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2011年上半期北朝鮮「対南戦術」概観

南北関係研究室
2011.7.13

 2008年に韓国で李明博政権が登場し、金大中・盧武鉉政権の「太陽政策」から「非核・開放3000」という相互主義的対北政策に転換されてから、北朝鮮の対南政策は、ほころびを見せ始めた。
 特に2008年8月に突然金正日を襲った「脳疾患」は、急遽「後継者問題」を浮上させるなど、政策日程を大幅に狂わせた。当初、金正日の頭の中では、「後継者問題」よりも「2012年の強盛大国」目標実現が先にあったはずだ。後継者問題を急浮上させた北朝鮮は、その体制の安定のためには李明博政権を一日も早く「太陽政策」に戻さなければならないとする「焦燥感」に駆られることになる。
 2009年には、3回目の長距離ミサイル発射実験と2回目の核実験を行い、オバマ政権を追い詰めようとしたが思い通りにならず、同年11月には、統制経済に戻そうと「デノミ(通貨切り下げ)」を実施したが、それも失敗して大混乱に陥った。
 その間、李明博政権には数千回にわたって罵詈雑言を浴びせたかと思えば、一転して宥和的「懐柔策」を試みるなど、振幅の激しい政策を取った。昨年にはついに、韓国の「哨戒艇」を撃沈(3月)し、延坪島も砲撃して民間人を殺害(11月)するなど「戦争瀬戸際政策」を敢行し、「戦争の恐怖」で李明博政権を太陽政策に引き戻そうとした。
  しかし、核戦争までも豪語し、行なえば全面戦争も辞さないとしていた韓国軍の「射撃訓練」(12月20日)を阻止できなかっただけでなく、公言していた「報復行動」も行なえなかった。「ウップン晴らしの射撃訓練には一顧の価値もない」との捨て台詞を残し、2011年には「新たな戦術」に向かった。

1、北朝鮮の「新対話戦術」

 3年以上にわたる韓国と国際社会からの援助の遮断に耐えていた北朝鮮であるが、党代表者会開催と3代世襲お披露目での浪費も重なり、経済は悪化の一路をたどった。特に外貨の枯渇は深刻な状況となっている。国民が300万人餓死しても眉毛一つ動かさない金正日であるが、統治資金と核開発資金の枯渇には耐えることができない。この二つは政権の存亡に関わるからである。
 2010年の「戦争瀬戸際政策」が失敗したことから、金正日政権には、国連制裁の解除と韓国からの支援を得るための新たな「戦術」が切実に求められることとなった。
 韓・米大統領の任期は2012年に迫っている。オバマ大統領には、もう一期続けるためにも外交問題での業績が求められている。李明博大統領も任期中になんとか一度「南北首脳会談」を実現させたいと思っているはずだ。こうした権力者の欲望を見抜く能力に長けているのが金正日である。このチャンスを見逃すはずがない。
 2011年に入って北朝鮮は、オバマ政権の「外交成果要求」を利用しつつ、「南北首脳会談」を餌に李明博大統領に最後の誘惑を仕掛け、それがダメなら李政権との取引は断念し、2012年に「太陽政策政権」を登場させることに全力投球するという2段構えの戦術に切り替えた。その始まりが年初の「新年共同社説」に示された韓国に対する「対話攻勢」だった。この新戦術は、中国との同盟関係を最大限活用するところに最大の特徴ある。

2、米・中首脳会談後から本格始動

 バラク・オバマ米大統領と胡錦濤・中国国家主席は1月19日(現地時間)ワシントンで首脳会談を行い41項目の合意内容を込めた共同声明を発表した。
 この会談で米中は対立点よりも共通の利益に重点を置き朝鮮半島問題を討議した。中国側が手土産に持っていった3.7兆円に上る買い物は、雇用の拡大につながるとして再選を狙うオバマ大統領を喜ばせた。
 昨年末に中国から「米中共同声明」の内容を示唆されていた北朝鮮は、米中共同声明が発表されるや間髪をいれず1月20日、金英春(キム・ヨンチュン)人民武力部長名義の通知文を金寛鎮(キム・グァンジン)国防部長官あてに送り、「天安号事件と延坪島砲撃戦に対する見解を明らかにし、朝鮮半島の軍事的緊張状態を解消する問題を議論する南北高官級軍事会談を開こう」と提案した。「共同声明」発表からわずか8時間後のことであった。
 韓国政府は関係部処協議を経て、この北側の提案を受け入れた。韓国国防部は1月26日、金寛鎮長官名義で予備(実務)会談を2月11日午前10時に板門店の韓国側にある「平和の家」で開催することを北朝鮮側に提案した(軍の通信回線を使って)。予備会談日と場所は後日北朝鮮に通知するとした。結局2月8日に予備会談がもたれたが、北朝鮮の一方的退場で破綻した。北朝鮮の目的は「無条件対話再開」強要と「南北対話」のアリバイ作りにあったのである。
 その後、北朝鮮住民が韓国側に漂流し、31人のうち4人が亡命を希望するなどのハプニングもあり、南北対話は対決模様を強めることとなった。

