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今週のニュース

国民の期待に答えられない李明博政権

南北関係研究室

2008.6.8

 韓国の李明博政権が米国産牛肉問題で右往左往している。大統領の現在の支持率は歴代最低だ。主要メディアが2日報じた世論調査によると、就任直後52.0%(3月2日、韓国ギャラップ社調べ)だった支持率は19.7%(中央日報)から22.9%(東亜日報)の間をさまよっている。就任100日でこの状況ではリーダーシップを発揮するどころではない。

1、国民との根回しが足りなかった対米牛肉交渉

 支持率下落の最大の理由は、米国産牛肉輸入再開をめぐる対応への国民の不信だ。4月中旬の韓米首脳会談直前に妥結した牛肉交渉で、米側が牛肉問題を米韓FTA批准の条件としていたため韓国側が譲歩したことが原因である。
  とくに市場開放の対象に牛海綿状脳症(BSE)の危険性が指摘される生後30カ月以上の牛を一部含めたのが決定的だった。これが左派系団体による政府攻撃の格好の標的となっている。反政府デモは1ヶ月以上も続いている。
  こうした状況を沈静化させようと李明博大統領は6月3日、韓国政府が米国に月齢30カ月以上の牛肉輸出中断を要請したことについて述べ、国民が心配し多数の国民が望んでいる限り当然のことだとの認識を示した。また、就任100日を迎えるに当たり本来は自ら祝うべき日だが自省すべき点が多いと述べ、「わたしたちが国民の目線を分からなかった部分は少なくない。きょうを機会に新たに始めるという心情で働いてほしい」と呼びかけた。顕忠日を迎えた6日も李明博大統領は追悼行事でのあいさつを通じ、「危機克服に向けた団結」というメッセージを国民に伝えた。
  だが、政府間で妥結した輸入再開を覆すことは現実には困難だ。李大統領も宗教指導者との会談でそのことを訴え、自主規制方式でも30ヶ月以上の米国産牛肉の輸入を阻止できると話した。これは輸出国の業者が特定の条件や数量を自主的に調整するもので、反ダンピングや相殺関税措置のような通商摩擦を避けるための手段として用いられる方法である。過去にも鉄鋼輸出などで類似ケースがあった。
  韓国の当局者は3日、米国の大手畜産業者が30カ月以上の牛肉を輸出しない立場を表明したと聞いていると述べ、牛肉の全輸出量中30カ月以上の牛肉は5%にすぎず、そのために95%を放棄したりしないとの見解を示している。米ホワイトハウスも韓国政府の要請を受け、懸念解消に向け協力を続ける姿勢を示した。プラート報道官は3日、「韓国政府の計画が何であるかを把握するため対話している。われわれの懸念を解消するため米国の業界と韓国政府側との協力を続けていく」と明らかにした。
  しかしこうした「解決策」で国民が納得するかどうかは分からない。牛肉問題が6月中続けば、7月に予定されているブッシュ大統領の韓国訪問にも影響が出るだろう。そうなればなんとか良好になりつつある米国との関係まで再び悪化することとなり李明博大統領は何のための訪米だったのかも問われることになる。
  この問題が収束しない限り「非核開放3000」の対北朝鮮政策も推進力を失う可能性がある。韓国国民が李明博氏を大統領に選んだのは、その人柄に全幅的信頼を置いていたからではなく経済再生と親北左派政権に対する批判からだった。しかし経済大統領が経済でミスを犯し北朝鮮側に大量得点を与えている格好だ。

