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今週のニュース

「金正恩体制」を占う
日米韓ラインで北朝鮮を「誘導」せよ

康仁徳・朴斗鎮対談 司会菊池嘉晃
2011.1.20

この対談は、中央公論2010年12月号(2010年11月10日発売)に掲載された内容を転載したものです。
転載日2011・1・20

金正日の健康問題が後継者決定を急がせた

――九月二十八日の朝鮮労働党代表者会で、金正恩が後継者として登場しました。そして十月十日の党創建記念日でも、ひな壇に並びました。大方の予想以上に早く登場した理由は、なんだったのでしょうか。

康 私はやはり、金正日の健康問題だろうと思いますね。ここで後継者を決めておかなければ、万一の時に混乱する可能性があるからでしょう。金正日自身の不安あるいは焦りの表れのように感じました。
朴 康先生がおっしゃるとおり、健康問題が決定的な影響を及ぼしていると思います。
 私も、今回一気にここまで公式化することはないだろうと思っていました。なぜかというと、金正日の場合は一九七四年に後継が内定し、一九八〇年の朝鮮労働党の第六回党大会で公式化された。それまでのあいだ、一定の「実績」を上げたわけです。だから、労働党の「後継者論」のなかで、金正日の「業績」を説明するのも、ある程度は可能だった。
一方で金正恩後継の話は、金正日が脳卒中で倒れた二〇〇八年八月ごろに急浮上したと思いますが、それからせいぜい二年くらいしか経っていません。まさかこんなに急に、内定と公式化をごちゃ混ぜにしたような形で発表するとか考えづらかった。

――金正日の健康状態は、どうなのでしょうか。

朴 最近韓国の専門医が韓国紙『朝鮮日報』で、パレードに出てきた金正日の姿を分析していました。おおむね三つのことを言っています。
 一つは顔にある痣について。これは腎臓障害を起こしている証拠だといいます。
 二つめは、手すりにつかまりながら、足を引きずっている点。これは、左半身に後遺症が目立ち、体重移動ができないということだから、関節悪化につながる。
 もう一つは、うつ(鬱)のような表情だったこと。脳卒中で倒れると、うつ症状が出やすいそうですが、金正日が座っている姿を見ると、ぼーっとした表情をしている。

「後継者問題争いを起こすな」というメッセージ

――今回の党代表者会では、金正恩が党の要職に就くかどうかが最も注目されていました。
金正日の場合は、七三年に党書記になって、七四年に党政治委員会委員、八〇年の段階で党軍事委員と党政治局常務委員にもなっていました。正恩の場合は、まず大将の称号を与えるという発表があって、その後、党中央軍事委員会副委員長に就任。つまり、政治局員や書記というポストには就きませんでした。これについてはどう思われますか。

康 後継者が政策を誤ったというような評価を受けるわけにはいかない。だから、まったく責任をとらなくていいポジションに置いたのです。何かやって失敗した場合は、他の人に責任を転嫁することができ、成功した場合は正恩の功績になる。そういう人事です。
朴 金正日は自分自身が、金日成から権力を「奪った」人間だから、後継者に一気に権力を与えると、自分の身が危なくなるということが分かっていた。
 だから正恩が自分に挑戦できないような状態を作りながら、「次は彼だから、もう後継者問題で争いは起こすな」というメッセージを出したのだと思います。正恩に決まるまでは、正男という候補がいて、これが消えた後は正哲という候補もいたので、そちらについていた幹部もいたはずです。そういう幹部たちに対して、もう後継者問題で争うなということを示すことに最大の意味があった。
康 「先軍政治」の国において党軍事委員会の副委員長になったというのは、まさしく「後継者」ということですからね。

――軍の人事に関して言えば、李英鎬・朝鮮人民軍総参謀長が党中央軍事委員会副委員長になりました。彼に関しては、事前に注目していた専門家は少なかったように思いますが。

