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今週のニュース

文政権の太陽政策バージョンアップ人事

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2017.6.5

 朴槿恵大統領弾劾で登場した文在寅大統領は、政権の要である大統領府秘書室長に従北主体派と自他共に認める任鐘晳(イム・ジョンソク)氏を就任させた。これは韓国の対北朝鮮政策を「バージョンアップした太陽政策」へと導こうとする象徴的人事である。
 韓国で「従北」とは、北朝鮮の路線に従って韓国の現体制を転覆しようとする集団(解散させられた統合進歩党など)を指す用語だが、この命名は、民主労働党(後の統合進歩党)内部で沈相奵(シム・サムジョン、現正義党党首)らが北朝鮮追随を主張する主体思想派を批判して付けた名称である。保守派が付けたものではない。この集団(日本では朝鮮総連)は、韓国や日本で民主主義と自由を謳歌しながらその全く反対の制度である北朝鮮の首領独裁制度を擁護する奇妙な勢力でもある。
 従北勢力は、北朝鮮に融和的な親北朝鮮勢力を巻き込み、マスコミを利用してさまざまなデマ情報を流し「朴槿恵前大統領弾劾のろうそくデモ」で中核的役割を果たした。そして左派親北の文在寅政権を誕生させ、太陽政策を再び推進しようとしている。

1、破綻した太陽政策復活を再び声高に叫ぶ文政権

 彼らは韓国の体制転覆路線を「対北朝鮮融和路線」すなわち「太陽政策」の中に隠し、「北朝鮮主導の連邦制」を容認する金大中と金正日の「6・15宣言」や連邦制の具体的道筋を込めた金正日と盧武鉉の「10・4首脳宣言」の復活を狙っている。すでにこの路線が北朝鮮の核ミサイル開発を促進させ今日の深刻な事態を招いたということが定説化しているにも関わらずである。
 文在寅政権はこの太陽政策路線を再び生き返らせ強化するために過去全国大学生代表者協議会(略称、全大協)の第3代目議長を務めた従北派である任鐘晳(イム・ジョンソク、当時漢陽大学総学生会長)を大統領府の要である秘書室長に抜擢したのである。
 この従北派に影響された韓国の太陽政策支持派は文政権登場に合わせて日本でも再び動きを活発化させている。親北的な「聖公会大学」と大学間協定を結ぶ恵泉女学園大学の李泳采 (イ・ヨンチェ、46) 準教授はその代表的人物と言われている。また、日本留学後に日本の大学に籍を置く韓国人教職者の中にも「従北勢力」にシンパシーを感じ「太陽政策」を支持する人たちは少なくない。
 在日ジャーナリストの中で「太陽政策」支持者として有名なのは、コリアレポート編集長の辺真一氏だ。彼は北朝鮮を批判することもあるが、一貫して太陽政策を支持し親北派としての役割を果たしている。最近もテレビ番組「正義のミカタ」(2017・5・19)で、太陽政策が失敗したのではなく、李明博、朴槿恵政権が太陽政策を中断したために北朝鮮は核ミサイル路線に走ったと主張し、出演者から反論されていた。
 辺真一氏は6カ国協議の進行中、「北朝鮮は核を放棄する。それが金日成の遺訓だ、だから対話を続けなければならない」と主張していたが、金正恩時代になって金日成の遺訓云々が欺瞞策であり核放棄はありえないことが定説化すると、今度は「核は絶対に放棄しない。しかし北朝鮮はゴム毬と同じで圧迫すればするほど反発する。だから対話しか解決方法はない」などと破たんした太陽政策の正当性を再び主張し始めている。これも韓国における文政権の登場と決して無関係ではない。

2、太陽政策復活強化で登用された任鍾晳と徐薫

1)大統領秘書室長に従北の代表格任鍾晳(イム・ジョンソク)

