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今週のニュース

朝鮮高級学校無償化問題の結論を急ぐな
- 丹羽雅雄弁護士の「朝鮮学校無償化妥当論」批判 -

2010.8.30
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 高校授業料の実質無償化対象に朝鮮高級学校を含めるかどうかをめぐって、日本の文部科学(文科)省は、今月中にも「朝鮮高級学校の無償化は妥当」との方向で結論を出す予定であった。
 だが、拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」など世論の反発や、日本政府・与党内に慎重な意見もあることから省令で決着をつけることが困難となり、さらなる調整が必要だとして、結論を先送りする方針となったようだ。28日をぜんごしてこうした内容の報道が一斉になされた。
 報道各社の主な見出しは次のようになっている。
「朝鮮学校も高校無償化へ、『妥当』と文科省会議」(読売新聞8・28)
「朝鮮学校無償化、9月に決定ずれ込み 民主内で意見聴取」(朝日新聞8・29)
「高校無償化:朝鮮学校も対象へ 専修学校の基準で判定」(毎日新聞8・26)
「朝鮮学校に無償化適用へ 『文科省高校課程類する』」(東京新聞8・28)
「朝鮮学校無償化問題 結論先送り 民主党政調 党内議論」(産経新聞8・28)
「朝鮮学校の無償化、政調でさらに議論へ」(TBSテレビ8・28)
「朝鮮学校無償化 結論先送りへ」(NHK8・28)
 NHKはこうした状況を次のように報道した。
 「文部科学省は、高校の授業料の実質無償化について、『無償化は、学校ではなく生徒個人に対する支援であり、朝鮮学校を対象とするかどうかの判断は、拉致など、ほかの北朝鮮の問題と切り離して考えるべきだ』などとして、朝鮮学校も無償化の対象に含める方向で検討しています。そして、省内に設けられた有識者会議が検討している、無償化の対象とする学校を決めるための判断基準が週明けにも公表されるのを踏まえて、今月中にも、朝鮮学校も無償化の対象に加える方向で結論を出したいとしていました。しかし、政府・与党内や、北朝鮮による拉致被害者の家族会などからは、『北朝鮮に制裁を行っているなかで支援を行うという、矛盾した対応を取るべきではない』などとして、朝鮮学校を無償化の対象に加えることについて、慎重な対応を求める意見が出ています。このため、文部科学省は、さらに調整が必要だとして、今月中に結論を出すのを先送りし、引き続き、政府・与党内で検討を続ける方針です」。
 今後民主党政調での議論としては、@拉致問題への影響 A授業料として使われるかの透明性確保 B教育内容について、などが取り上げられる(TBSテレビ)という。
 こうした流れは、この間に朝鮮高級学校の「現代朝鮮歴史」教科書が日本語に翻訳(星への歩み出版)されるなど、朝鮮学校に対する日本国民の認識が深まった結果と見ることができる。日本国民の認識が深まったこの機会に、朝鮮学校の実態をよりよく知るための議論をいっそう深めるべきだ。そういった意味でも「朝鮮学校無償化問題」の結論を急ぐべきではない。

