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米議会と主要部署、トランプの対北宥和を牽制

コリア国際研究所 朴斗鎮

2018.7.3

1、米朝会談後トランプが語った「出まかせ発言」と方針の後退
2、米議会や米国の主要部署がトランプへの牽制に動く
3、米朝首脳会談の裏で動くクシュナー氏

 トランプ米大統領の発した駐韓米軍の撤退発言などで米韓の根本的利益と東アジアの安定に影響が及ぶのではないかとの分析が出始めている。特に6月12日の米朝首脳会談後の様々な発言には物議を醸すものが多い。トランプ氏の嘘言または誇張発言が就任後一貫したものであるからだ。
 ワシントンポストは去る5月2日、トランプ大統領が、就任した昨年1月から今年4月末にかけての497日間に、3253回のウソと誇張を行ったと報道した。1日少なくとも5回はウソをついていることになる。
 米朝会談後の発言でもトランプの「出まかせ」発言は続き、米国の議会や情報機関、国防部などからの反発が表面化し始めている。

1、米朝会談後トランプが語った「出まかせ発言」と方針の後退

 トランプ大統領は6月17日に金正恩と電話会談を行うと発言したが電話会談どころかすぐさま行うとしていた高官の実務者協議すらいまだ行われていない。成果の一つとして21日の閣議で自慢げに語っていた東倉里のミサイルエンジン実験場の破壊についても検証されたものはない。

  米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は21日(現地時間)、12日の朝米(米朝)首脳会談以降に撮影された衛星写真を基に、北朝鮮北西部・東倉里のミサイル発射場「西海衛星発射場」でミサイルエンジン実験用の発射台を解体するなどの目立った活動は見られないと伝えた。
   38ノースによると、西海衛星発射場のエンジン実験用の発射台はこれまで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と大型の宇宙飛翔体に搭載できる大型の液体燃料式エンジンの実験などに活用されてきた(聯合ニュース2018/06/22 11:24)。

 米朝共同声明に明記され、トランプ大統領がすでに返還が行われたとしている朝鮮戦争時に戦死した米兵の遺骨返還作業もいまだに行われていない。しかしトランプ大統領は返還されたと過去形で演説した(ミネソタ州での演説)。
 駐韓米軍についても、その数が28500人なのに口をあけると32000人と言い続けており、ソウル人口が約1000万人(2015年986万人)なのに2800万人と公言してはばからない。そして最も許せない嘘は残忍な恐怖政治で統治する金正恩を素晴らしい指導者と称賛していることだ。
 また23日に放映されたTBNテレビのインタビューでも、トランプ大統領は、米朝首脳会談によって北朝鮮の核・ミサイルの脅威が緩和されたことを強調した上で、「日本で私は世界的な英雄だと思われている」とのとんでもない主張を行った。

   トランプ氏は、政権の成果を米国内の主要メディアが適切に報じていないと批判する一方、「アジアの人たちはよく分かっている。彼らは感激している」と指摘。米朝が対話に転じたことで「この6、7カ月間、日本上空をミサイルが飛んでいない。それ以前は独立記念日の花火のように(北朝鮮がミサイルを)打ちあげていたのに、だ」などと語った(毎日新聞2018年6月24日)。

 米国内で米朝首脳会談に対する批判が高まるや、トランプ氏は6月15日、金正恩委員長に対して北朝鮮の人々が行うように、自分に対しても米国民が「姿勢を正して耳を傾ける」よう望むと発言し、ソーシャルメディア上で怒りの声を噴出させた。大統領はその後、発言はジョークだったと釈明した(ロイター6/18(月) 11:48配信)がジョークで済まされる発言ではない。
 「出まかせ発言」だけではない非核化方針の後退も目につく。
 米朝首脳会談で「北朝鮮の非核化」が「朝鮮半島の非核化」となり、米国が主張していた「CVID」が「CD」となっただけでなく、非核化プロセスもいつの間にか「期限付き一括妥結方式」から「期限を切らない段階的同時並行解決」へと変質している。
 米国防総省のマティス長官が北朝鮮に対し具体的な「要求事項」を盛り込んだ予定表を近く提示するとしたのに対し、ポンペオ米国務長官はそれを否定し、北朝鮮の非核化を巡る協議に期限を設けないとの考えを示した(6月25日、米CNN)。米政府内の見解もちぐはぐな状態だ。
 そればかりか、あれほど反対していた中国の「米朝双方中断(北の核ミサイル実験中止と米韓軍事演習の中止)」まで受け入れている。

