hedder
headder space1 headder space2 トップページ サイトマップ
HOME  >  デイリーNKニュース  >  今週のニュース
北朝鮮研究
南北関係研究
在日社会研究
在日経済研究
朝日・韓日研究
朝米研究
民主主義研究
コラム
資料室
研究所紹介
 

今週のニュース

韓国大統領選に新たな変数

南北関係研究室

2007.11.12

 韓国第17代大統領選挙を42日後に、候補登録を18日後にひかえた11月7日、李会昌(イ・フェチャン)ハンナラ党元総裁がハンナラ党を離党して無所属での立候補を表明した。李明博(イ・ミョンバク)候補勝利が見え始めていた矢先の出来事にハンナラ党は大きく揺れ動いている。

    * 李会昌氏は判事出身。46歳で史上最年少の最高裁判事になり、金泳三(キム・ヨンサム)政権で政治家や官僚の不正追及に手腕を発揮し、首相として政界に転身した。新韓国党を現在のハンナラ党として再出発させた本人だが、1997年の大統領選では金大中(キム・デジュン)氏、2002年は盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏に敗北。また前回の大統領選挙で運んできた不正資金を車ごと持ち去ったとして「車ごと」大統領候補とも言われた。
 李元総裁は同日、出馬の記者会見で「政権交替という大義のために身を捨てる」という表現で、終盤での李候補との候補一本化への可能性を残したが一本化の成否は未知数だ。
 直近の世論調査では、李明博候補の支持率が40%弱の水準に下落し、李会昌ハンナラ党元総裁の支持率は与党系の鄭東泳候補よりも高い20%強に達している。韓国政界の一部では、李明博候補と李会昌元総裁がそれぞれ1、2位を占める構図が続いた場合、汎与党圏の候補一本化に関係なく、両候補が最後まで大統領選挙を完走し、来年4月の総選挙に先立ち、「伝統保守」対「穏健保守」で政界再編が行われるだろうとの見方もある。

    * 中央(チュンアン)日報・調査研究チームが11月5日、全国の満19歳以上の男女1050人を対象に行なった世論調査の結果、ハンナラ党の党公認候補・李明博氏が38.5%、李前総裁が20.8%、旧与党系・大統合民主新党の同公認候補・鄭東泳氏が12.3%だった。

 しかし、12月19日の投票日までに、現在の候補のうち誰が最終的に候補登録をするかは不透明な点もあり今後どのようなハプニングが出てくるかは予測しがたい。

1、李会昌ハンナラ党元総裁の記者会見内容

 李元総裁は7日午後2時から事務所のある南大門路(ナムデムンロ)タンアムビルで記者会見を行い、国民向けメッセージを発表した。
 李元総裁は前回の大統領選での敗北を受け、国民に謝罪し政界を引退した自身がその約束を守れなかったと謝罪した上で、「今この瞬間、わたしの人生において最も凄絶で悲壮な思いでここに立っている」と強調した。このままでは韓国に未来はないと述べ、政権交代を誓った。
 公約としては、憲法改正を含む果敢な政治改革、権力構造の改編、対北朝鮮政策及び外交政策の根本的な再定立、国家綱紀の樹立、温かい市場経済を掲げた。
 ハンナラ党公認の李明博候補について、李元総裁は「ハンナラ党候補が政権交代という国民の熱望に応えてくれることを心から願っていたが、党内選挙過程やその後の状況を見守るなかで、そうした期待を放棄せざるを得なかった」と明らかにした。そして真に正直で法と原則を尊重する指導者だけが国民の信頼を得て、国民の力を集めることができるとし、「だれにでも過ちはあるものだが、それを正直に認める精神と勇気があれば国民は信頼してくれる。しかし、今の国民はハンナラ党候補に対し大変な不安感を抱いている」と指摘した。
 また、政権交代さえ実現できれば大統領には誰がなっても国は自然と正しい方向に進むと考えている人もいるが、そうした考えは幻想であり、危険な考えだと主張。国家のアイデンティティに対する明確な信念と哲学が重要であり、それなくしては危機に直面した大韓民国を救うことはできないと強く述べ、これについてハンナラ党候補の態度はきわめて不明瞭なものだったと批判した。
 北朝鮮の核実験により失敗が明らかな太陽政策固守という対北朝鮮観も曖昧なものだとし、こうした態度では北朝鮮の核による危機を防ぐことも、朝鮮半島の真の平和定着も期待できないとの認識を示し、そうした考えが、自身が出馬を決意した根本的な理由だと明らかにした。
 最後に李元総裁は、「いかなる場合にも、政権交代という全国民の願望を挫折させることだけは決してないことを固く約束する」とした後「万が一、私が選んだ道が正しくないという国民の判断が明らかになる場合、私はいつでも国民の意を受け入れ、決断を下す考え」と語り李候補との候補一本化の可能性を残した。