 太陽政策を強化するために秘書室長に抜擢された任鍾晳氏は1966年に全羅南道長興(チャンフン)で生まれ漢陽大無機材料工学科を卒業した。漢陽大在学中の1989年には全国的規模の学生運動連合体である「全国大学生代表者協議会(全大協)」議長の座に上る。
 任鍾晳氏が「全大協」3代目の議長になった頃から「全大協」は急速に主体思想派の路線に傾いていった。1989年には、林秀卿(イム・スギョン)を北朝鮮の国際イベント「第13回世界青年学生祝典」に送り出した。そして国家保安法違反で懲役5年の実刑判決を受けて3年半の監獄生活を送った。逮捕されるまで女装したりして逃走を続け「イム・キルトン(神出鬼没した朝鮮時代の小説主人公「ホン・キルトン」をもじったあだ名)とも呼ばれたという。
 1999年に若者層を代表して新千年民主党創党推進委員に就任した。その後2000年に34歳で当時最年少国会議員(第16、17代の2回当選)となり国会議員を2期務めたが、その後落選を味わっただけでなく政治資金問題で有罪(補佐官が収賄したとして最終審で無罪)となり一時出馬もできなかった。
 任鍾晳氏は「南北経済文化協力財団」の理事長などとして北朝鮮への支援も進めてきた。北朝鮮のテレビ映像を使った韓国のテレビ局から、北朝鮮側の代理人として使用料を取り立てる交渉にも携わったとされる。
 その後親北左派の朴元淳氏(現ソウル市長)のもとで政務担当副市長となり、昨年の総選挙に出馬しようとしたが恩平乙選挙区候補競選でカン・ギョンオン候補(当選)に敗れ出馬できなかった。候補競選に落選後、朴元淳の下で再び政務担当副市長となり朴元淳派と見られていたが、2017年に文在寅陣営の秘書室長として入った。ヤン・ジョンチョルという文大統領の核心側近がその下で秘書次長に付いたという破格の待遇だった。文大統領が三顧の礼で迎えたという。
 また、国家保安法違反で有罪となり服役中に手紙交換で知り合い結婚した妻のキム・ソヒ氏は、2004年から朝鮮総連傘下の朝鮮学校へ本を寄贈する運動に参加し、朝鮮学校を何度も訪問している。これは任鍾晳と朝鮮総連との間が深く繋がっていることを示すものだ。
 そればかりか、任鍾晳氏は金正日死亡時に弔意文も送っている。これに対し北朝鮮は返礼をする際、彼の名前に「任鍾晳先生」との敬称をつけ礼を尽くした。韓国大統領や政治家に対しても「先生」という敬称をつけることがない北朝鮮がだ。
 『例えば、韓国では「親北」と批判されることがある金大中前大統領さえ、就任初期は北朝鮮の労働新聞から「クズ」呼ばわりされていた。それに比べたら「先生」は北朝鮮にとっての彼の位置づけを窺い知ることのできる事例ともいえるだろう』(WEDGE REPORT 2017年5月15日 崔 碩栄)。

2)親北の代表格徐薫(ソ・フン)を国家情報院長に

 徐薫国家情報院長内定者は1954年にソウルで生まれ、ソウル大教育学科を卒業した。その後、米ジョンズ・ホプキンス大国際関係大学院(SAIS)修士、東国大政治学博士課程を修了した。
 1980年に安全企画部(現国家情報院)に入り、2006年11月からは第3次長(対北朝鮮担当)まで務めた。彼は「1994年の米朝ジュネーブ合意」に基づく北朝鮮への軽水炉提供で2年もの間北朝鮮に常駐した人物で、金正日総書記に最も多く会った人物とされており、親北朝鮮派の中心人物の一人である。2008年に退職し、梨花女子大北朝鮮学科「招へい教授」として在職していたが、今回再び国家情報院に戻り国家情報院長という重責を担うことになった。
 大統領府は、徐薫国家情報院長内定理由について「1980年に国家情報院入りしてから2008年の退職まで28年3カ月間勤務した『正統国家情報院マン』」であり「2回の南北首脳会談をすべて企画および交渉するなど対北業務に最も精通しているとの評価を受けている」と述べ、「国家情報院が海外と対北業務に集中する上で最適な人物」とし「今後、徐薫氏が国家情報院の国内政治関与行為を根絶し、純粋な情報機関に生まれ変わる任務を忠実に遂行し、北の核問題解決と韓半島(朝鮮半島)の安定と平和を一日も早く実現すると期待する」とした。
 しかし徐薫(ソフン)国家情報院長内定者については、あまりにも北朝鮮寄りなので国家情報院長に適任かどうか疑問視されているだけでなく、その財産形成においても様々な問題点が指摘されている。
 文大統領が韓国国会聴問会に提出した徐薫氏の財産総額は35億381万ウォンとなっている。金銭的に極めて苦しかった徐薫氏が、公務員生活28年でこれほどの財産を蓄えたことに多くの人は驚きと疑惑を隠さないでいる。
 その中でも特に疑惑の目を向けられているのが、国家情報院第3次長に就任した2006年11月直後からの一年間で得た6億6,600万ウォンもの財産である。国家情報院はこれに関し説明ができないようだ。
 また国家情報院第第3次長を終えて同院を退職した後、サムソン経済研究所に入っていたことも公職者倫理法第17条に触れるのではないかとされている。この法律は退職日から 3年間、退職前 5年間所属した部署または機関の業務と密接な関連がある職場への就業を禁止したものだ。
 それだけではない。1975年7月に陸軍に入隊したのだが、兄が「身体障がい者」なので自分しか家族を支えられないとして1976年1月に軍を途中除隊した。6カ月で除隊する例は極めて異例だとしてそこにも疑いの目が向けられている。