2、米議会や主要部署がトランプへの牽制に動く

 こうしたトランプ大統領の「嘘言癖」「放言癖」に危機感を感じた米国議会は、11月の中間選挙があるにもかかわらず、超党派でトランプ大統領の対北朝鮮非核化交渉を監視する法案を提出した。提案者は、シンガポール米朝共同声明があまりにもあいまいだとしていた民主党のメネンデス議員である。

1)米議会が超党派でトランプの非核化交渉を監督する法案を提出

 この法案提出について韓国のKBSワールドラジオは次のように報じた。
 【アメリカ上院で現地時間の26日、トランプ政権に対し、北韓(北朝鮮)との交渉について定期的に議会に報告するよう求める内容の法案が提出されました。
 法案は、アメリカ上院の共和・民主両党の議員によって共同で提出されました。
 法案では、トランプ大統領とトランプ政権に対し、北韓との交渉がどのように進められているか、30日ごとに書面で議会に報告するよう求めています。
 また、アメリカの目標はCVID、つまり「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」であること、北韓を核保有国と認めることはできないということ、北韓に対する軍事行動を追求しないという内容が盛り込まれています。

 議会として、トランプ政権による北韓との交渉に対する議会の監督権を強化する狙いがあるものとみられています。
 さらに、法案では、在韓米軍の撤退について、「北韓の核交渉で、韓国駐留アメリカ軍の撤退は交渉の項目になってはならない」としたうえで、「韓米の定期的な演習を含む強固な軍事態勢が北東アジアの平和・安定において極めて重要」としています】(KBSワールドラジオニュース 2018-06-28)。
 この法案提出に先立ち、米下院は5月25日に駐韓米軍を22000人以下に縮小してはならないとする2019年国防授権法を通過させた。上院の国防授権法も6月18日に通過した。両法案は上下院ですり合わせを行いトランプ大統領のサインもって成立する。
 また米下院は6月27日、北朝鮮人権法を2022年まで継続するための北朝鮮人権法再承認法案を可決した。すでに上院で可決しており、トランプ大統領が署名すれば成立する。法案に関わった共和党のルビオ上院議員は声明で、北朝鮮が拉致や拷問など組織的な人権侵害を続けているとし、トランプ氏に署名を求めた。同議員は「北朝鮮の人権問題は無視してはならず、いかなる合意にも人権の要素が含まれる必要がある」との声明を発表し、非核化をめぐる米朝協議で人権を重視するよう促した。