康 少なかったですね。李英鎬は二〇〇七年に閲兵式の指揮官になって以後、ずっと表舞台に登場していました。だから、金正恩を後継にするための何らかの役割を担ってきたのではないかと思います。
朴 韓国での報道によると、李英鎬の母親は、金正日の母親の金正淑と、パルチザンで一緒だったそうです。そして金正淑が死んだ後、彼女が金正日を面倒見た。そういう意味でも、今回の人事の特徴は、家族主義だと言えます。
康 そして六〇代が実権を握っているのも特徴ですね。彼らは金正日と共に育った世代です。趙明録や金英春といった上の世代は名目上、名を連ねているだけです。
朴 今回大将になった崔竜海の父親は崔賢で、金正日が後継者になるときに、先頭に立っ北朝鮮版「太子党」(高級幹部の子弟)の一人。この太子党グループが浮上してきたという見方もあります。

――崔竜海は一時「社労青事件」で、粛清とまではいきませんが、降格され地方にやられました。

康 私は、金正日は崔竜海を絶対に粛清しないと思っていました。それは、金正日が幼いときから一番怖がっていたのが、その父の崔賢だからです。金正日を後継者にするときに、一番積極的に動いたのも崔賢だった。
 崔賢は会議の場で金日成に、「お前は三十三歳で立ったじゃないか。お前の息子はすでにその歳になっている。息子を中心にして、俺たちの息子も一緒になって共同体を作って政権を握れば問題ないじゃないか」と言ったという話です。
朴 特権を与えられて、いま甘い汁を吸っているのも、この金正日を後継者に推したグループですね。七四年に金正日後継が決まる前に、例えば、崔庸健とか金東奎とか、常識のある人たちは、世襲ということを相当厳しく見ていた。だから、今の北朝鮮では、崔庸健という名前も金東奎という名前も聞かれない。
康 林春秋という人がいて、彼は、金正日の神格化作業に携わっていたのですが、その最終段階で「金正日が白頭山で生まれた」ということにするとき、「実際はハバロフスクで生まれたのに、それはさすがに厳しい」と言ったので、一時粛清されました。
朴 先日お亡くなりになった黄長Y氏によると、林春秋がそれは駄目だと言うと、金日成が先頭に立って白頭山に行き、小屋の前で「おお、ここだ、ここで生まれたんだ!」と言ったらしいです。
康 漫画みたいでしょう(笑)。

金正日が張成沢を警戒する理由

――正恩の「後見人」とされる、金正日の妹の金敬姫とその夫、張成沢の位置づけと、今後の役割についてはいかがでしょうか。

朴 私は、張成沢は予想以上に権限が縮小されていると思いました。日本でも、彼は今回の党代表者会で政治局常務委員になるのではないかと予想されていましたね。しかし、蓋を開けてみると、金敬姫が政治局員、張成沢はその下の政治局員候補だった。
 これは呉克烈をある意味排除したことと、連関づけられるような気がします。というのは、今回、李英鎬や崔竜海といった、特別頭がいいとは思えない人間が登用された。一方で、張成沢のような政治的手腕のある人間や、呉克烈のように頭のキレる人間は、外にはじき出された。ここに一つの特徴があると見ています。
康 やはり張成沢は、金敬姫あっての張成沢だと思いましたね。血のつながりという面では、ナンバー2は金敬姫。金敬姫が中心になって後継者づくりの地ならしをして、それを外側で支えるのが張成沢という構図がはっきりした。信頼できるのは身内以外にないという金正日の考え方がそのまま表れている。
朴 張成沢は「金正日よりも金正日をよく知っている」といわれるくらいに、金正日が何を考えてるかを理解している。だから、こんな便利な執事はいないけれども、同時に警戒されてもいます。
張成沢には義理堅いところがあって、自分が苦しかった元山経済大学時代に助けてくれた人たちを、いまでも周りに置いている。金正日がつくったようなパルチザン系列、太子党系列の人脈とは違う人脈を持っているのも、警戒されている理由のひとつだと思います。
康 彼の兄たちはエリート軍人だったので、その人脈もあるでしょうね。
朴 金正日にとってみれば、自分と違う流れを作れる人間は困るんですよ。おそらく北朝鮮の中で、自分の流れを作れる人間は、張成沢以外にはいないんじゃないでしょうか。

――二〇〇四年に一時失脚したようですが。

康 地方に飛ばされた。あれは、地方を見て学習しなさいという意味です。
朴 もう一つ、あまり派閥を形成するなという警告の意味もあったでしょうね。「調子に乗るなよ」と。