3、太陽政策推進を背後で操る二人の人物

 文政権は特別補佐官職を設け、これまで外交安保と呼んでいた名称の前に統一をつけ統一外交安保補佐官とした。統一外交安保補佐官職が「太陽政策」の復活を目指すものであることを明確に示した命名である。この職に元中央日報会長兼JTBC会長の洪錫炫氏と盧武鉉政権時代の外交ブレーンだった文正仁氏を起用した。

1)統一外交安保特別補佐官洪錫炫(ホン・ソクヒョン)

 洪 錫炫(ホン・ソクヒョン、1949年10月20日~ )氏は、サムソン財閥会長の李健熙(イ・ゴニ)氏夫人洪羅喜(ホン・ラヒ)氏の実弟である。
 1968年に京畿高等学校を卒業。1972年にソウル大学校電子工学科で学士号を取得。1978年にスタンフォード大学で産業工学の修士号を取得。1980年にはスタンフォード大学で経済学の博士号を取得した。その後は世界銀行に入り、続いて韓国政府職員となった。そして1986年にサムスングループに参加した。
 1994年からは中央日報の発行人を務め、同社とサムスングループとの関係を密接にした。1999年から中央日報会長に就任して経営を任された。2002年から2004年までは世界新聞協会会長を務めた。
 「サムソン共和国」とまで言われた盧武鉉政権時代の2004年12月に駐米大使に就任。盧武鉉大統領の秘書室長などを務め現在大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏との関係も深めた。
 2005年7月、洪錫炫氏に贈賄疑惑が浮上した。中央日報社長だった1997年の大統領選挙の際に李会昌(イ・フェチャン、当時ハンナラ党)候補や金大中候補へ政治資金を提供し、サムスングループへの利益を誘導したという疑惑であった。これが有名な「Xファイル事件」だ。この事件で洪錫炫は2005年7月26日に大使辞任の意思を表明した。その結果狙っていた国連事務総長の座も当時の外交通商部長官だった潘 基文(パン・ギムン)氏に譲らざるを得なくなった。
 2006年12月27日に中央日報に復帰し、会長に就任した。2010年からはJTBCテレビを立ち上げ会長もつとめ保守政権打倒を準備してきた。2016年10月、JTBCテレビの孫石熙を使い「崔順実ゲート」暴露を裏で主導し、政権だけでなくサムソンをも影響下に収めようとしたことでサムスン副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)が逮捕・拘束されて対立が深まり、3月18日に中央日報会長とJTBC会長職を電撃辞任した。実質解任と言われている。