2)米情報機関も「核危機は終わった」とするトランプを牽制

 そればかりではない。29日の米NBCニュースは、米情報機関が行った分析によるものとして、北朝鮮が核兵器の原料となる高濃縮ウランの生産を強化していると報じた。朝鮮半島の非核化をめぐって、北朝鮮が米国から譲歩を引き出すために動いている可能性があるという。
 それによると、最新の分析では北朝鮮は核実験場を爆破したが、これとは別に秘密の核サイトが少なくとも二つ以上あると結論づけた。これも「核の脅威は終わった」としたトランプ大統領の発言と異なる。
 また、最新の分析の内容を知っているという米政府関係者は、北朝鮮はミサイルや核実験を中止したが、「核兵器の備蓄量を減らし、生産を停止したという証拠はない」と語ったという。別の政府関係者も「北朝鮮が米国をだまそうとしているという確かな証拠がある」と述べたという。
 トランプ大統領は今月12日にシンガポールで行った米朝首脳会談後、「北朝鮮の脅威は無くなり、平和になった」と語った。NBCは、情報機関の分析はトランプ氏の発言に反する内容だと指摘した。(朝日デジタル2018年6月30日10時17分)
 この報道を裏付けるようにワシントンポスト(WP)も、6月30日(現地時間)、米国防情報局(DIA)が6・12米朝首脳会談後、新しく収集した情報をもとに、「北朝鮮が完全な非核化に出ておらず、核弾頭および関連機器・施設の隠蔽を追求している」という内容の報告書を最近出したと報じた。WPは、4人の米国の官吏の話を引用し、北朝鮮は、米国が自分たちの核プログラムをすべて把握していないと確信して、核弾頭とミサイル、核開発関連施設の種類と数を減らす方法を探っているとDIAが結論を下したと報道した(朝鮮日報韓国語版2018・7・2)。
 この動きは、トランプ大統領の無責任な行動を情報機関が牽制する動きとして捉えられている。

3)マティス国防長官もトランプの認識に同意せず

 ここで注目されるのはマティス国防長官の動向だ。NBC放送は25日、複数の消息筋の話として「マティス長官がトランプ政権の核心外交・安保政策決定から事実上排除されている」と伝えた。いわゆる「マティスはずし」だ。マティス氏が提起した「非核化タイムライン」の主張を1日もたたずに引っ込めなければならないほど北朝鮮問題においてポンペオ長官に押されているということだ。同放送は「昨年12月に駐イスラエル米大使館をエルサレムに移転する問題にマティス長官が強く反対してからトランプ大統領との関係が遠ざかった」と報道した。
 特にシンガポール会談後の記者会見でトランプ大統領が韓米合同軍事演習中断の方針を明らかにする過程でもマティス長官の意見はまったく反映されなかったという。マティス長官は会談終了後に当時シンガポールにいた国防総省のシュライバー次官補(アジア太平洋担当)から関連事実の報告を受けたという(中央日報2018・6・27)。
 こうした冷遇を受けながらもマティス国防長官米国の主流保守派の安保体制に対する認識を変えていない。

マティス長官、アジアへの安保関与継続を強調

 トランプ発言で朝鮮半島をはじめとしたアジア安保への懸念が拡散される中、マティス氏は中韓日訪問を前にした20日、国防総省で記者団に対し、北朝鮮が非核化に向けて具体的な行動を示したかについて「私が知る限りではない」とした上で、米朝間で非核化に向けた「詳細な協議は始まっていない」と明かし、北朝鮮が現時点で具体的措置をとることを「想定していない」とした(産経新聞2018.6.21 09:22)。
 マティス長官は6月26日から中国、韓国訪問を終え28日日本に入り小野寺防衛相と会談し、アジア安保に対する認識に変化がないことを明確にした。
 マティス氏は小野寺防衛相との会談後、記者団に対し、国防長官として7回目のインド・太平洋地域への訪問であると述べ、同地域を重視していることをアピール。「米国と日本の同盟はインド・太平洋地域の安定の礎であり、同盟関係へのコミットメントは磐石だ」と語った。さらに「同盟の能力を高め、地域の安全保障を強化することで(小野寺氏と)合意した」と述べた。
 6月12日の米朝首脳会談で、トランプ米大統領が米韓合同演習の停止を表明し、将来的に朝鮮半島から米軍を撤退させる可能性に言及したことを受け、日本政府や与党関係者、専門家の間では、米軍の抑止力低下を懸念する声が出ていた。
 マティス長官は「米韓演習の一時中止は、外交官が強い立場で交渉できるようにするためのもの。北朝鮮問題の平和的解決を目指すためのもの」と語った。日米の共同訓練は継続することを小野寺防衛相と確認した。
 小野寺氏は「東シナ海、南シナ海情勢の認識を共有し、尖閣諸島(中国名:釣魚島)に日米安全保障条約第5条が適用されることを再確認した」と述べた(ロイター2018・6・29)。
 この会談後、マティス氏は安倍晋三首相と官邸で約50分間会談を行った(中国では習近平と会談したが韓国では文在寅が病気を理由に会談に出てこなかった)。この会談では北朝鮮の全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの完全、検証可能、不可逆的な廃棄を実現するため、北朝鮮に具体的な行動を取るよう求めることで一致した。