2、早くも大統領府刷新と内閣改造へ

 この煽りを食って4日に全国52選挙区で行われた再・補欠選挙で、ハンナラ党は地方自治体首長を選ぶ9選挙区(6選挙区で公認候補を立てた)うち当選者を出せたのは慶尚北道・清道だけだった。ソウル・江東、仁川・西区、京畿・抱川の首都圏3選挙区と、地盤である嶺南(慶尚道)2選挙区でも敗北を喫している。一方、統合民主党も9選挙区のうち3選挙区で当選者を出すにとどまり大勝利とまでは行かなかったが、無所属候補が5選挙区で勝利し突風を巻き起こした(投票率は23・2%と過去2番目の低さ)。
  6月2日に大統領府の柳佑益(リュ・ウイク)大統領室長と各首席秘書官が、一斉に辞意を表明していたが、この選挙結果を受けて柳佑益大統領室長と大統領府の首席秘書官6人全員の計7人が6日、李明博大統領に辞意を伝えた。大統領が一括受理するかどうかは不明だ。柳室長は6月2日の辞意表明時、「一生懸命やってきたが、評価があまりにも低い。先頭に立つものとして申し訳ない。個人的にはいつでも、すべての責任を取るという考えでやってきたし、それは今も変わらない」とした上で、「国民の批判や抗議デモが続くという状況には戸惑いも大きく、そう簡単に受け入れられないと思われるかもしれないが、正しい批判は謙虚に受け止めなければならない」と述べた。
  しかし鄭雲天農林水産食品相ら関係閣僚の更迭は確実な情勢で、韓昇洙(ハン・スンス)首相が辞任するとの観測も出ている。韓昇洙首相や各省庁の長官らも3日の国務会議(日本の閣議に相当)で辞意を表明する方向で検討していたことが分かった。韓首相は3日、政府中央庁舎(ソウル・世宗路)で行われた拡大幹部会議で、「各省庁を統括し、内閣全体に責任を持つ首相として、最近の一連の事態に対する責任を痛感している」と語った。李大統領は就任わずか3カ月で大幅な人事刷新に追い込まれる事態となっている。
  東亜日報はこうした大統領府と閣僚の無能力について、「李大統領は再スタートする覚悟で、権力の上層部を大々的に更迭しなければならない。大統領を補佐し、国政を取り仕切る人々が、これまで何をしていてこのような状況になったのか。地位に酔って本分を忘れたか、能力がなくて事態を適時に収拾できなかったためではないか。韓昇洙首相をはじめとする全閣僚と大統領府の大統領室長や首席秘書官たちは、今からでも辞表を提出し、大統領が国民に責任を負えるように道を開かなければならない。彼らに責任を問うのは、ただ民心を収拾するためだけではない。危機を乗り越えたとしても、今のような政府と大統領府陣容では、国政をまともに行なえる保障がないためだ。国民の目の高さに合わない道徳的不適格者と無能力者、機嫌取りを間引きしなければ、離れた民心は戻ってこない」(2008・6・2)と痛烈に批判した。

3、「独善」の是正を求める韓国国民

 大統領就任後、閣僚の人選からつまずいた李明博大統領であるが、これといった政策を実践する前に早くも大きな挫折を味わっている。いま韓国ではそのアマチュア度を揶揄して左の盧武鉉右の李明博と言っている。
  朝鮮日報と韓国ギャラップ社が5月31日に共同で世論調査を行った結果によれば、李大統領の政治姿勢を国民は「独善」と見ている。それは国民の意思を「あまり反映していない」(40.5%)と「全く反映していない」(35.0%)を合わせたマイナス評価が75.5%となったことに現われた。「よく反映している」(4.8%)と「ある程度反映している」(14・99%)を合わせたプラス評価はわずか19.7%に過ぎなかった。CEO大統領の「独善という悪癖」を直せと国民は要求しているのである。この点を「改善」しない限り李明博大統領の前途は厳しい。
  青瓦台(チョンワデ、大統領府)は、米国産牛肉輸入反対の声が高まる中で朝鮮半島大運河建設事業も一旦保留することにしたという。大運河を押し通した場合、牛肉交渉で悪化した世論をさらに悪化させるからだ。最近の「ろうそく集会」では、大運河に反対すると主張するスローガンも叫ばれはじめている。しかし「いったん保留」であって「完全な白紙化」ではないことから、大運河をめぐる議論は今後も続くものと見られる。
  国土部は最近、傘下機関の建設技術研究院のキム・イテ研究員が「国土部から大運河事業反対論の対応策を用意しろといわれた」と口外したことで非難されたことを契機に大運河問題を真っ向から突破するという方針を固め、今月末に民間から提案書が提出されれば、運河の実体を公開する計画だったという。しかしこうした強行突破の姿勢が批判の対象になっていることを李大統領は知らなければならない。