朴槿恵大統領弾劾の黒幕―洪錫炫

 朴槿恵前大統領の弾劾で韓国の伝統的保守を追い詰めた勢力は、左派従北勢力だった。その勢力を動かす人物として、保守の中に潜り込んでいた「隠れ左派」がほかでもない前中央日報会長兼JTBCテレビ会長の洪錫炫(ホン・ソクヒョン)氏であった。
 彼は、サムソン財閥の一員としてサムスンと崔順実の関係、崔順実と朴槿恵前大統領の関係情報を熟知する立場にあった。その情報をJTBCテレビに与え孫石熙報道担当社長を使って暴露報道を展開させた。この報道はねつ造だったとも言われているが、文在寅政権が登場することで追及の動きは鈍っている。
 また崔順実の娘チョン・ユラがデンマークにいることも洪錫炫が情報提供したと言われている。サムソン情報をもとにデンマーク警察とJTBCに情報を流して逮捕現場を生中継させたというのだ。
 こうしたことから洪錫炫氏は、朴槿恵大統領弾劾による文在寅政権誕生の一等功臣といわれている。その論功行賞として米国特使として登用されただけでなく、外交・安保担当の大統領特別補佐官にも任命されたというのだ。今後の外交安保政策は、彼とともに任命された延世大学名誉特任教授の文正仁と二人で指揮すると見られるが、野心家の洪錫炫氏はこれを足場に次期大統領を視野に入れているかもしれない。
 安保室長(鄭義溶)に外交畑出身を登用し、外務大臣候補者(康京和)にも外交経験のない国連職員出身の実務家を配したのも、外交・安保担当の大統領特別補佐官の手足にするためだとの観測が流れている。

北朝鮮工作員鄭己烈との関係が深い洪錫炫

 よく知られていないが、洪錫炫氏は左派だけでなく従北朝鮮人士との交わりも長い。
 現在米国で活動している従北朝鮮の有名人士(工作員とも言われている)に盧吉男(ノ・ギルナム)という人物がいるが、それよりも大物が鄭己烈(チョン・ギヨル)という人物だ。洪錫炫氏はこの鄭己烈との関係が深いのである。
 この人物は中国の精華大客員教授の肩書で北朝鮮、韓国、日本を行き来しており、小平の朝鮮大学校でもたびたび講義している人物である。また朝鮮総連の対南工作責任者ともたびたび接触している。
 鄭己烈が最近行った工作で有名なのは、昨年の北朝鮮海外食堂(中国)女性従業員の脱北を韓国の拉致と宣伝し、彼女たちの親たちから訴訟委任状を取り付け、韓国の左派弁護士集団である「民主社会のための弁護士会(民弁)」を通じて、法廷での意思確認を執拗に要求させた工作である。
 工作員鄭己烈は1980年代初に米国に留学し、そこで北朝鮮工作員と交流して自身も工作員となった人物である。米国で神学校を卒業し米国籍を得た後テンプル大学で哲学博士学位を取得した。1985年から1994年まで、「統一運動」を建て前にして数十回平壌を訪れ、1989年には平壌で開かれた「第13回世界青年学生祭典」(ソウルオリンピックに対抗して莫大な費用をかけて開催)に参加した。その時に参加していた左派従北女性林秀卿(イム・スギョン)と共に国際平和大行進も主催した。従って今回秘書室長となった任鍾晳とも関係が深い。
 2000年には「駐韓米軍虐殺蛮行真相究明」を掲げた「全民族特別調査委員会」初代事務総長に就任し反米活動を行った。一時韓国入国が禁止されていたが、盧武鉉政権の時に解除され2005年に韓国に牧師として入国した。2005年に米国の神学学校教授となり後に韓国の聖公会大学教授となる。
 鄭己烈は韓国左派系列のメディアに北朝鮮の独裁体制を擁護美化する文章をたびたび掲載し、朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」にも反米的文章を寄稿しているだけでなく、朝鮮総連とも密接な連携を取っている。
 また親北朝鮮学者の姜万吉氏が金大中政権時代の2001年に創刊した雑誌「民族21」の編集企画委員も務めた。「民族21」は2005年5月末から曹渓(チョゲ)寺のミョンジン僧侶が発行人となり姜万吉氏は顧問になるのだが、その時の編集企画委員長はシン・ヨンボク聖公会大学教授だ。また金日成を英雄と称えるハン・ホング聖公会大学教授と北朝鮮擁護を主張する金根植北韓大学院教授が編集企画委員を務めたのだが、鄭己烈も2005年に韓国に帰国するや否や編集企画委員を務めた。鄭己烈は2006年に中国にも渡り社会科学院招へい教授になり現在は精華大学客員教授となっている。
 鄭己烈は天安艦爆沈事件を韓国の陰謀だと今も宣伝している。2010年7月には中国CCTVに出演し、韓国民の78%が天安艦事件に対する韓国政府の立場に反対しているとの虚偽宣伝を行った。そしてこの事件は1963年に米国がねつ造したベトナム・トンキン湾事件と同じだとも主張した。こうした功績で彼は北朝鮮から多くの勲章を授与され英雄扱いされている。