2、猛烈に反発するハンナラ党指導部、非難する青瓦台とマスコミ

 李会昌ハンナラ党元総裁が7日に離党と大統領選出馬を正式に宣言したことを受け、ハンナラ党指導部は憤怒をあらわにした。これまで慎重な姿勢を見せていた党指導部も、「今からでも誤った決定を撤回し、李明博候補の当選に向け努力してほしい」と要請している。
 ハンナラ党は李元総裁の会見直後、緊急最高委員会を召集した。姜在渉(カン・ジェソプ)代表はこの席で、李元総裁の出馬は政治道義も原則もなく、党につばを吐く行為だと強く批判した。状況をマラソンに例え「ランナーがほぼ走り終えフィールドに戻ってきたところに入り込みゴールのテープを切ろうというのは、一言で『割り込み』。裏切り行為であり反則だ」と指摘した。
 安商守(アン・サンス)院内代表も、「ハンナラ党に政権交代してほしいという国民の願いを壊したことに悲痛な思いを禁じえない。歴史の針を過去に戻す行為だ」と述べている。羅卿ウォン(ナ・ギョンウォン)報道官は論評を通じ、「李元総裁の出馬は厳然たる党内選挙に不服を示したものであり、政党政治と民主手順をないがしろにする違法、変則行為だ」と主張した。
 ハンナラ党は今後、李元総裁の出馬の不当性を訴える特別党報を製作するなど、国民向けの広報戦を展開する方針だ。また顧問団中心の抗議訪問団を派遣するほか、党員協議会や市・道単位別の記者会見、糾弾大会の開催も推進するとしている。さらに、2002年の大統領選当時に問題として取り上げられた李元総裁の資金処理疑惑を暴露することで、李元総裁の不道徳性を指摘していく戦略だ。

 一方青瓦台は7日、李会昌ハンナラ党元総裁が大統領選への出馬を正式に宣言したことに対し、「これまで2度の選挙での失敗は、単なる敗北ではなく道徳的な審判を受けたもの」と強い語調で批判を加えた。
 千晧宣(チョン・ホソン)報道官は定例会見で、李元総裁が選挙後も重大な道徳的問題が提起されたにもかかわらず再び出馬することは、国民を無視し冒涜することだという考えを示した。李元総裁の息子の兵役問題や選挙資金の授受問題などには言及しなかったものの、李元総裁が道徳的な問題のために選挙で敗北したのはほぼ異議のない評価だとしている。大統領選を取り巻く政界の状況を、政治の原則と大義を見失ったものとも主張した。しかし青瓦台の本音は、ハンナラ党の分裂を歓迎している。

