組の3団体が設置した「天安号調査結果言論報道検証委員会」は「5カ月にわたりメディア関係者や科学者たちと共に韓国政府の発表を検証した結果、バブルジェット効果(水中爆発による衝撃波効果)はなかった」とする内容の報告書を発表した。これは、軍民合同調査団の発表を完全に否定するものだった。
 同委員会にはウ・ジャンギュン記者協会会長をはじめ、イ・チャンソプPD連合会会長、チェ・サンジェ言論労組委員長が各団体を代表して検証委員として参加し、発表は言論労組のノ・ジョンミョン責任検証委員が担当した。
 韓国政界の太陽政策勢力である民主党、親北朝鮮左派勢力である民主労働党や進歩新党は、哨戒艦「天安」爆沈事件以降11月23日に北朝鮮による延坪島砲撃事件が起きるまで、天安事件に関する論評や声明を計475も発表し、政府を攻撃した。

2、ボロを出した「陰謀論」

 しかし、北朝鮮による延坪島砲撃以降、この流れは大きく変化した。韓国政府の陰謀としていた魚雷の「1番」のインク数字が、延坪島に打ち込まれた北朝鮮の砲弾からも発見されたからである。高熱で残るはずがないとしていたインク数字が、水中よりも高熱となる砲弾の残骸から発見されたのだ。
 また、韓・米「陰謀論」を主張していた勢力と学者たちの根拠のズサンさも「陰謀論」の非科学性をあからさまにした。

(1)科学的根拠もなく主張していた天安沈没陰謀論者

 天安の沈没原因を「北朝鮮の魚雷による水中爆発」と結論づけた官民合同調査団の発表を、ねつ造と主張してきた市民団体やマスコミ団体などの代表者や主な幹部らは、いまだに誰一人として自らの主張の過ちを認めず、犠牲となった乗組員の遺族と国民に謝罪していない。
 朝鮮日報はこれらの団体のメンバーに直接会い、合同調査団による説明を認めない根拠について尋ねたが、参与連帯の関係者は「常識的な疑問を提起したにすぎない」と述べ、検証委の関係者は「難しい分野なので、われわれも科学的にはよく分からないだろう」と語っている。
 *参与連帯は昨年6月、国連安全保障理事会に独自で作成した書簡と報告書を送付し「合同調査団による調査結果には疑問が多い」と主張した。さらに記者協会、言論労組、PD連合会など3つのマスコミ団体で構成された「天安マスコミ報道検証委員会」は昨年10月「天安が沈没した際、魚雷攻撃で発生するバブルジェット爆発現象は起きていなかった」とする自分たちの見解を発表した。しかし、これらの団体には沈没した原因を明するのに必要な物理学、化学、工学分野の専門家が1人もいなかった(朝鮮日報2011/03/22)。
 昨年4月に最初に座礁説を提起した海難救助会社の社長は「テレビで一目見ると、座礁による沈没なのがすぐに分かる」と述べるにとどまった。テレビで一目見た程度で「陰謀論」をぶち上げたということだ。
 また陰謀説を主張するグループの中で、いわゆる専門家ともいえる米バージニア大学物理学科のイ・スンホン教授は「科学について知らなくても分かる問題だ。物理学者の名誉を懸け、合同調査団の主張はねつ造されたものと断言できる」と主張した。科学者が「科学について知らなくても分かる問題」とはあきれた発言である。朝鮮日報はこうした主張に対して「科学について知らなくても理解できる問題に、なぜ物理学者が名誉を懸けるのか、全く分からない」と指摘した(朝鮮日報2011/03/22)。
 *イ教授は天安の事件に関する独自の実験を行った唯一の人物だ。イ教授は実験結果を基に、天安の残がいから発見された吸着物質が北朝鮮の魚雷推進体に残存していた物質と同一ではないと主張している。イ教授は爆薬を全く使用せず、アルミニウムを加熱した後、冷却する実験を通じて結論を導き出した。これについて、他の学者は「水中爆発と大気中の爆発を区別しない誤った前提の実験であり、受け入れることはできない主張だ」と反論した(朝鮮日報2011/03/22)。
 また、親北朝鮮勢力が吸着物質の究明に関連し、イ教授とともにしばしば登場させる米マニトバ大のヤン・パンソク教授の専攻は地質学だ。ヤン教授は吸着物質について、ギブサイト(水酸化アルミニウムの一種)、水酸化アルミニウム(腐食)、非結晶質バースアルミナイトと、3回もその主張を変えている。
 昨年9月にイ・スンホン教授とともに東京で天安事件の疑惑について記者会見した、ジョンズ・ホプキンス大のソ・ジェジョン教授は国際政治学者だ。ソ教授はソウル大物理学科を卒業後、専攻を変え、政治学で博士号を取得した人物で物理学の専門家ではない。
 イ・スンホン、ソ・ジェジョン教授とともに米国で天安爆沈事件の疑惑を提起したパク・ソンウォン氏も延世大経営学科出身で、科学者とは言えない(朝鮮日報2011/03/21)。