丹羽弁護士にとって朝鮮学校はいつも「善」なる存在

 しかし、「朝鮮高級学校除外反対」を主張する人たちも少なくない。その中には、朝鮮学校に対する真摯な研究もしないで、依然として「朝鮮学校=健全な民族学校」、「子供の学ぶ権利擁護=朝鮮学校擁護」という図式にこだわる識者や弁護士が存在する。たとえば丹羽雅雄弁護士の場合がそうだ。
丹羽弁護士は朝鮮新報とのインタビュー(2010.8.27)でまず「高校無償化法案」について次のように語っている。
 「『高校無償化』法案は、高等学校などにおける教育にかかる経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与するのが目的である。その対象は、高等学校などで学ぶ生徒たち。あくまでも、学校当局(教育施設)は、具体的に給付をする際の代理執行である」(朝鮮新報 2010.8.27)。
 丹羽弁護士が指摘したとおり、今回の「高等学校無償化法案」の直接的目的は、「教育にかかる経済的負担の軽減を図り教育の機会均等に寄与する」ところにある。本来ならばそれは生徒たちに直接給付されるべきなのだが、給付が教育以外に使用されることなどを防ぐために学校当局を経由させることにしたようだ。
 その結果「教育施設は、子どもたちのためにお金を預かっているだけ」との主張(朝鮮新報 2010.8.27)になるのだが、そうであれば当然各学校が「安心してお金を預かれる教育施設」かどうかの検証が伴わなければならない。教育施設の中には朝鮮学校のように学校所有の不動産が朝鮮総連の資金調達の担保に利用され、莫大な借財を抱え込んでいる学校もあるからだ。
 この結果、朝鮮学校では各自治体が生徒個人に給付した資金までも学校の運営費に流用することが多い。それが発覚しても「生徒(父母)の自発的寄付」ということにしてしまえば申し開きは立つからだ。先生から説得されれば、そうせざるを得なくなっているのが朝鮮学校の特殊な構造なのである。だから、「生徒が受け取るべき給付金」を朝鮮学校に機械的に任せることについては、学父母さえもが不安を訴えている。
 しかし、こうした内容に丹羽弁護士は踏み込まない。彼にとって「朝鮮学校」はいつも擁護の対象で「善」だからなのである。
 各学校が「安心してお金を預かれる教育施設」となる資格は、財政面だけで充たされるものではない。教育の機会均等が、「子供たちの学ぶ権利」を前提にしている以上、そこで健全な教育が行われているかどうか、また教育を自由に選択できる権利が保障されているかどうかも当然重要なチェックポイントとなる。「子供たちの学ぶ権利」が守られている教育施設であってこそ、はじめて公的資金(税金)を預かる資格が生まれるからだ。
 この「子供たちの学ぶ権利」で最も重要なのは、人権と民主主義に基づく「人間として健全な精神を学ぶ権利」である。しかし朝鮮学校ではこのことが保障されていない。それは「金日成・金正日崇拝教育」が絶対的に最優先されることが原因である。そのための必須教科目が「現代朝鮮歴史」であり「首領絶対化思想」」を注入する「社会」である。極端な言い方をすればヒトラーの「わが闘争」が必須科目となっているようなものだ。そして学校内に組織された政治団体(全生徒に加盟が義務化づけられている)である「在日本朝鮮青年同盟」は、朝鮮総連の指導のもとにこの教育を課外でも強力に推し進めている。
 こうした教育に異を唱える教員や総連の幹部は露骨な人権侵害を受け、ことごとく追放された。それが朝鮮学校の没落原因の一つとなっている。最盛時4万人以上いた生徒と学生は、今7000人弱にまで落ち込んだ。
 朝鮮総連は「朝鮮高級学校除外」を「教育の場に政治問題を持ち込む不当な主張」と叫んでいるが、朝鮮総連こそが北朝鮮の指示に従い朝鮮学校に政治を持ち込んでいる元凶なのだ。多くの在日朝鮮人は、金日成や金正日を崇拝する教育ではなく、朝鮮学校で民族的アイデンティティをはぐくむ真の民族教育が行われることを心から願っている。
 このような「子供たちの学ぶ権利」を侵害する朝鮮学校に「生徒の給付金」を任せることが果たして「教育の機会均等に寄与する」のかどうかもう一度冷静に考えて見る必要がある。文科省が主張するように「外形的、客観的な教育課程が保持されているかどうかだけで給付を判断する」のなら「ヒトラー礼賛の教育を行う教育機関」にも給付すべきだということになる。
 また朝鮮学校では「教育に対する保護者と子供たちの自由な選択権」も保障されていない。朝鮮学校から日本学校への進学を陰に陽に妨害しているのだ。特に父母が朝鮮総連機関に従事している場合、その子女の日本学校進学は非常に困難だ。それでもあえて日本学校に進学しようとする時は、父母の左遷か首切りを覚悟しなければならない。
 こうした点についても知ってか知らずか丹羽弁護士は何の指摘も行っていない。ただ朝鮮学校側の言い分に同調するために「保護者は子どものために、どの学校に入れるかという選択権を持っている」との「社会権規約」を持ち出し、一方通行的主張を行っているだけだ。朝鮮学校から朝鮮学校以外に進む「選択権」については何らの言及もしていない。権利と義務は双方向であって一方通行ではない。
 丹羽弁護士にとってはいつも「朝鮮学校」は「善」であり、そこに改善を求めてメスを入れようとする勢力は「悪」なのである。朝鮮学校が社会権規約に違反しているとは夢にも思っていないのだ。。