3、5月以後に激化させた李明博大統領非難

 韓国政府は、一貫して天安艦爆沈事件と延坪島砲撃事件に対する北朝鮮の責任ある措置と謝罪を南北関係改善の条件としたが、北朝鮮はこれを韓国の謀略、捏造として謝罪を拒否し続けたた。
 4月に入り北朝鮮の李明博大統領非難は増加の傾向を見せていたが、ジミー・カーター米元大統領に託した南北首脳会談の提案が拒否されるや、非難は5月以降急増した。
 韓国統一部は6月23日、国会の南北関係発展特別委員会への報告資料の中で、「大統領を名指しした非難が4月に5回、5月に64回、6月に166回と集計された」とし、「北朝鮮がベルリン提案に否定的な立場を示した5月11日の祖国平和統一委員会報道官の記者会見後、李大統領の実名を取り上げて非難する例が激増した」と明らかにした。
 北朝鮮は、金総書記の中国訪問直後からは『南側は相手にしない』と表明し、南北間の非公開接触内容について一方的に公開するなど強硬姿勢に一変した。
 金総書記が訪中を終え帰国した直後の5月30日、北朝鮮の最高権力機関の国防委員会は報道官声明で、「韓国政府を相手にしない。東海の軍通信線を遮断して金剛山地区の通信連絡所を閉鎖する」と明らかにし、「李明博どもの反共和国対決策動に終止符を打つため、全面攻勢に出る。わが軍隊と人民の全面攻勢は無慈悲なもの」と強調した。
 6月1日には北京で行なった南北当局間の「秘密接触」(5月9日)を暴露したのに続き、9日には接触時の録音内容を公開するとまで言い始めた。また過去に2度の秘密接触があったことも暴露した。
 上半期に宣伝メディアを通じて対南攻勢を仕掛けた北朝鮮の軍、党、国防委、対南宣伝機構は、総20余りに達する。また電話通知文、論評、談話、声明などの形式で総50余回以上の対南攻勢を繰り広げた。最も多い形式の対南攻勢では、15回に達する朝鮮中央通信論評が挙げられる。その他の形式では、政府・政党・団体連合声明、政府スポークスマン声明、平壌放送論説、祖国統一研究院白書などがある。

4、中・朝同盟を誇示して進める新たな「封南戦術」

 金総書記は5月20日、9カ月ぶりに中国を訪問した(2000年以来7回目。2000、2001、2004、2006、2010、2011)。訪中は1年間で3度目となる異例なものだった。昨年8月にも東北三省(吉林・遼寧・黒竜江)を巡訪したが、今回は逆回りで、初日の訪問地は東北の黒竜江省牡丹江市だった。
 金総書記らは21日午前、長春郊外の工業地区を視察後、迎賓館の「南湖賓館」に入った。金総書記の車列には救急車も含まれていた。長春滞在5時間半後である21日午後、長春を出発し瀋陽駅を通過し江蘇省揚州駅に向かった。揚州ではスーパーなどを視察した。その後金総書記は北京に戻り、胡錦濤主席ら中国首脳と会談した。
 北朝鮮は、韓国に対する脅迫を強める一方で、朝中同盟強化を内外に大々的に宣伝している。そしてそれを対南戦略だけでなく国内統治にも本格的に利用している。それは6月6日に行われた朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議の内容が示した。
 会議では、金総書記の訪中が強盛大国の近道を切り開いたとまで評価した。 また会議では朝中友好・協力および相互援助に関する条約締結50周年にあたる意義深い今年、朝中友好の特殊性をあらためて力強く誇示することについても強調した。
プライドの高い自己中心的な北朝鮮が、金正日の訪中成果と中国との関係強化を宣伝し、国内統治に利用するのは異例のことである。

初の「中・朝戦略対話」

 こうした中で、朝鮮労働党と中国共産党は6月10日、平壌の万寿台議事堂で「戦略対話」を行い、両国の親善協力強化案について話し合った。中国中央組織部長の訪朝は2001年3月以来10年ぶりのことである。
 双方は各自の活動について通達し、両党、両国間の親善協力関係をさらに発展させていくことと、相互関心事となる問題について意見を交わしたと伝えたが、具体的な内容には言及しなかった。北朝鮮が他国と「戦略対話」という名称の会談を行った前例はなく、今回の報道内容が注目される(聯合ニュース2011/06/10)。
 この「戦略対話」には、北朝鮮から崔泰福(チェ・テボク)党秘書、李英洙(リ・ヨンス)党勤労団体部部長が出席し、中国側からは李源潮中央組織部長(政治局員)をはじめ、王家瑞対外連絡部長、孫政才吉林省共産党委書記、潘立剛党中央組織局長、李希上海市共産党委組織部長、石泰峰江蘇省共産党委組織部長、楊燕怡対外連絡部長補佐などが出席した。また金永南最高人民会議常任委員長が12日、平壌の万寿台議事堂で李源潮中央組織部長(政治局員)を団長とする中国共産党代表団と会談した。