 マスメディアも一斉に非難している。特に東亜日報の論調が厳しい。東亜日報は11月8日、「老欲の誤った判断 」という社説を掲げ「李元総裁は5年前、2度目の大統領選挙の挑戦にも敗れただけでなく、ハンナラ党に『不法選挙資金党』の汚名を着せた。その後、ハンナラ党はテントの党本部に移って国民に許しをこい、『補修する保守』になるために改革し、美しい党内選挙ドラマまで成功させて、多くの国民から『唯一合法の政権交代勢力』と認められるようになった。そんなハンナラ党に対して李元総裁は、『だれが大統領になっても国は自然に正しくなるという考えは幻想だ』と叫んだ。李明博候補の正統性を無力化しようとする発言であり、クーデター的発想に相違ない」と李元総裁を強く非難した。
 左派系マスコミは勿論、朝鮮日報など主要マスコミも李元総裁の立候補に非難の論調を高めている。
 北朝鮮のメデイアも李会昌ハンナラ党元総裁の大統領選挙出馬宣言に対して非難した。8日付平壌新聞は3面で、「政治XXのつまらない夢」という題の記事を載せ、李会昌元総裁の大統領選挙の出馬を罵倒した。北朝鮮は李元総裁に対する支持率が一気に2位となったことに対して大きな危機感を持ったようだ。

3、李元総裁立候補の背景と今後の展望

 では今回李会昌氏が立候補に踏み切った背景には何があるのか。

 まずあげられるのは、李明博候補陣営の権力独占傾向である。
 接戦の末党内選挙で朴槿恵前代表陣営に勝利した李明博候補陣営は、朴槿恵陣営の参謀たちを包摂し和解を進めるというよりも、権力独占の方向に動いている。一部では李明博候補が大統領になれば、新党を結成し朴槿恵陣営を排除するのではないかとの情報もある。
 こうしたこともあって李候補は11月3日夜、光化門(クァンファムン)の韓国料理屋にハンナラ党の最高委員を集合させた。親朴派の金学元(キム・ハクウォン)、金武星(キム・ムソン)両最高委員と親李派の李在五最高委員も出席した。この席で李候補は、「いまだ党内に李明博を認めない勢力がある。座視しない」という発言で朴前代表を怒らせた李在五最高委員に、「朴前代表に仕えるように」と注文した。
 しかし朴前代表は5日、「私が政治発展のために党内選挙で承服までしたのに、党がなぜこのようになってしまったのか」と話した。その言葉の中には、李明博候補に対する不満と恨みが滲んでいる。多くの人々は、李明博陣営が朴前代表陣営を吸収合併の不良対象企業でもあるかのように扱い、わずかばかりの分け前で取り込もうとしていると考えている。
 李明博候補は8日に最側近の李在五最高委員を党職から辞職させ、朴槿恵前代表の怒りを静めようとしているが、手を打つのが遅すぎたとの見方が支配的だ。朴前代表は李候補の面談要請を引き続き拒否している。朴前代表は李元総裁の出馬に対して一応非難はしたものの曖昧な対応を行なっているのはこうしたことが背景にある。
 朴槿恵陣営でいま関心が高まっているのは、大統領選挙後の来年4月に行なわれる国会議員選挙である。この選挙で党の公認を得られなければ国会議員職を失う可能性があるからだ。だからこそ朴槿恵陣営は李明博候補陣営の権力独占傾向に神経を尖らせるのである。 
 こうした党内事情が今回の李会昌氏立候補に反映していていることはいうまでもない。それは朴槿恵支持票がそのまま李会昌支持票に移動していることからも伺える。

