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今週のニュース

[孫光柱コラム]
文候補の対北朝鮮政策はなぜ昔の水車なのか?
「北朝鮮核−朝鮮半島平和体制並行論」の落とし穴

デイリーNK 統一戦略研究所所長 孫光柱
デイリーNK(2012・11・26)より翻訳転載

2012.11.30

 2012年韓国大統領選挙における候補者間の政策競争は、本来は経済と安全保障が二つの軸だった。経済がよくなれば安保がよくなり、安保がうまくいけば経済もうまくいくようになっている。つまり、この二つの課題を抜きにしては大統領選は「人気投票」にしかならない。
 今回の大統領選挙は、この間、野党候補の単一化問題に注目が集まり、「経済」と「安保」の二つの課題はどちらも有権者の目にはっきりと映し出されなかった。「福祉」は様々な経済課題の一つに過ぎないにもかかわらず、必要以上に強調された。「経済民主化」も手につく有効なものはこれといってない。
 安保はNLL(北方境界線)議論がすこしあっただけで、本質的な北朝鮮問題は見失われたままだ。北朝鮮問題にしても、核、改革開放、人権、平和統一などがあるのだがいまだに候補者間の未来志向的論争はなされていない。

安保問題と関連した「爆弾」

 ところで、現在は火が付いていないが、安保問題と関連した「爆弾」が1つ息を潜めている。それは「平和協定」問題である。平和協定は昨年、白楽晴(ペク・ナクチョン)教授らが「2013年体制」を主張しはじめた頃から汎野党全体をまとめる共同課題のようになっている。
 「汎野党」と言ってもそのスペクトルは多様だ。民主統合党内には自由、人権、民主主義、公正な市場、法治を重視する合理的な人物が少なくない。実際、彼らが民主統合党の正統派であり嫡子なのであるが、いまは頭に何も入っていない親盧勢力に押されている。
 これら正統派の民主勢力を「右側」に置き左側に少しずつ移動させると、進歩新党社会民主主義グループ−親盧486−統合進歩党−汎民連・進歩連帯など各種従北NL系−韓国内地下党−平壌世襲政権へと繋がっていく。

 *平壌の世襲政権は決して「一番左側」ではなく、彼らこそ「金日成民族第一主義」と「先軍暴力」を掲げる王朝的極右ファシストなのに韓国でのみ「民族主義の進歩左派」と偽装されている。フランス革命後、朝鮮半島でのみ現れた奇怪な現象といえる。

 この内、正統派の民主勢力−社会民主主義グループ−「親盧の中で少しまともな人」を除くと、ほとんど親北・従北勢力である。そのため平壌から韓国内の地下党に指示が下されると、一番左側から右側へと少しずつ移動しながら、正統派民主勢力まで影響を受ける構造となっている。
 結局、民主党の正統派勢力と社会民主主義グループが自分達の立場と位置をしっかりさせないと、意に反して彼らの宿主の役割をしてしまうことになる。過去のロシアでボルシェビィキがドイツの社会民主党内の左派を利用し、コミンテルン統一戦線を形成したのと似ている。
 今、汎野党から出ている「朝鮮半島平和協定」問題がまさしくその統一戦線と似ている。親北・従北勢力が運営するウェブサイトを見てみると、すでに内容が完成し、サインさえすればいい「朝鮮半島平和協定文」まで流布されている。核心内容は朝鮮半島平和協定締結と在韓米軍の撤退、米韓軍事同盟の破棄である。
 この平和協定の解説を見ると、北朝鮮問題をよく知らない初めて読む人には、まるで「民族自決主義」のようにもっともらしく偽装されている。問題は、従北勢力が何故このような文献を作成し流布させているのかを知らない人が少なくないということだ。
 このような状況で文在寅(ムン・ジエイン)候補は北朝鮮核問題解決と平和協定を推進する上で、後(あと)先を区分しないで「並行せよ」と主張している。文候補は自ら「悪魔はディテールにある」と語ったが、この「並行する」との主張こそがまさに「悪魔が潜むディテール」であることに気付いているのだろうか。気になるところである。

