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本格的選挙戦に突入した韓国大統領選挙

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2007.12.02

 韓国第17代大統領選挙に出馬する候補者の登録受け付けが11月26日午後5時をもって終了し、25日からの2日間の受け付けで過去最多の12人が登録した。これまでは1987年の第13代、1992年の第14代選挙がそれぞれ8人で最多記録だった。
 登録初日の25日には大統合民主新党の鄭東泳(チョン・ドンヨン)氏、ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)氏、民主労働党の権永吉(クォン・ヨンギル)氏、民主党の李仁済(イ・インジェ)氏、国民中心党の沈大平(シム・デピョン)氏、創造韓国党の文国現(ムン・グクヒョン)氏、真の主人連合の鄭根謨(チョン・グンモ)氏、新時代真の人連合の全寛(チョン・グァン)氏、韓国社会党の琴民(クム・ミン)氏の9人が、26日には無所属の李会昌(イ・フェチャン)氏、和合と跳躍に向けた国民連帯(国民連帯)の李寿成(イ・スソン)氏、経済共和党の許京寧(ホ・ギョンヨン)氏の3人が登録した。
 選挙法によって12月1日以降の党候補の変更はできなくなっているため、これで候補者が確定したことになる。もちろん辞退は可能だ。
 登録直前の11月18日に実施された朝鮮日報世論調査によると、主要3候補の支持率は李明博氏が387%、李会昌氏184%、鄭東泳氏131%となっている。鄭氏は候補一本化を目指してきたが結局失敗した。候補一本化を拒否した創造韓国党の文国現候補は6.6%、民主党の李仁済候補は1.7%となっている。

1、思い通りに効果を出せない「北風」

 10月初の南北首脳会談によるテコ入れにもかかわらず、韓国の大統領選挙は引き続き旧与党系候補の劣勢が続いている。11月14日の「南北首相会談」や27日からの「南北国防相会談」も「平和体制構築ムード」の盛り上げにさほど寄与しなかった。盧武鉉政権と金正日政権が仕掛けた「北風」は今のところ吹いていない。むしろ見え見えの選挙介入によって韓国民の反発すら買っている有様だ。
 また李会昌候補がハンナラ党を離党し無所属で立候補したため北朝鮮の保守候補非難も分散を余儀なくされた。金正日政権がなんとしてでも阻止したいのは李会昌政権の登場だ。
 李明博候補への攻撃が李会昌候補によってさえぎられる現象も起こっている。

金正日総書記、金養建統一戦線部長を急きょ派遣

 こうした状況を見かねたのか北朝鮮の対韓工作総括者である金養建(キム・ヤンゴン)統一戦線部長(69)が、韓国国家情報院の招きで11月29日から2泊3日の日程でソウルを急きょ訪問した。金養建部長の訪韓は、統一戦線部長としては2000年9月に金正日総書記の特使として訪韓した当時の金容淳(キム・ヨンスン)労働党書記兼統一戦線部長(03年死亡)につぐ二人目だ。
 金部長は、29日の京機道仁川に続き30日午前には慶尚南道・巨済の大宇造船所などを訪れた後、ソウルに戻り青瓦台(大統領府)を表敬訪問して盧大統領と50分にわたり面談した。
 この訪問について李在禎統一部長官は11月28日、ソウルの南北会談本部で記者会見し「金養建部長ら北朝鮮側代表5人は南北首脳宣言の履行を中間評価し、経済協力事業推進に必要な(韓国側の)現場を視察するため」と述べた。
 しかし、大統領選まであと20日という時点で、「対南工作の総責任者」の金部長がソウルを訪れる本当の理由については、▲韓国内の大統領選状況調査と分析▲南北首脳会談合意のかけ込み実施の促進▲民族共助路線定着のための金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長の訪韓準備などが上げられる。韓国政府消息筋が30日に明らかにしたところによると、金永南訪韓については来月19日の大統領選挙後、次期大統領が就任する来年2月25日以前の適切な時期に実施する意向だという。
 金部長の報告を受けた金正日総書記が、どのような手を打ってくるかが注目される。