(2)ロシア報告書は実体なし

 韓国海軍哨戒艦「天安」爆破沈没事件の捏造(ねつぞう)説を信じる人々が国際的な根拠として提示したのが、実体のない「ロシア調査団の『天安』事件報告書」だった。
 これは、昨年5月末に韓国軍と民間による合同調査団の発表内容を検討するため1週間の日程で来韓したロシア人専門家4人が、韓国政府の調査に疑問を提起する報告書を作ったというものだ。外交通商部関係者は「こうした人々が来たのは事実だが、1週間の調査で事実を解明する報告書を作るのは難しい。ロシアはこれまで調査結果を発表しておらず、今後もそのような可能性はない」と語った。昨年ロシア調査団を支援したユン・ジョンソン元国防部調査団長も「彼らは『沈没原因が非接触外部爆発ということに異議はない』と言って韓国を離れた」と話す。
 それにもかかわらず、「ロシア報告書」疑惑は昨年、崔文洵(チェ・ムンスン)民主党元議員の報道資料によりクローズアップされ、一部メディアが報じたいわゆる「ロシア調査団の報告書要約」や、ドナルド・グレッグ元駐韓米国大使の発言などで増幅された。
 崔元議員は3月22日、朝鮮日報との電話インタビューで「今も報告書があると思うか」との質問に「私は(報告書が)あるかどうか知らない。あのとき、ロシア大使は2−3週間後に明らかにすると言っていた」と答えた。
 *崔元議員は昨年6月、駐韓ロシア大使とロシア調査団の活動について交わした対話の内容を報道資料として配布したが、一部インターネットメディアがこれを基に「ロシアは内部爆発との暫定結論を出した」と報道、注目を集めた。しかし、ロシア大使館はこのとき「対話の内容が歪曲(わいきょく)された」と反発、崔元議員も「原因についての言及はなかった。一部メディアが拡大解釈したもの」と話す。
 「陰謀論」に加担したグレッグ元駐韓米国大使も22日、朝鮮日報との電子メールによるインタビューで、「天安」事件について「私はまだ疑問を持っている」としながらも「韓国政府が(最終調査結果を)発表したもので『天安』問題は全て終わったではないか」と語った。グレッグ元大使は昨年9月、「『天安』沈没は事故の可能性がある。信頼の置けるロシアの友人から直接聞いた」と述べ、注目された。だが「具体的に言って、どのような疑問を持っているのか」との質問に、元大使は「わたしの疑問は重要ではない。今、わたしが関心を持っているのは、米韓が北朝鮮と対話を始めるべきだということだ。北朝鮮に食糧を与えることが対話開始の方法になるだろう」と答えた(朝鮮日報2011/03/23)。