――今回の人事について、ほかに注目される部分は。

康 年取った"家老"を残していることですね。まだまだ権力は彼ら、金正日の家老たちの手にあるということです。
朴 そのあたりが金正日が後継者になったときと随分違います。金正日のときは、張成沢や崔竜海などが先頭に立った「三大革命小組」が老幹部を追い落とした。すでにそれくらいの政治勢力を形成していたのです。金正恩の周りには、そういう実働部隊は見えてこない。
康 今から作っても時間が足りない。
朴 ここに金正恩体制の最大の脆弱性があるわけですよ。
康 最近になって金正恩は四ヵ国語を話せるとか、彼の指導で農業がうまくいっているとか、馬鹿なことをいっていますね。
朴 三歳のときから射撃の名手だったとか(笑)。

――非常に稚拙な宣伝を必死にやってること自体が脆弱性の裏付けのように思えます。

朴 そのくらいの知恵を持つ者しか周りにいない。金正日には黄長Y氏とか、いわゆる理論を作る人がいた。私には、正恩の母である高英姫をどう説明するのかが興味深い。
康 金正日の母親である金正淑と同じ地位に上げるのか。しかし、それは難しいでしょう。

――いまだに高英姫という名前自体は、北朝鮮では出ていないわけですよね。「尊敬するオモニム」と呼ばれるだけで。

朴 名前は出ていません。高英姫は正妻ではないうえに、在日出身。その三男を正統性のあるものにする「伝説」を作るのは、非常に難しい。

金正男の「北韓」発言

――ところで、金正男が中国で「北韓」「三代世襲反対」と発言しました。

朴 意識的に「北韓」という言葉を使い、韓国と手を握らずには、北はもうやっていけないということを暗に言っているように思えます。

――彼があそこまで発言できたのは、中国が身辺保障をしているからだという報道もありました。

朴 『朝鮮日報』によると、余計なことを金正男が言うので、金正恩の側近が中国に派遣されたけれど、中国当局に、一切手を出すなと言われたということです。
康 もし正男に何かあったら、中国の恥ですからね。
朴 中国がずる賢いのは、天安艦事件のときには露骨に北を擁護する一方で、金正男にああいうことをしゃべらせるということです。この辺もよく観察する必要があると思う。
康 今年八月に金正日が訪中したとき、胡錦濤が「自力更生だけではだめだ、対外的な協力が必要だ」といったでしょう。改革しなさい、ということです。

――中国は金正男を利用して、諸手を挙げて三代世襲を容認したのではない、われわれが求めるかたちで開放せよというメッセージを送った……。

康 経済を立ち直さなければ後継者の正統性は認められないわけですが、経済を回復させるためには、改革以外に道はない。改革開放したら、国家が崩れ落ちるかもしれない。その矛盾をどう解決するか。
朴 最大の矛盾ですよね。首領独裁体制をなくさない限り、経済を活性化するシステムは生まれない。そうした根本的な矛盾があるから、北朝鮮の経済は再生できない。
康 後継者づくりで一番の問題になるのは人事だと思います。たとえ金正恩が信頼している人間でも、重要なポストに就く場合は、金正日の了解がいる。病気がひどくなって疑心暗鬼になると、昨日まで信頼していた者でも、いったん怪しいと思えば切るかもしれない。金正日自らの手で血を流す事件が起きるのではないかと思います。
朴 もう一つの問題は、金日成と金正日はタイプが違ったが、金正日と金正恩は同じタイプだということ。金日成はある面でおおらかだったから、金正日が悪さをしても、それを包みこんだ。しかし金正日と金正恩は、絶対に衝突する。
康 そうした人事の問題が表面化すると、社会全体が萎縮して、動かなくなる。活力が奪われてしまうでしょう。