共同漁労水域問題でも思惑はずれ

 大統領選挙での与党系スローガンである「南北平和体制」盛り上げと「かけ込み合意」のために、10月14日の「南北首相会談」に続き推進された「南北国防相会談」は、平壌市内の松田閣招待所で27日から3日間にわたり行われた。この会談で南北軍代表は、経済協力事業の軍事的保障と軍事的信頼措置を話し合うための軍事共同委員会の設置に合意し、第3回国防相会談を来年ソウルで開催することを決めた。
 しかし、今回の会談で最大の争点となっていたNLL(北方限界線)の共同漁労水域問題では、設置場所と基準をめぐる意見の溝を最後まで埋めることができず、追って将官級軍事会談を開き協議を続けていくことにし、7項目の共同合意文を採択して会談を終了した。
 共同漁労区域について、南側はNLLを基準線とし、南北がまったく同じ面積の海となるようにする「等面積の原則」を強調した。しかし北側はNLLを認めず、NLL以南の韓国海域に共同漁労区域を設定しようと主張した。結局、NLLは軍事共同委員会を開いて軍事的信頼措置とともに論議することになったのである。
この会談結果は、盧武鉉大統領の焦りにつけ込んで一気にNLLの無力化を狙った北朝鮮の思惑が外れたものであり、与党候補に送る「平和の北風」が不発に終わったことを意味する。
 金正日政権の「選挙介入」が次々と不調に終わる中で、李会昌氏の脱党立候補という分裂騒動があったものの韓国大統領選挙は依然としてハンナラ党李明博候補有利に進んでいる。

2、候補者の絞込みに入った有権者

 大統領候補者が確定したことで韓国民の選択基準も絞られ始めた。
 現在韓国の国民は不正疑惑を重視するか、それとも経済生活を重視するかの選択で動いているようだ。そうした中で多くの国民は経済生活重視に傾いている。
 最近の韓国経済研究機関調査によると、盧武鉉政権の経済指標は歴代政権で「最低水準」となっている。特に就業者と内需の増加率は過去の半分以下に下落した。不動産バブルなどを背景に貧富の差拡大も顕著で、統計庁の調査によると貧富の格差について「不公平」と感じる国民は77%に上っている。今年の大卒者約25万人のうち、正社員として就職できたのは約48%に過ぎない。
 こうしたことからソウル大、延世大、高麗大、梨花女子大など首都圏7大学の大学新聞が10月中旬に行った意識調査では、学生の保守化が顕著だった。約48%が野党ハンナラ党・李明博候補を支持している。「自分は保守的」と答えた学生は35%で、ソウル大では40%にのぼった。前回選挙(2002年)時の調査で「保守的」と答えた学生が17%にすぎなかったことを考えると変化が著しい。
 この流れに苛立つ与党勢力は国民を罵倒する発言を始めた。大統合民主新党の金槿泰(キム・グンテ)共同選対委員長は10月26日、ハンナラ党の李明博候補が各種不正疑惑にもかかわらず高い支持率を維持している現象を取り上げ、「韓国国民はボケてしまったのではないか、心配だ」と述べた。李海チャン(イ・へチャン)共同選対委員長は、「李候補が大統領になれば、大韓民国は偽物になり、有権者も偽物好きの偽物になる」と述べ、孫鶴圭共同選対委員長は、「うそに明け暮れる人が支持率1位の候補になるとは、実におかしな国だ」と主張した。
 陰で与党を指揮する金大中前大統領も10月22日、ソウル・汝矣島のホテルで、小説家のファン・ソギョン氏やソウル大の白楽晴(ペク・ナクチョン)名誉教授などの親北朝鮮派文化人・芸術家らが主催した行事に出席し、「今回の大統領選で、この10年間を“失われた10年”などといって否定し、それ以前の時代に戻ろうという政権が誕生すれば、わが民族の将来と運命は自ずと決まってくる。まかり間違えば戦争への道に進みかねない」と述べた。「保守が政権を握れば戦争が起こる」との主張は北朝鮮が選挙介入するときの常套句だが、金大中前大統領はそれと全く同じ発言を行なっているのだ。
 なりふりかまわぬ与野党陣営のネガティブキャンペーンが展開される中で有権者による候補者確定は粛々と進んでいる。
 中央日報の世論調査「ジョインス風向計」が、11月28日「支持候補を決めたか」などを調べる世論調査を行なったところ「すでに支持候補を決めた」との回答が545に達した。これは、その前の週(46.7%)に比べ、およそ7.8.%も上昇した数字だ。昨年以降ジョインス風向計が実施した世論調査で「支持候補決定率」が50%台を突破したのは今回で2度目となる。もちろん支持候補確定の有権者が増えたのは、大統領選候補の登録が終了したことも関係している。
 この調査で注目すべきは、伝統的に一人の候補に「集中的に投票する」傾向にあった光州・全羅地域の有権者らの相当数が、浮動層として残っていることだ。
 「すでに支持候補を決めた」との回答の内訳を見ると、30代(61.7%)、50代以上(60.7%)、自営業者(64.7%)、ソウル地域の居住者(62.1%)となっており、政治的には保守志向の人々(61%)、旧与党系・大統合民主新党の支持者(64.4%)、ハンナラ党の支持者(69.6%)、李明博候補の支持者(75.6%)、民主新党・鄭東泳候補の支持者(66.8%)などとなっている。
 「まだ支持候補を決めていない」との回答は、19〜29歳(65.2%)、学生(67.2%)、光州・全羅地域の居住者(57.8%)または出身者(55%)などで相対的に多い。
 一方、投票意思については「積極的に投票」は77.4%で、他方「多分投票するだろう」との回答は13.5%で「それほど投票する考えがない」が5.7%だった。