(3)政治利用した民主党も弁明に汲々

 民主党の天安事件に関する論評は計249件で、月平均20.7件だった。このうち、延坪島砲撃以前が225件、砲撃以後は24件だ。
 民主党の孫学圭(ソン・ハッキュ)代表は22日、朝鮮日報記者の「哨戒艦沈没は北朝鮮の犯行と断言できないのか」との質問に対して、「さまざまな疑問や疑惑は今も解決していない。これは政府に対する総体的な不信に起因している」と回答した。鄭東泳(チョン・ドンヨン)最高委員は「政府が推測する理由には合理的な疑問点が残っている。政府を信じなければ愛国者でないというのであれば、それはまさに朴正熙(パク・チョンヒ)式の独裁だ」と述べた。さらに丁世均(チョン・セギュン)最高委員は「政府が出した結論に何らかの真実があるとしても、まだ明快に整理されていない」とし、朴智元(パク・チウォン)院内代表は「われわれは北朝鮮の犯行であることを否定したことも、認めたこともない。真実の究明は不十分だ」と回答した。岩礁との衝突説や疲労破壊説を主張した金孝錫(キム・ヒョソク)議員は「いつかは疑惑が晴れるだろうが、それは歴史に任せよう」として即答を避けた(朝鮮日報2011/03/23)。
 同党指導部の議員たちは、これらの回答の根拠として「政府による情報提供は不十分」との点を強調した。しかし政治ポータルサイト「サプライズ」のシン・サンチョル代表が合同調査団を離脱した経緯を振り返れば、民主党が哨戒艦沈没の真実を解明するために、どれほどの努力を傾けたのか疑問に感じざるを得ない。シン氏は「北朝鮮の魚雷に書かれていた『1番』という文字は韓国側が書き入れたものだ」と主張した人物だ。これが延坪島に打ち込まれた砲弾の残骸からも『1番』の数字が発見されることで捏造であったことが判明している。
 *民主党が合同調査団のメンバーとして推薦したのはシン氏だけだった。シン氏は宣伝扇動の経験は豊富だが、科学的な知識は決して豊富とはいえない。シン氏は4月20日に合同調査団に合流したが、その初日から韓国軍による捏造(ねつぞう)説を主張したため、国防部(省に相当)はシン氏の交代を求めた。民主党はシン氏の代わりとなる人物を推薦せず、シン氏も調査団での活動を中断した。すると民主党指導部は「政府は情報を遮断している」として突然攻勢をかけはじめ、今も同じ主張を展開している。

(4)口つぐむ「陰謀論」吹聴者たち

 「陰謀論」吹聴者たちはいま、何らかの口実を設けて発言を避けている
 詭弁に長けた白楽晴(ペク・ナクチョン)ソウル大名誉教授は、天安事件について疑惑を指摘し続けてきた代表的吹聴者だ。白教授は5カ国による合同調査結果が、「理性」と「科学」の基準に合致しないと主張した。しかし今、口をつぐんでいる。朝鮮日報が電話で「ずっと人文学を専攻してきた白教授が科学分野に言及した理由」について尋ねると、白教授は「(科学は)全て人文学の一部とも言える」と答えたという。あきれた詭弁である。
 姜禎求(カン・ジョング)元東国大教授は、昨年6月の退任講演で、「天安を事件化したのは、韓国と米日の守旧勢力が歴史の流れを逆行させようと主導した悪行の一形態だ」と述べた。姜教授は「現在は(国家保安法違反事件で)執行猶予中のため、発言を厳しく自粛している」として、朝鮮日報の電話取材を断った。
金容沃(キム・ヨンオク)世明大碩座(せきざ)教授(寄付金によって研究 活動を行えるよう大学の指定を受けた教授)=元高麗大教授=は、昨年5月の講演で「調査結果の発表を見たが、私は0.0001%も納得していない」と述べた。朝鮮日報記者が金元教授の事務所を訪ねたが、事務所関係者から「教授は新刊準備で多忙なので、天安事件に関するインタビューは遠慮する」と説明されたという。
 天安爆沈後、バブルジェットが起こった可能性を最初に指摘した韓国機械研究院のチョン・ジョンフン本部長は、朝鮮日報の取材に対し「合同調査団の調査結果を受け入れないグループは、周りからさまざまなことを聞いても、それらの内容を理解できない小学生のようなものだ」「現代科学によって99%まで真実が明らかになっているにも関わらず、北朝鮮の犯行であることを信じたくないのであれば、99%の強弁に1%だけ科学の服を着せ、真実を覆い隠そうとするだろう」と指摘した。無知よりも害が大きいのは、無知に虚偽の服を着せた強弁だ。それは他人を欺く以前に、自らを欺く行為となるからだ(朝鮮日報2011/03/22)。
 李明博大統領は3月25日拡大秘書官会議で、北朝鮮の攻撃という点に疑問を提起している人たちを意識したかのように、「1年前、私たちは加害者の敵の前で国論が分裂していた。胸が痛む」とし「当時、北朝鮮が主張するように真実をわい曲した人たちの中には、一人も勇気を持って過ちを告白する人がいなかったというのが、私たちをさらに悲しくさせている」と述べた。