――北朝鮮国内で不安定な状態が続くと、対外的には強攻策に出る恐れもありますね。

康 食糧、エネルギー、外貨の三つの不足が続いていますからね。これらを得るために柔軟な姿勢を見せることもあるかもしれませんが、もっと重要な問題、たとえば核については何も変えないでしょう。特に南に対しては、柔軟になったり、強硬な態度をとったり、矛盾した行動をとる可能性があります。
朴 金正日が金正恩を利用する可能性もあると思います。それは、正恩は若いから何をするか分からないよ、という恐怖心をアメリカや韓国に与え、私ならばそれを制御できるから、今のうちに話し合いに応じた方がいいよ、というカードに使うということです。
実際、金正日がどんどん弱っていったら、実績のない正恩は何か実績になることをやらねばと、焦るかもしれない。知っていることは軍事しかないから、若気のいたりと冒険主義が悪い方向に向かうという心配もある。
康 そのときは家老たちが若い者と衝突するでしょうね。家老たちは、これ以上冒険主義的な行動をとった場合は、アメリカや韓国にやられるということを知っています。中国も、なるべくじっとしていてくれ、と思っているでしょうね。
 私は天安艦事件のときに、黄海で軍事訓練をやればいいと韓国で話しました。訓練によって、青島、上海、天津一帯の中国の海軍の動きが目に見える状態になる。中国は嫌がるでしょう。中国は、嫌なことをされなければ、北朝鮮に対して影響を及ぼそうとはしない。だから中国を動かすために、軍事訓練をやろうといったのです。
 中国としては、指導者は金正日でも金正恩でもいい。自分たちの管理下にありさえすればいいというのが彼らの本音です。
朴 私は中国の指導部は政策を誤ったと思う。北朝鮮の核さえもカードとして利用して、六ヵ国協議を長引かせ、そのあいだに自国を経済発展させて、いい思いをしてきた。しかしその結果、中国は北朝鮮に引きずり込まれようとしている。運命共同体になろうとしているわけです。これは中国にとって大きなデメリットですよ。近づいたら近づいただけ、中国と北朝鮮は内輪揉めをすると思う。
中国は市場経済になっているけど、北朝鮮はまったく違う。「契約」という概念さえもない。だから中国の民間企業が北朝鮮とジョイントしようという話にはならない。北朝鮮では、特権階層がバックにつかないと商売できないですから。

――特権階級というのは、党や軍の最高幹部クラス、あるいは太子党グループですね。

朴 そう。そういう人間が、経済利権をほとんど掌握しているから、市場経済に移行できるわけがない。
私には、金正日が脳卒中で倒れて以降、北朝鮮ではすべてが裏目に出ているように感じられます。だから、後継者問題も裏目に出るとしか思えない。行き着く先は、破綻しかない。だから、中国は慌てふためいて、支えようとしている。

南北の主導権が逆転し始めた

――日本、アメリカ、韓国はどう対応していけばいいでしょうか。

康 今回の人事では、対米交渉を行ってきた姜錫柱が、政治局員になっただけでなく、副首相にもなった。彼の下で働いていた金桂冠は第一外務次官になった。さらに外務次官の金永日が党国際部長になり、金養建・党統一戦線部長も残っている。対米、対南、対中、対日の担当者たちが、そのまま残っている。とすると北の政策に変更はない。核保有国として認めてくれという要求を変える可能性もない。日本としては、制裁措置を続ける以外に道がないように思えます。解除する名分はないですから。
朴 私は、韓国に李明博政権が誕生したことが重要なポイントだと思います。それから南北の主導権が逆転し始めた。初めて日、米、韓の歩調が一致し、過去にはなかった強固なラインが出来上がっている。これを絶対に崩してはならない。
康 そのとおりですね。日米韓が一緒になって北に対して圧力をかけ続け、中国を動かすしか選択肢はありません。
朴 北朝鮮は今、二つの綱引きをしていると思います。一つは、六ヵ国協議の場での米国相手の綱引き。北にとっては、非核化のための六ヵ国協議はもう終わっていて、核軍縮の六ヵ国協議をしようと主張している。しかし、アメリカは従来の六ヵ国協議をやるつもりでいる。
 もう一つの綱引きは、韓国相手です。これまで北は韓国の頭越しに、アメリカと交渉をしてきた。最近のアメリカ側の発言を見ると、過去に韓国の頭越しで北と交渉したことは間違っていた、だから北と韓国との関係が改善されない限り交渉の場に出ないと言っています。この二つの綱引きで、北朝鮮は非常に困っているわけです。
康 北は、韓国と話をせずにはアメリカと交渉できない。しかし、韓国とは回線がない。だから中国に頼ろうとする。
朴 韓国は、天安艦事件の謝罪、金剛山問題の謝罪、そして核を放棄しないとだめだというふうに、北に対する原則ができている。しかし日本にはそうした原則がない。早急に外交戦略を打ち立てる必要があります。
康 韓国では、李明博政権になって、在韓米軍の戦時作戦統制権の返還を延期したでしょう、これは政治的な意味だけはなく、経済的にも大きな利益になります。第七艦隊の力が朝鮮半島の安全を守り、経済活動も保証される。
朴 尖閣問題で、日本の国民も少し分かったんじゃないですか。あれがなかったら、中国の思い通りですよ。負担が大きい沖縄の人には申し訳ないと思う。しかし、それは他の方法で政府が苦しみを和らげてあげるべきで、日本の根本利益と交換する問題ではないということです。