文在寅候補の対北朝鮮統一政策の核心

 文在寅候補の対北朝鮮統一政策の核心は「朝鮮半島平和構想」と「南北経済連合」である。停戦協定を平和協定に代え、6・15、10・4宣言にのっとり南北経済連合で「統一過程」に進むというのが骨子である。キーワードは「朝鮮半島の平和構想」である。
 文在寅候補の朝鮮半島平和構想の実践ロードマップはこうだ。12月19日大統領選後の引継ぎ委員会で「朝鮮半島平和プロセス」確定→ 米韓、中韓首脳会談で調整(2013年上半期) → 南北首脳会談で談判(2013年下半期) → 各国と調整(2013年下半期~2014年上半期) →6カ国首脳宣言導出(2014年上半期) → 首脳宣言履行のための機構設置(2014年下半期)の順序となっている。
 ここで問題の核心ポイントは「北朝鮮核問題の解決と朝鮮半島平和体制議論」である。
 朝鮮半島平和体制は、北朝鮮が核廃棄の過程に入れば6者協議内別枠の朝鮮半島平和フォーラムで議論することになっている。
 2005年9月19日、第4回6者協議の1段階目の会談で採択された9・19共同声明の核心は、北朝鮮が全ての核兵器を放棄し、NPT、IAEAに復帰するという内容である。正確な文言は「北朝鮮は全ての核兵器と現存する核プログラムを放棄することと、早期に核拡散禁止条約(NPT)と国際原子力機構(IAEA)の安全措置に復帰することを公約した」となっている。またこのプロセスに合わせ、朝鮮半島平和協定、エネルギー支援などのワーキンググループを稼動させるとなっている。
 したがって朝鮮半島平和体制を議論するためには、北朝鮮がNPT及びIAEAへ復帰し、核査察など核廃棄プロセスに移行するための意味のある措置(行動)に入らなければならない。米韓両国と6者協議関連国はこのような方向で今まで協力して努力してきた。
 ところが9・19共同声明の後、北朝鮮は2006年、2009年と二度にわたり核実験を行った。北朝鮮は自分たちが核開発を行う口実として「米国の北朝鮮敵対視政策」のためと主張し、金正日は9・19共同声明に米国が北朝鮮敵対視政策を中止するとの文言を加えることまで要求した。、お笑いぐさだが9・19共同声明には「米国は北朝鮮に対し、核兵器または通常兵器で攻撃しない」という文言まで入っている。
 北朝鮮は核実験後も「米国の北朝鮮敵対視政策の放棄」と「平和協定締結」を主張してきた。米国のジ‐クフリード・ハッカー博士を招待し濃縮ウラニウム核開発施設も公開した。北朝鮮はすでに9・19共同声明を破棄し核量産体制に入っている。そして2012年4月、憲法を改訂し序文で「核保有国」であることを明記した。
 よって朝鮮半島平和体制を議論するためには、9・19共同声明後、関連国の反対を押し切り核実験を強行した北朝鮮が、「何よりも先に」NPT−IAEAに復帰し、核査察を受け入れるなどの核廃棄への意味ある措置をとらなければならないのは自明の理である。

朝鮮半島平和構想の問題点

 文在寅候補の朝鮮半島平和構想が持つ問題点の核心がまさにここにある。
 文在寅候補側は、北朝鮮核問題の解決と南北関係の改善で、後先の順序をつけないで北朝鮮核問題の解決を図るという。言い換えれば、北朝鮮核問題の解決と朝鮮半島平和体制議論は順序にとらわれないということである。これは北朝鮮核問題に進展があろうとなかろうと、南北及び6者協議で朝鮮半島平和体制議論をまず議題に挙げることもあるという話しだ。
 これでは、北朝鮮核問題解決において、韓国政府がいわゆ「均衡者(balancer)」という名の下に米朝の間に立ち、「機械的中立」をとるか北朝鮮が主張する「先朝鮮半島平和協定」に同調する「南北共助」へと進むかしか選択肢がない構図となる。この構図は2002年~2007年の盧武鉉政権時代にあまりにも多く目にしてきたデジャブそのものである。
 文候補の「朝鮮半島平和構想」と「南北経済連合」は、「希望的サイクル」の中で善循環は可能である。北朝鮮の先核放棄プロセス実行−朝鮮半島平和体制議論の進展−南北経済協力−北朝鮮核廃棄−平和体制−南北経済連合と循環するわけだが、仮にこの循環が現実に可能だとしても、善循環を始める最初の歯車は、北朝鮮による意味ある核廃棄プロセス実行でなければならない。並行戦略は北朝鮮の対米・対南戦略をそのまま認めることと同じである。
 北朝鮮の核戦略に巻き込まれれば、1994年以降これまでもそうであったように、たとえ6者協議が再開されたとしても先・米韓による無条件の北朝鮮支援→6者協議→先朝鮮半島平和協定議論→6者協議からの離脱→濃縮ウラニウム・長距離ミサイルアップグレード→再び無条件支援という「北朝鮮式の善循環水車」を回すことになるのは改めて言うまでもない。
 北朝鮮は「在韓米軍撤退・米韓軍事同盟破棄」を先決条件とする「朝鮮半島平和協定」論を必ず提案してくる。過去の80-90年代に比べ、学生運動圏での従北・親北勢力が弱まってはいるが、北朝鮮の対南戦略は温存されている。そこに10年余りの歳月を通して形成された中道的な親北勢力の外縁が拡張しつつある。彼らが「我が民族同士・反米自主化闘争」で連結する余地もある。そして何よりも今の韓国国会に平壌の手先が侵入しているという現実がある。
 今後、「朝鮮半島平和協定」議論は、朝鮮半島周辺の情勢変化と韓国内部の情勢が交錯しながら大きな問題として発展する可能性が潜在している。北朝鮮政権と韓国内部の従北・親北勢力が「平和協定」を媒介に、在韓米軍撤退に向け総攻撃に出る可能性もある。これはまた「鉄パイプと竹棒の祭り」を引き起こし、韓国社会の安定と発展を妨げる危険性もある。
 文候補はこの「悪循環」を打ち破るいかなる戦略も国民に提示できていない。そうするしかない理由は、失敗に終わった盧武鉉政権時代の北朝鮮政策担当者がそのまま布陣しているからである。
 人が変われば思考が変わり、思考が変われば政策が変わり、政策が変われば戦略が変わり、戦略が変わってこそ北朝鮮問題をさらにうまく解決できるということは自明のことである。
 文候補は、これらの問題に対し根本的な対策を講じ、盧武鉉政権時代よりも「さらに進展した新しい何か」を提示した後に有権者の支持を要請するべきである。

*中見出しは当研究所がつけたもの

以上

 
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