朝鮮学校の歴史についてもよく知らない丹羽弁護士

 丹羽弁護士は、朝鮮学校の歴史についてもよく知らないようである。朝鮮学校の存在意義を質問され、次のように答えている。
 「第一に、日本の植民地支配というなかで奪われた言葉、文化、歴史などのアイデンティティを、これ以上奪われないよう、新しく朝鮮民族を構成する子どもたちの尊厳を守るため、朝鮮学校は運営されてきたし、保持されている」(朝鮮新報 2010.8.27)
 確かに解放後朝鮮総連結成以前の朝鮮学校は丹羽弁護士が指摘するような学校であった。その教育はマルクス主義の強い影響を受けていたとはいえ、いかなる国家権力の統制も受けていない自主的民族教育であった。だからこそその教育を死守しようとして1948年に4・24教育闘争が起こったのである。
 しかし、朝鮮総連結成(1955年5月)以後の朝鮮学校教育は、こうしたマイノリティの民族教育ではない。北朝鮮権力に支配された北朝鮮の国民教育となったのである。したがって現在の朝鮮学校は単なる「民族学校」ではなく北朝鮮権力が支配する「外国人学校」である。そしてこの学校は、北朝鮮が「金日成絶対化」を国是とした1967年以降においては、「金日成・金正日の赤子」を作る学校に変質した。北朝鮮ではいまや民族の名称さえも「朝鮮民族」ではなく「金日成民族」と呼称されている。
 丹羽弁護士は、1945年直後の朝鮮学校教育と朝鮮総連結成以後の教育を同一のものと錯覚しているようだ。もちろん北朝鮮の言語が朝鮮語であり、北朝鮮が朝鮮半島の文化伝統を引き継いでいる地域であるために、形式上外見上は「民族学校」のように見えるかもしれない。しかしそれは錯覚以外の何物でもない。その中身は「金日成・金正日の赤子」を作る「金日成・金正日の学校」なのである。朝鮮総連もそう公言している。丹羽弁護士が朝鮮学校を語るなら、もう少し朝鮮学校の内容を深く研究してからにしてほしい。
 こうした認識不足のために、丹羽弁護士の結論も朝鮮学校を真の民族学校に導こうとするものではなく「朝鮮学校が厳しい弾圧を受けながら、育んできた民族教育の中身は、正しい社会の方向性を示す側面があると思う」(朝鮮新報 2010.8.27)などという驚くべきものとなっている。

*         *         *

 「今回の『無償化』法は、直接子どもに渡すというのが本来の原則」「念を押すようだが、『無償化』は子どもを対象としている」との丹羽弁護士の主張には同意する。現在日本の一部民族排他主義的右翼は、「朝鮮高級学校無償化に反対する」として、生徒の「受給権」までも否定しようとしているがこれは正しくない。
 生徒がどの学校で学ぶかは生徒の権利である。「学ぶ権利」の公平性は保たれなければならない。問題は生徒に給付することにあるのではなく、朝鮮学校という独裁国家の教育施設に給付金を任せることにある。
 もちろん朝鮮学校で学ぶ生徒の一部が朝鮮総連の幹部となり、金正日の手先のように成り下がていることで日本国民から不信をかこっている点は考慮されるべきだ。特に拉致被害者の感情を無視することはできない。しかし金正日の手先にならない生徒も多数いる。この点も考慮されなければならない。
 日本政府が民族差別という国際世論の非難を避けながら、同時に朝鮮学校に対する日本国民の不信感にも配慮して「朝鮮学校無償化問題」を解決する方法は、生徒に「給付金」を直接渡す道以外にはない。法律では学校を通じて給付するとなっているが、本国と外交関係もなく日本国民からの反発も多い現在の朝鮮学校を当面(教育が正常な民族教育となるまで)別途扱いしても、それは差別とはいえないであろう。
 最後にもう一度言う。朝鮮高級学校無償化問題の結論を急ぐ必要はない。この際朝鮮学校を徹底的に研究し、日本にとっても在日朝鮮人の未来にとってもプラスになる朝鮮学校を作り上げていくべきだ。

 *丹羽雅雄弁護士
 1948年愛知県生まれ。現在、大阪弁護士会人権擁護委員会、すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(RINK)代表。
 鄭商根(旧軍属)戦後補償裁判、裴健一入居差別裁判、在日地方参政権訴訟、フィリピン母娘退去強制処分取消訴訟、嘉手納爆音訴訟弁護団などマイノリティーの人権や平和問題等に取り組み現在に至る(多民族共生人権教育センター、2001年より)。

 
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