権力委譲の過渡期こそ拉致問題解決のチャンス

――拉致被害者を北が帰すという可能性はどうですか。

朴 拉致問題を考えるときも、外交の中でこの問題をどう位置づけるか、解決するためにどのようなモメントを利用するか、そうした緻密な作戦が要るわけです。そう考えると日本に戦略はあるのか。
 拉致問題は本丸ですが、昔の名将も敵方の城を落とすときには、前から攻めるだけでなく、いろんな手を使いました。穴を掘ってみたり、横から攻めてみたり。今の日本にはそんな知恵がない。
 私はどこに講演に行っても、拉致問題をどうすればいいですかと聞かれる。逆に私が聞きたい。なぜあなたがたは動こうとしないのか、と。
康 拉致問題の解決なしには国交正常化はしないという原則は守らなければならないですよ。ただし、それを守りながら、対話を始めるべきです。今は、そのようなルートもない。
朴 国民が納得しない限り、日本の外交は進まないようになっている。だから、国民が「北はやっと誠意を見せたな」と思えるように北を「誘導」しなければならないわけです。そのためには戦略・戦術が必要なのです。
 その際に重要なのは、金賢姫が言ったように、「プライドを傷つけてはいけない」ということ。誰のプライドか、それは金正日です。ここを触っては、絶対に交渉はうまくいかない。拉致問題については、金正日の責任には触れず、「日本国民が納得するような人を処罰しなさい」というべきです。これは譲歩じゃない。拉致被害者を取り返すことに意味があるわけですから。
康 今のままでは解決できないから方向転換しますということを、国民に対して説明するところから始めなければなりません。
朴 拉致問題については、少し希望が持てるかもしれないと思っています。それは今後、世襲に反対する北朝鮮の知識人が脱北してくるだろうという点です。そうした人たちは、北朝鮮国内の貴重な情報を持っている可能性がある。
 そして北朝鮮が権力移譲の過渡期にあるということも利用できます。金正恩にとって、日朝交渉が再開できれば、ものすごい業績になりますからね。
康 私も拉致問題について、新しい戦略をとるチャンスが到来した、そう思っています。

康仁徳(カン・インドク)
1932年平壌生まれ。韓国外国語大学院卒。政治学博士。朝鮮戦争勃発で韓国に避難。1961年から78年まで韓国中央情報部の北朝鮮担当局長。金大中政権の98年3月から99年5月まで統一部長官を務めた。99年7月から聖学院大学総合研究所客員教授。韓国極東問題研究所理事長。著書に『北韓全書』(全三巻)、『共産主義と統一戦線』など。

朴斗鎮(バク・トウジン)
1941年大阪市生まれ。朝鮮大学校政治経済学部卒。68年から75年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。(株)ソフトバンクでパチンコ経営計画に携わった後、経済コンサルタントを経て現職。著書に『朝鮮総連−その虚像と実像』(中公新書ラクレ)、『北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想』(社会批評社)など。

菊池嘉晃(きくちよしあき)
1965年東京都生まれ。94年から95年に韓国の成均館大学大学院に留学、北朝鮮帰国事業に関する論文(韓国語)で修士号取得。著書に『北朝鮮帰国事業−「壮大な拉致」か「追放」か』(中公新書)。

 
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