3、変化した韓国の世論

(1)「北の犯行」めぐり揺れ続けた世論

 昨年1年間、哨戒艦「天安」爆沈をめぐり韓国の世論は大きく揺らいだ。哨戒艦が爆沈してから2週間後の4月6日にGHコリアが発表した世論調査の結果によると「哨戒艦が沈没したのは北朝鮮の潜水艇が発射した魚雷が原因」と答えたのは、回答者の半分にも満たないおよそ46%だった。しかし、その後は北朝鮮の犯行であることを示す証拠物が次々と公開されたこともあり、5月20日に軍民合同調査団が調査結果を公表した直後、この数値は70%以上にまで上がった。
 李大統領の演説は、6月2日の統一地方選挙をわずか1週間後に控えた時期に行われたこともあり、直ちに政争の種となってしまった。野党は「戦争か平和か」というスローガンを掲げ「今、韓半島(朝鮮半島)は戦争か平和か、共滅か共生かという岐路に立たされている」などと危機感をあおった。結果的にこのスローガンは国民の不安を極度に高め、前戦を守る兵士たちが家族に電話を掛け「戦争を防いで欲しい」と訴えることもあったという。その後、6月2日の統一地方選で与党ハンナラ党は、16ある広域市や道などのうち10カ所を野党や無所属候補に奪われた。
 7月12日にソウル大学統一平和研究所と韓国ギャラップが行った世論調査では「哨戒艦爆沈は北朝鮮の犯行」とする政府の発表について「信頼しない」(35.7%)が「信頼する」(32.5%)を上回り、「信頼すると信頼できないが半々」という回答も31.7%だった。政府の発表に対する国民の信頼は、一時は70%台にまで高まったが、これが一気に半分にまで落ち込んだのだ。

(2)北の延坪島砲撃後、韓国民の80%が「北朝鮮の仕業」

 世論の流れは、11月23日の延坪島砲撃で再び大きく変わった。12月28日にジ・オピニオンが行った調査では「哨戒艦爆沈は北朝鮮の犯行と信じている」とする回答は83.6%まで上昇し、今年2月のハンギルリサーチの調査でも80%だった(朝鮮日報2011/03/23)。
 韓国人10人に8人は、天安(チョンアム)艦沈没を北朝鮮の挑発によるものと考えているということだ。また、10人に6人以上が6者協議や南北対話のためには、北朝鮮の公式謝罪が先行されるべきと考えている。
 天安艦沈没事件発生から1年が過ぎたことを受け、文化体育観光部が全国成人男女1000人を対象にアンケート調査を行い、22日発表した結果によると、「天安艦沈没事件は北朝鮮の挑発で発生したと思うのか」という質問に、回答者の80.0%が「そうだ」と答えた。
 6者協議や南北対話のため、「北朝鮮が公式謝罪を先にしなければならない」と答えた比率は65.0%だった。これは「謝罪がなくても対話できる」と回答した比率(32.8%)の2倍近い数値だ。
 「天安艦沈没のような事件が発生しないようにするために、何が優先されるべきと思うのか」という質問に、回答者の41.1%は「国民の団結した安保意識」を挙げた。さらに強い軍隊のための国防改革(34.9%)、米国など友好国との軍事協力の強化(19.0%)の順だ。
 「現在、全般的な安保状況はどうだと思うのか」という質問には、回答者の52.0%が「不安だ」(とても不安11.6%、少し不安40.4%)と答えた。「安保状況が不安だ」と答えた比率は、天安艦沈没事件直後の昨年4月には66.8%、延坪島(ヨンピョンド)砲撃直後の昨年11月には81.5%だった。
 「天安艦沈没事件に政府と軍の対応が適切だったと思うのか」という質問には70.3%が「適切でなかった」と答え、「適切だった」と答えた比率(26.3%)よりかなり高かった(東亜日報2011.3.24)