3、米朝首脳会談の裏で動くクシュナー氏

 米朝会談から3週間弱、この間のトランプ発言で彼の思惑が少しづつ明らかになっている。それは安保も人権も「ビジネス」としてとらえているということだ。
 トランプ大統領は23日(現地時間)、ネバダ州ラスベガスで開かれた共和党全党大会での演説で、「北朝鮮の金正恩委員長と私はすばらしいケミストリーを感じた」とし、「北朝鮮は途方もない潜在力を持っており、正恩氏もそのことを知っている」と話した。トランプ氏は、地元の企業家との面談でも正恩氏について「頭の良いタフガイであり、偉大な交渉家」とし、「北朝鮮が全面的な(total)非核化に参加することを信じる」と信頼を示した。
 こうしたトランプ氏の言動を見ていると、彼が自由民主主義理念を持って北朝鮮の核の脅威に立ち向かっているとはとても思えない。安全保障問題までもビジネスに変えようとしている下心が浮き上がる。昨年の「力の平和」による対北圧迫も、世界の民主主義とその同盟国を擁護するためのものではなく、北朝鮮で一儲けを企むトランプ一家の野望を実現するためのものであったのではとの憶測まで出てくる。
 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は6月17日、シンガポール在住の米国人投資家が昨年夏の時点で、米政権との対話を望む北朝鮮の意向をトランプ大統領の娘婿クシュナー上級顧問に伝えていたと報じた。米朝関係は当時、トランプ氏が武力行使の可能性を示唆するなど緊張していたが、その裏で進められた非公式ルートでの接触が今月12日の米朝首脳会談につながったというのだ。
 この投資家はガブリエル・シュルツ氏。リスクの高い途上国での案件を手掛け、北朝鮮制裁が強化された2016年まで、北朝鮮で複数の小規模事業を進めていた。トランプ氏の一族とはアジアでの事業を通じて数年前から面識があったとされる。
 シュルツ氏の一族は鉱山関連の事業で巨万の富を得ており、鉱物資源が豊富な北朝鮮と米国の関係が改善すればビジネスの好機になるとみたようだ。同氏はタイムズ紙に「私のビジネスや個人的関係については話さない」と語ったという。
 現職の米当局者を含む関係者の話として同紙が報じたところでは、シュルツ氏から北朝鮮の意向を伝達されたクシュナー氏は、自身は交渉に直接関与せず、ポンペオ中央情報局(CIA)長官(当時)に対応を求めた。外交当局でなくCIAを選んだ理由は不明だが、クシュナー氏はティラーソン国務長官(同)と折り合いが悪かった一方、ポンペオ氏との関係は良好だった(時事通信社2018/06/18 )。
 ニューヨーク・タイムズの特ダネ報道は、日本ではあまり詳しく掘り下げられなかったが、その内容を読んでみると、クシュナー氏が鍵となるということだ。中国であろうと、北朝鮮であろうと、クシュナー氏から攻めれば、トランプ政権は攻略できるということのようだ。
 シュルツ氏とクシュナー氏の関係がこの記事の通りだとしたら、北朝鮮非核化プロセスは北朝鮮資源開発投資プロセスに変質する可能性がある。またトランプ氏とカジノ王スティーブ・ウィン氏との関係もあることから観光資源開発も並行される可能性がある。安保までも金儲けに変えようとするトランプ一家のどん欲ぶりは想像以上であるようだ。

以上

 
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