中・朝の経済協力、目玉事業が着工

 中・朝国境を流れる鴨緑江に浮かぶ北朝鮮領の黄金坪島と威化島の開発権を中国が取得し、工業団地などを建設する中朝経済協力事業の着工式が6月8日に黄金坪島で開かれた。同事業をきっかけに、国境地帯で中朝協力事業が本格的に動き出すものと見られる。
 5月下旬の総書記の訪中で、協力事業の詰めの協議を行ったとみられるが、「強盛大国の大門を開く」とした来年に向け、中国資本を利用して経済を立て直す姿勢を鮮明にした。
 北朝鮮の最高人民会議常任委員会は6日、政令で「黄金坪・威化島経済地帯の設置」を決定した。政令は「伝統的な朝中友好をさらに強化し、対外関係を拡大し、発展させるため」と意義づけ、黄金坪島から開発を始めるとしている。
 着工式は中国遼寧省丹東市と接する黄金坪島の一角で開催され、政府や企業の幹部や工事関係者、島民ら千人近くが参加した模様だ。

増加する北朝鮮の対中貿易

 韓国政府系機関の韓国開発研究院は6日、北朝鮮の2010年と今年1〜4月の貿易統計をまとめた。それによると、2010年の貿易規模は前年比19.5%増の60億8500万ドル(約4916億6800万円)で、7年ぶりに60億ドルを突破した。中朝貿易は前年比29.3%増の34億6600万ドルで、全体に占める割合は56.9%。前年の52.6%を上回った。
 また、1〜4月の中朝間の貿易規模は前年同期比約2倍の14億3000万ドル。品目では地下資源の中国への輸出増加が目立った。特に、昨年1〜4月には2500万ドルだった中国への無煙炭の輸出が今年1〜4月には2億7000万ドルと激増した(時事通信 7月6日)。
 「李明博政権を相手にしない」として「南北秘密接触」まで暴露し、軍事報復に言及する「対南強硬策」が、こうした中国依存強化と無関係ではない。
 しかしあまりにも中国に偏りすぎる政策は、北朝鮮の伝統的外交戦術である「天秤外交」、すなわち「大国」を競わせて漁夫の利を得、韓国を圧迫する戦術とは相容れないものである。こうした偏った対外政策は、後継体制確立に決してプラスにならないだけでなく、今後北朝鮮の立場を弱める結果をもたらすに違いない。

5、米国にはラブコールで韓米分断を狙う

 北朝鮮は、「われわれの体制を転覆させようとする者」と猛烈に非難してきた米国の北朝鮮人権問題担当特使に食糧支援を要請したのに続き、5月下旬には彼の訪朝まで認めた。これは米国に対する露骨な擦り寄りを示すものである。また米側が求めた食糧支援の前提条件も全て受け入れる考えを伝えていたことが分かった。
 帰国したキング北朝鮮人権問題担当特使は6月2日、米下院外交委員会で証言し、食糧支援の可否は「まだ決定には至っていない」と述べ、週内に帰国する米政府の訪朝団の調査結果を精査し、人道的な見地から早期に判断する方針を示した。そして支援物資は主食となるコメではなく、栄養を補給できる食材などを検討していることも明らかにした(産経2011.6.3 )。
 その上で、米国の食糧支援は(1)食糧不足の深刻度(2)食糧問題を抱える他国との支援のバランス(3)配給監視態勢の構築−を原則としており、特に監視態勢の構築で北朝鮮側の協力が必要と強調した。
 こうした北朝鮮の米国接近術が、韓国叩きと表裏の関係にあることは明らかだ。
 北朝鮮の国連代表部関係者は11日(現地時間)、北朝鮮のテコンドー公演が行われた米マサチューセッツ州・ローウェルで聯合ニュースの取材に応じ、同公演による米朝関係の改善に期待を示した。
 同関係者は米朝関係に関する質問に対し、「政治から離れ、文化・教育交流を通じ、人民(国民)同士で心と心が通じ合えば、(両国関係において)より良い結果につながるだろう」と答えた。また、「両国間で再び難しい時期が繰り返されないことを望む」とした。
 北朝鮮のテコンドー公演が米国で行われるのは3年8か月ぶり。米国務省は北朝鮮のテコンドー公演団に異例のスピードでビザを発給するなど、米朝間で和解ムードが漂い始めているのではないかとの見方も出ている。
 テコンドー公演でも北朝鮮の選手と関係者が現地人と自由に会話し、記念写真を撮るなど、友好的な雰囲気を演出した(聯合ニュース 6月12日)。


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