 次に李明博候補に付きまとう疑惑である。
 李明博氏がらみのいわゆる「BBK株価操作事件」の中心人物であるキム・ギョンジュン(米国名クリストファー・キム、41)氏が11月中旬、米国から韓国に送還される。 投資諮問会社BBKが大株主のベンチャー会社オプショナルベンチャーズの株価を操作した疑いなどで検察の調査を受けた金氏がパスポートを偽造し、2001年12月に米国に逃亡してから約6年ぶりの韓国入りだ。
 韓国法務部は、米国務省が10月30日(現地時間)ロサンゼルスの拘置所に収監されている金氏の身柄を韓国に引き渡すようにという米裁判所の命令を承認した後、駐米韓国大使館を通じて31日午後1時頃に知らせてきたと明らかにした。
 2004年5月、米国現地で逮捕された金氏は2005年10月に韓国への犯罪者引き渡しが決まったが、民事訴訟進行を理由に「人身保護請願」を提出し送還を拒否してきた。しかし、8日に人身保護請願の抗訴審を取り下げた。
 法務部の関係者は「米国側と実務協議を経て金氏の具体的な帰国日程を決めた後、現地に検察捜査官を送るようになる」とし「通常の手続上、今後2週間前後で金氏が帰国するものとみられる」と話した。
 韓国検察は米ロサンゼルス空港で金氏を逮捕し、48時間内に証券取引法の違反などの容疑で逮捕状を請求した後、オプショナルベンチャーズの株価操作と横領の疑い、李明博候補の長兄と妻の弟が大株主である(株)ダースがBBKに190億ウォンを投資した経緯を調査する予定だ。 金氏は、「BBKの株価操作事件」などと関連してソウル中央地検の金融租税調査1部に起訴中止されており、李候補の(株)ダースの借名保有疑惑と関連して、特捜1部の参考人調査も受けなければならない。

 三番目が、李明博氏の実利志向と対北朝鮮政策に対する不信である
李明博氏と李会昌氏の相違点を理念的に見れば、李明博候補が「中道保守」、李会昌候補は「強硬保守」に分類される。リーダーシップにおいても、李明博候補が成果と効率性を重視する実用主義を追求しているのに対し、李会昌候補は原則と所信を重視している。
 両候補の中核支持層も明確に区分される。李明博候補は、中道保守理念を持つ20〜40代の若い層で高い支持率を見せている一方、李会昌候補は強硬保守の50代以上の中壮年層からの支持が多い。地域別では、ソウル市長を務めた李明博候補は首都圏と湖南(全羅道)地方で、李会昌候補は嶺南(慶尚道)地方と出身地の忠清南道で多くの支持を得ている。
 対北朝鮮政策をみても、「北朝鮮が核を廃棄すれば積極的に経済発展を支援する」という太陽政策に近い相互主義を公約に掲げている李明博候補に対し、李会昌候補は北朝鮮との「妥協」を拒否する厳格な相互主義を固守している。
 韓国の伝統的保守層は、李明博候補に付きまとうスキャンダルとともにこうした北朝鮮政策にも不安を感じている。

 最後に、金正日政権によるテロの危険である。
 韓国の選挙法では、大統領選挙の23日前に立候補の届出を締め切るが、それから5日が過ぎると候補者が死亡するなどの突発事故が起こっても、代わりの候補者を立てられなくなっている。
 こうしたことから、その期間に決定的スキャンダルが出てくる不安や、親北朝鮮政権の継続が危うくなった時に金正日政権がテロに出てくる不安が付きまとう。今回李会昌候補が「いかなる場合にも、政権交代という全国民の願望を挫折させることだけは決してないことを固く約束する」としたのは、こうしたことに対する保険としてのニュアンスも含まれているのではないだろうか。

*     *     *

 今後李明博候補と李会昌候補が保守層を分裂させたまま突っ走るのか、それとも一本化で歩み寄るのか予断は許さない。しかし李会昌候補が「いかなる場合にも、政権交代という全国民の願望を挫折させることだけは決してないことを固く約束する」と述べていることからみて分裂による与党政権登場だけは避けると思われる。
 甘い観測かも分らないが、今回の李会昌立候補については、李明博候補の驕(おごり)と対北朝鮮政策への牽制、金正日政権が仕掛ける不測の事態に対する対応などが主要な狙いではないかと考えられる。
 現在の状況では李明博候補有利は動かないだろうが政界は一寸先が闇である。その間に李会昌支持が30%を越える事態にでもなれば様相が一変することもありうる。
 今後李明博候補が朴槿恵陣営の持つ不信感の払拭に努め、李会昌候補との連携を真剣に模索すれば両候補の一本化は可能だと思われる。

                                 以上

 
著作権について

COPYRIGHT©Korea International Institute ALLRIGHT RESERVED.
CONTACT: info@koreaii.com