4、韓国の深刻な教訓

 24日に発刊された「哨戒艦『天安(チョンアン)襲撃事件白書』には、韓国の教訓として@事件発生前、軍当局の粗雑な対北朝鮮警戒態勢、A事件直後の初動措置の混乱、B事故調査の不備な点、C国民との意志の疎通不足など、全般的な問題点に対する軍の痛烈な「自己反省」が含まれている。国防部関係者は、「天安艦事件での失敗を二度としないよう歴史的教訓とするという趣旨で厳しく評価した」と述べた。

●「消えた潜水艇、知りながら粗雑な対応」

 白書は、北朝鮮の奇襲の可能性に対する不十分な情報分析と粗雑な対応で、天安艦沈没事件が起きたと分析した。09年11月、大青(テチョン)海戦直後、北朝鮮の潜水艇が北西海域で密かに進入し、魚雷で韓国の艦艇を攻撃する可能性を予想し、警戒態勢を強化したが、天安艦事件発生5週間前の昨年2月18日、特異な挑発の動きはないとしてこれを解除したと指摘した。
 特に、沈没3日前の3月23日から、北朝鮮海軍第11戦隊のサンオ級潜水艦とサンオ級潜水艇、予備母船が基地から出港後、行方が分からず、事件当日も、基地を離れたサンオ級潜水艇と予備母船数隻の行方が分からなかったが、軍当局は対潜水警戒態勢を強化しなかった。

●「報告遅れ、しかも不正確…釈明に汲々」

 事件初期、軍の危機管理システムに伴う対応措置も、「自己反省」の俎上に上った。天安艦沈没の状況が、合同参謀本部議長など軍首脳部に時間が経ってから報告され、韓米連合軍司令部にも事件発生から43分後に伝えられるなど、初期対応に支障が生じた。
 また、沈没原因を巡る判断に混乱を来たし、外交安保関係長官会議でも、北朝鮮の攻撃の可能性に対する慎重な判断を強調し、迅速で体系的な状況措置がなされず、初期対応がスムーズに行われなかった。さらに、生存者の救助と北朝鮮潜水艦の追跡など、事件が最初に発生した時間が不正確に報告され、夜間暗視感知装備(TOD)の現場映像などの資料が十分に共有されず、釈明に汲々としたメディア対応で、国民の不信を招いたと指摘した。

●「無理な救助、生存将兵に不十分な対応」

 捜索・救助の初期に、緻密な状況分析がなされず、天安艦の艦体と共に海へ沈んだ将兵の「69時間の生存の可能性」のため、艦体の引き揚げが遅れたと反省した。世論に押された無理な救助でハン・ジュホ准尉が犠牲となり、潜水病患者も発生する副作用がもたらされたという指摘も含まれている。
 また、海軍の救助艦と掃海艦が、鎮海(チンヘ)基地から現場海域への移動に20〜40時間かかり、大統領府と国防部、一線の部隊に至る有機的な連携体制が不十分だったことを指摘した。さらに、天安艦の生存将兵が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などで苦痛を受けたものの、彼らに対する安定化プログラムが不十分だったと反省した。

●「別機種の魚雷公開、呆れる失態」

 軍当局は、天安艦事件が類例のない安保危機事態だったため、初期の合同調査団の構成過程で、様々な不備な点が露わになったと指摘した。また、合同調査団が昨年5月20日、事件の総合発表で、天安艦を攻撃した北朝鮮の魚雷を説明する際、別機種の魚雷の絵を公開する失態を犯し、混乱を招いたと指摘した。

●「疑惑への対処不十分、国民の不信を招く」

 事件初期、軍首脳部が、国会や各政党の報告などがあまりに頻繁に行われ、現場の状況把握や救助作業など、後続措置に困難が生じたと指摘した。軍当局が機密とセキュリティを理由に情報を遮断し、座礁説と米軍潜水艦衝突説など、各種疑惑に十分に対処できなかったため、偏った世論が形成され、これにより国民の不信を招いたと指摘した(東亜日報2011.3.25 07:59)。