4、李明博大統領は保守からも見放されつつある

 現在の事態に対して金大中・盧武鉉親北朝鮮政権に批判的であった識者はどのように見ているのだろうか。
  李ドンボク北朝鮮民主化フォーラム常任代表は3日 「国家正常化推進委員会」(委員長コ・ヨンジュ前ソウル南部地検長)出奔記念セミナーで 「2007年大統領選挙結果は ‘政権交代’、‘左派退出’、‘失くした10年’ という3つの政権交代意義があったが、いつの間にか李明博大統領の言葉から‘左派退出’と言う言葉は消えた」と語った。彼はまた「540万差という有権者の選択は、国家のアイデンティティ、すなわち左派を下ろし右派を浮上させようとする期待と所望があってのことだった」と 述べ「経済政策一つだけで成功的な大統領になることは不可能だ」と忠告した。
  高ヨンジュ委員長は「国家正常化推進委員会」スタートの背景を明らかにしながら 「政権交代 100日が過ぎた現在も政界、官界、社会、文化界などの社会のすべての分野に侵透した左翼勢力はそのまま温存されているのに比べ、政府、与党はいまだに政権交代の意義をまともに認識することができないでいる」と述べた。
  また「米国牛肉輸入反対名目で進められている『ろうそくデモ』は全教組など左翼勢力が学生たちを民衆革命にかきたてるためのウォーミングアップ段階」と指摘しながら、この状況は「大学街で政治闘争、理念闘争を行なう前に登録料引き上げ反対など無色無臭のテーマで動員力量を試験稼動していることと等しい戦術だ」と分析した。
  柳グンイル前朝鮮日報主筆はこの日の激励辞で 「李明博政権は選挙で得た 500余万票の差を自分が汗を流して得たと錯覚している」と述べ「今後李明博政権がどうにかこうにか運営されるかは分からないが、支持勢力からも支持を受けることができなくなったことから見て、厳しい見方だが権威という側面では李明博大統領は終わったと思う」と付け加えた。
  こうした批判は李明博大統領への保守支持層の離反を意味している。それは世論調査の結果をみても明らかだ。東亜日報と世論調査機関であるコリアリサーチセンター(KRC)が、5月31日に実施した世論調査の結果での政党支持率はハンナラ党(36.5%)、統合民主党(16.8%)、親朴連帯(8.5%)、民主労働党(8.4%)、創造韓国党(5.3%)、自由先進党(4.1%)、進歩新党(3.6%)の順となっている。大統領支持率が20%まで急落したにも関わらずハンナラ党、親朴連帯、自由先進党を合わせた保守の支持率は49%もあるのだ。いかに保守層の離反が激しいかがわかる。
  「狂牛病」騒動で保守陣営は割れたままだ。すでに李会昌の「自由先進党」は「統一民主党」と共同歩調をとって「18代国会」の開会を阻止している。この保守の分裂をチャンスととらえている全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、米国産牛肉輸入阻止「ろうそくデモ」に便乗して、早ければ16日にもゼネストに突入する態勢だ。李大統領がこの事態を収拾できなければ、親北朝鮮勢力はますます攻勢を強めるだろう。
  「理念なき折衷主義」や「経済実利の追求」だけでは今の苦境を乗り切ることは出来ない。韓国国民は「確固たる理念」に裏打ちされた「経済実利」を求めている。

以上

 
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