3、BBK問題が大統領選挙の帰趨を決める

 韓国の公職選挙法第51条は、大統領候補が死去する場合に限って、党候補を追加登録できるよう定めているが、それは候補登録締切日以降の5日(12月1日)以前までとなっている。
 こうしたことから今最も注目されているのが李明博氏の疑惑に絡んだ投資顧問会社BBK問題(金ギョンジュン株価操作・金融詐欺事件)の成り行きだ。この問題で李明博氏が「黒」となれば李明博候補とハンナラ党は決定的ダメージを受ける。そうなれば12月1日以降候補者を変えられないハンナラ党にとっては敗北が決定したのも同然だ。
 このBBK関連疑惑を捜査中のソウル中央地検特別捜査チームは1128日、契約書の印鑑が金融監督院提出書類に捺印された李候補の印鑑と同じものだという暫定結論を下した。これは、2000年2月に取り交わされたBBK株式持分売却のハングル契約書の印鑑と、同年6月、李候補が金融監督院に提出したBBKの資金調達方法確認書の印鑑が一致するという最高検察庁文書鑑定室の鑑定結果を受けてのものだ。
 これまで大統合民主新党は「ハングル契約書と金融監督院公式文書の印鑑は同じもの」と主張し、ハンナラ党は「キム容疑者の夫人ボラさんがLKeバンクに保管されていた李候補の印鑑を偽造した」と主張してきたのだが、検察の鑑定結果は大統合民主新党の主張と一致するものだった。
 しかし、契約書の印鑑が李候補の物だとしても、契約書そのものの真贋についてはまだ結論が出ていない。 検察は今後、契約書作成時期、李候補が金容疑者に印鑑を委任した経緯、売却代金の授受などに捜査の焦点を当てるものと思われる。
 この捜査結果を待ち望んでいるのは、与党勢力だけではない。李候補とハンナラ党にとっても切実だ。国民世論の動向はもちろん、朴槿恵(パク・クネ)前代表の応援を得るにはこの問題に対する「決着」が必要だからだ。このBBK問題の捜査結果は、12月5日前後に発表される予定だ。
 朴槿恵氏の李明博候補に対するサポート次第によっては大統領選の状況が変わりうる。 それは、朴氏が11月12日「李会昌氏の大統領選出馬は正道ではない」とし李明博氏を支える発言をした後、李会昌氏の支持率が落ちたことからも明らかだ。
 しかし朴氏はこの発言以降、特段に李明博氏への支援を行っていない。11月21日のハンナラ党創党第10周年記念式典にも出席せず、党内に再び懸念する声が広がったのもそのためだ。「公式の選挙運動がスタートしてこそ何かの役割が考えられる」との反応を見せ慎重姿勢を見せていた朴槿恵氏だが、1030日午前、全羅南道務安郡で、「李明博候補に機会をもらえるなら活力あふれる国をつくる」と李明博候補の応援遊説に踏み切った。
 来年4月に行なわれる国会議員総選挙とハンナラ党内の影響力確保を考えた時、この辺で李明博候補支持を明確にしておくのが得策と考えたのかもしれない。またBBK事件が李明博候補に決定的ダメージを与えないだろうと分析した可能性もある。

 以上の状況から判断すれば、BBK関連疑惑で李明博候補に決定的に不利な結果が出ない限り、これまでの流れに大きな変動はないものと思われる。突発的事態が起こらない限り残る変数はBBK問題だけだ。しかし一国の大統領選挙が「政策」ではなく、「詐欺事件」と「詐欺師」の動向に左右されるとは情けない。

                                以上

 
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