2)統一外交安保特別補佐官文正仁(ムン・ジョンイン)

 文政権で外交安保補佐官に任命されたもう一人の親北人士文正仁氏は1951年に済州道済州市で生まれた。オヒョン高等学校を卒業後延世大学哲学科に入学。延世大学校政治外交学科教授を経て現在は名誉特任教授となっている。専門は国際政治で盧武鉉大統領の外交ブレーンを勤めた。いわゆる「自主派」として知られている。2000年と2007年の南北首脳会談にも随行。2007年5月14~18日平壌を訪問している。
 盧武鉉政権時代に忠清南道唐津郡行淡島(チュンチョンナムド、タンジングン、ヘンダムド)の開発事業に不適切に関連して大統領諮問北東アジア時代委員長を解任(2005・5・27)される。また息子の韓国国籍放棄や兵役免除問題のため、内定していた国家情報院長にも起用されなかった
 文正仁氏の主張は、彼が主導したものと言われている盧武鉉政権時代の対北朝鮮政策である「平和繁栄政策」において端的に見られる。
 この政策は「韓半島に平和を増進させ南北の共同繁栄を追求することで、平和統一の基盤を作り、北東アジア経済の中心国家としての発展の土台を築くこと」であるとされ、具体的には、「周辺国家と協力して当面の北朝鮮核問題を平和的に解決し、それに基づいて南北の実質協力増進と軍事的信頼構築を実現し、米朝・日朝関係正常化を支援することで、韓半島の平和体系を構築し、南北共同繁栄の追求で、平和統一の実質的な基盤を作り、北東アジア経済中心国家建設の土台を作ろうとする」というものだ。この彼の主張は今も変わらない。文政権が登場したことでむしろ強まったと言える。
 この政策の荒唐無稽なところは、南北関係の本質を、制度の異なる国家間の単純な関係のごとく捉えているところにある。しかし南北関係は同族戦争を引き起こしたことから見ても、「統一をめぐる同一民族内の主導権争いと冷戦構造の残滓がもたらした国際関係の総体」であることは明らかだ。核ミサイル開発を急ぐ最近の金正恩の行動を見てもそれは自明のことだ。
 しかし文正仁氏は、南北関係の中に潜む「権力のヘゲモニー争い」、「周辺国の利害対立」といった厳しい側面を見ようとせず、「平和共存」という単純構図ですべての対立を解こうとするのである。そして、「平和」を絶対的価値観と位置づけ、「相手に譲歩しても平和の維持が優先されるべき」と主張する。
 こうした考えに対して故黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記は次のように批判していた。
 「元来同一民族がお互いに違う制度を持って平和的に共存することはできない。他の国ならまだしも、同一民族であるからこそどちらかが主権を持つことになるからだ。全国が金正日の私的所有である北朝鮮と主権が国民にある自由民主主義韓国がお互いに平和的に共存することはできない。それゆえ統一戦線戦略は首領の領土を広げて首領の支配権を広げることが唯一の目的となるのである」(黄長燁「金正日体制と南北関係の展望」コリア国際研究所2008.3.18)。
 だが文正仁氏は北朝鮮核問題の解決も「平和共存」方式で可能だと考えている。彼はこうした非現実的論理を前提にして仮説を立てた上で、「北朝鮮核問題の解決」が実現できれば、韓国が「北東アジア経済中心国家」になれるとの途方もない「飛躍した幻想的結論」に導く。文正仁氏の「ロマンチックな幻想」は学問研究の「暇つぶし」にはなるが実践ではいつも失敗している。失敗しているだけでなく韓国の安全と東アジアの平和を危険にさらしている。
 「平和」を「譲歩」によって得ようとすれば結局「侵略」を招くという教訓は、すでに1938年に「ミユヘン条約」を推進した当時のイギリス首相ネヴィル・チェンバレンによって経験済みだ。また「平和」が危機に瀕した1962年に起きた「キューバ危機」も、米ソ間の「話し合い」で「平和」を維持したものではない。
 「6・15共同宣言」や「10・4首脳宣言」を憲法の上に置き、口を開けば「平和」を語る文正仁氏であるが、1991年12月13日に韓国と北朝鮮との間で締結され、1992年2月19日に発効した、北朝鮮の非核化まで謳われた「南北間の和解と不可侵および交流、協力に関する合意書」(南北基本合意書)については目もくれない。
 文正仁氏は機会あるごとに「太陽政策のどこが悪いのか分からない」などと開き直った発言を繰り返す「太陽政策絶対論者」と言える。大統領特別補佐官になった文在寅政権で、彼はこの主張を一層強め、北朝鮮への制裁解除を進めて再び経済援助を与える先頭を走ろうとしている。
 最近も彼は韓米同盟とその地位協定を精査もせず、また4月26日の「THAAD(高高度防衛ミサイル)」搬入を文大統領が承知していたのを知りながら、韓国の週刊誌「ハンギョレ21」とのインタビューに応じ「THAAD(高高度防衛ミサイル」)配備は手続きの正当性に問題がある。国防部(省に相当)を通じて米国に暫定的に中断を要求せざるを得ない」と述べ(朝鮮日報日本語版2017・6・2)大統領府を混乱させたばかりか韓米関係にも悪影響を与えている。