5、白書に記載されなかった問題点の数々

 「哨戒艦『天安(チョンアン)襲撃事件白書』には、重要な問題であるにもかかわらず言及されていないものも多い。

(1)韓国軍と国家情報院による北朝鮮関連情報の共有問題

 韓国軍の情報当局と国家情報院は、北朝鮮関連情報の収集に関しては互いに異なる強みを持っている。韓国軍は韓米連合司令部を通じて衛星写真などを入手できるほか、独自に盗聴を行って得た情報もある。一方の国家情報院は「ヒューミント」と呼ばれる人間やメディアを媒介とした諜報活動に強く、工作活動などで北朝鮮内部の動きも把握している。韓国政府の情報筋は「情報機関の特性からして、デリケートで重要な情報は共有しない傾向が強い。このように韓国軍と国家情報院が別個に活動を行えば、北朝鮮が挑発してきた場合に総合的な判断ができなくなるかもしれない」と語る。しかし、韓国軍も国情院も、哨戒艦爆沈後でさえ互いに協力しようとはしなかった。その結果、延坪島が砲撃されるという事態まで招いたが、それでも定期的な情報交換は行われなかった。今月になってようやく1週間から2週間ごとに北朝鮮に関する軍事情報を交換し始めているが、白書ではこのような双方の情報共有問題については一切言及していない。

(2)北朝鮮に対する安易な認識

 2009年10月から11月にかけ、南北は首脳会談に向けて極秘に接触していた。しかし北朝鮮は10年1月から「報復聖戦」などと不穏な言葉を使いながら脅迫を開始し、西海(黄海)NLL(北方限界線)に向けて海岸砲を放つなど、挑発の動きを本格化した。そのような状況でも韓国政府内には「南北首脳会談は近く実現可能」とする雰囲気が強く残っていた。昨年3月に哨戒艦が爆沈した直後、大統領府は「(事故原因について)即断するな」という指示ばかり下していたが、それもこのような事情が影響していたのは間違いない。白書は、朝鮮人民軍による当時の異常な動きを見逃した点は認めているが、その原因については触れていない。

(3)陸海空軍の統合問題

 哨戒艦が爆沈した当時、合同参謀本部内の対策本部にいた海軍将校は、直属の上官である合同参謀議長や国防長官ではなく、大統領府に出向している海軍の先輩に最初に事件について報告した。また、空軍戦闘機は事件発生から1時間21分後に出動し、陸軍はしばらく非常態勢さえ発令しなかった。このように哨戒艦爆沈直後の一連の対応のまずさから、各軍の連携に問題があることが表面化したことを受け、国防部は昨年12月に大統領府で新年業務報告を行う際、合同軍司令部の新設を含む軍の指揮系統改編案について報告した。しかし白書では、問題発生直後の報告に問題があったことは認めつつも、陸海空軍が連携する際の根本となる統合に関する問題については一切言及していない。
 *韓国軍の情報当局と国家情報院(国情院)が3月に入り、定期的に接触を重ね、北朝鮮の軍事情報に関する評価会議を開いていることが、23日までに明らかになった。軍の消息筋はこの日「軍の情報当局と国情院は今月初めから、1−2週間に1回ずつ相互に往来し、北朝鮮の軍事情報を交換している」と語った(朝鮮日報2011/03/24)。

(4)哨戒艦爆沈後の外交駆け引きの失敗

 国連安全保障理事会は昨年7月、哨戒艦「天安」への攻撃を糾弾する議長声明を採択したが、攻撃の主体が北朝鮮であるとは明記しなかった。「犯罪行為はあったが犯人はいなかった」という形の声明となったわけだ。哨戒艦爆沈事件とは関係ないと訴える北朝鮮の虚偽の主張も、声明に反映された。「中国を説得できなかったことが、最終的に哨戒艦爆沈後の外交駆け引き失敗につながった」とする声は、当時から多かった。しかし白書には「中国との意思疎通を図るために努力した」としか記載されていない(朝鮮日報2011/03/25)。

以上

 
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