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 「太陽政策」を信奉する親盧、親文勢力が今回政権を握った理由は、彼らが何かに優れていたからではなく、前大統領のミスと能力不足に付け込んだ巧妙な「弾劾劇」の成功がもたらしたものと言っても過言ではない。
 ただし前任者の失敗による有利な状況はそう長くは続かないだろう。すでに首相と外務部長官候補の偽装転入、外務部長官候補長女の二重国籍保有問題と二人の娘の贈与税滞納問題が発覚し公約違反が露呈した。公正取引委員長候補金尚祚(キム・サンジョ)氏にも偽装転入だけでなく不動産取引での価格操作や、妻が公立高校の英会話講師に採用される際の圧力、さらに息子が兵役中に特別待遇を受けたといった疑惑が次々と指摘されている。
 いつ、どのように変わるか分からないのが民心というものだ。こうした小さなつまずきが重なってどのように広がるかは誰にも分からない。今は「蜜月」期間ということで世論調査でも支持率が80%などとなっているが、今後の展開は未知数だ。
 文大統領が成功した大統領となるためには謙虚な姿勢を持ち続け、朴槿恵政権の否定面と肯定面を客観的に精査し肯定面は継承する姿勢を見せる必要がある。特に安保面での政策は、韓米同盟強化の意味でも継承すべき面が多くある。
 しかし文政権は、国際社会と米国が制裁を強める中で、対北朝鮮制裁を緩め、THAAD(サード)ミサイル配置に異議を唱え、保守政権がやっと米国に承認させた対北朝鮮抑止のための作戦統制権まで返還を求めようとしている。このような姿勢が続けば、トランプ政権は北朝鮮攻撃のフリーハンドを手にするために、米日同盟を強化し中国と手を結び韓国を切り捨てるかもしれない。そうなれば韓国自体が沈没しかねない。
 すでに韓国を訪れ文大統領を表敬訪問した米国のダービン上院議員(民主党)は6月1日、メディアとのインタビューで「韓国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)を願わないのであれば、(THAAD配備に必要な)9億2300万ドル(約1030億円)を別のところで使うと文大統領に伝えた」と発言している。
 文大統領が韓米同盟の維持を願うならば、G7で安倍首相が示した「国際社会は非核化と引き換えにさまざまな支援をしたが、北朝鮮は何度も約束を破ってきた」「今は対話のための適切な条件が整うというにはほど遠い。国際社会が連帯して圧力をかけるべき時だ」(産経新聞2017・5・27)との認識を謙虚に学ばなければならない。そうしなければ米国との亀裂は深まりその外交安保政策は必ずや壁にぶち当たることになる。そうなれば韓国の外貨保有の多くを占める短期資本は国外に逃避することになり、それはそのまま韓国経済の弱体化につながる。雇用の回復どころではなくなるだろう。
 文大統領は周りのおだてに乗って調子に乗ってはいけない。韓米同盟が韓国にとってどのような意味をもっているかを今一度冷静に熟慮する必要がある。

以上

 
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